これまでの、たび。~アイルランド編② Bye bye, Japan.~

前回の続き。
アイルランドにワーホリに行くことを決めたが、出発前から手配をお願いしていた留学会社が倒産するなど前途多難!しかし、幸いにしてなんとか出発できるめどが立ったのだった。

出発した日のことを覚えている。

いろいろ前途多難はあったが、無事ワーホリビザも入手でき、新年度を迎えるタイミングで4年勤めた会社を辞めた。上司に辞めることを伝えたのはお客さんのところに行く電車の中。上司にとっては寝耳に水だったのだろう。話をした後、上の空になっていたのが気がかりだった。それから社内の関係者や同期にも辞めることを伝えた。同僚の先輩から「自分がやりたいと思うことをやることができるのはうらやましい。応援してるよ」と言ってくれたのは嬉しかった。同期も温かく送り出してくれた。いい会社だったな。

会社を辞めて、住んでいた家を引き払った。
住み慣れた一人暮らしの家を引っ越す体験をすること、そして退職するということはこれが人生にとって初めてで。なんだか自分の手元にあったものが一つずつ他人のものになっていくような不思議な感覚を覚えた。寂しいという感覚ともなんか違う、ちょっとずつ空になっていくような、軽くなっていくようなそんな感覚だった。

海外に行くのは初めてではなかったけれど、長期で行くこと、国際線に一人で搭乗することはこれが初めてで、周囲の人には不安な気持ちを隠していたけど、自分の中は不安1,000%だった。不安なことを数えだすときりがなかった。

そんな中で迎えた出発の日。
あの日は兄が車で成田空港まで送ってくれた。ちょうど会社を辞めたばかりの友達も見送りに来てくれた。

セキュリティーゲートを抜け、出国審査ゲートに向かう。その途中、見送りに来てくれた人の顔を見られる最後の場所がある。出国審査ゲートの階に移動する下りのエスカレーターの正面がガラス張りになっていて、出発ロビーにいる人の顔が見られる。兄と友達もそこで最後に見送ってくれた。しかし、自分がちゃんと笑えていたかどうかは自信がない。

長時間フライトを経て、乗り継ぎのヒースロー空港に到着。ここで人生で初めての国際線乗り継ぎ。イギリスとアイルランドは歴史的にも経済的にも深い関わりがあるため、両国間の往来も多いのだろう。アイルランドへの乗り継ぎは、わかりやすい館内表示があったので迷うことはなかった。

乗継便の搭乗ゲートに到着。ここまでくると疲労はMAX。少しでも気を抜くと魂が抜けてしまいそうな苦しい時間をぐっと耐え、ようやく搭乗を予定していた乗継便に乗り込んだ。

飛行機の中ではさすがにうとうとしていたけれど、今でも記憶に鮮明に残っている風景がある。アイルランド上空から見た町の光だ。

日本の夜景はどちらかというと「白い光」が多いと思う。一方、アイルランド含め、多くの欧米の国々では「オレンジ色の光」が多い。町全体がやわらかいオレンジ色の光で溢れていて、とても綺麗だった。

これからこの国で生きていくんだなぁ…。

ようやくアイルランドに到着。神様への祈りが通じて、スーツケースは無事に私と一緒にアイルランドに到着できた。そして入国審査。何を聞かれるのやらと気が気でなかったが、ワーホリのビザとパスポートを提示したところ、幸いにもちゃんと「わかっている」審査官だったため、特に何の質問もなくスルーで通してもらえた。

無事に入国を果たして一安心。そしてもうひと踏ん張り。
到着したのが夜だったため、その日は滞在予定の町まで移動せず、空港の近くのホテルの予約を取っていた。空港からのシャトルバスに乗り、ようやくホテルに到着。

そして試練は訪れる…。

いざチェックインをしようと、意を決してカウンターへ。”Check in Please"と、使い慣れない英語を話してみたところ。どうやら通じたらしかった。が、しかし。カウンターのお兄さんが言っていることが全くわからない。お兄さんも困惑した様子でいたたまれなかった。とりあえずルームキーを受け取り部屋へ。

人心地ついて、ふと我に返った。そしてじわじわと実感がわいてきた。
そして、得も言われぬ不安感に襲われた。

この世界で、たった一人ぼっちになった気持ちだった。

友達も知り合いもいない。自分一人が何も知らない世界に放り出されたような気持ち。
きっと、こんな気持ちになることは、人生に二度とないだろう。今思えばこの気持ちはとても尊い経験だったということがわかる。ただ、その時の自分はそれを客観的に捉える心理的余裕は皆無だった。

これからどうしよう。
そう思いながら、長い一日を終えた。

つづく。

ちはや ふみ

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