ヨーグルトコーヒーへの道 最終話
空港に着いた僕は、出発する飛行機の情報が映し出さられる大型ディスプレイの前に急ぐ。VIET JETのエアラインはどこでチェックインできるのかを確認する。
ここで重要なこととして、決してチェックインを後回しにしてはいけない。
「ヨーグルトコーヒー飲んでたら飛行機乗り過ごしましたー!」
そんな事が起こってはいけない。
すぐにチェックインカウンターを見つけ出し手続きを終える。
パスポートと航空券チケット。
これがセットになって始めて、空港内をウロウロできるのである。
もちろん僕は、いまウロウロするつもりなど毛頭ない。しらみつぶしに、カフェを回らねばならない。
1軒目。見るからにありそうなお店があったので、スタッフさんを呼ぶ。ベトナム語で『ヨーグルトコーヒー』と書かれたスマホを見せる。
答えは、ノーだった。
「これを飲めるところ知りませんか?」
僕は負けじと食い下がる。
「うーーん。」
と考えてすぐ、店員の女性は目の前のカフェを指差した。
キタ。てかあるんだ。
しかしついにこの時が訪れた。
あのー、コンカフェのヨーグルトコーヒーじゃないですけどそれでいいんですか?妥協じゃないんですか?
もし仮にそんな意地悪な質問をしてくる人がいた場合には、ヨーグルトのロックをピッチャーでプレゼントするのでどうぞ前へ。
一度だけでなく二度までも拒絶されてきた僕にとって、コンカフェであるかどうかはもはや重要ではない。
ここまでくると、ハノイでヨーグルトコーヒーを飲むことが悲願なのである。
(ちなみに、日本で飲みたければネットで調べればレシピがでてくるので作ることは可能。ただし飲んだことない場合、できた飲み物が正解なのかを確かめる術はない)
指さされたカフェに行き、スタッフの方にスマホ画面を見せると、オーケーと言い席に案内してくれた。
広々としたテーブルを前に着席する。
勝った。ようやく。
具体的に何に勝ったかわからないし、過去2回は何に負けたのかもわからないけど、勝ちを実感した。
すると届く。
ヨーグルトコーヒー!
ん??
確かにヨーグルトコーヒーだが、写真で見てた感じと違う。かき氷が液面にそびえ立っている。
これは多分、かつて調査している時に見たフローズンヨーグルトコーヒーというやつではないのか。
まあけど、よし。
ヨーグルトとコーヒーが混じり合ってるくらいのところをスプーンで掬い口に入れる。
うーーん、よくわかんない。
少なくとも美味しいとは言えず酸っぱいと甘苦いって感じ。
しかし底の方を食べてみると異常に甘く、最下層部はヨーグルトでなく練乳であることが判明する。
なるほど!!
僕はおもむろに全体を混ぜる。
ひたすら混ぜる。
かき氷部分も、中に入れ込む。
底の練乳も全体に行き渡ることを意識してかき混ぜる。
完成した。これだ。
ヨーグルトコーヒー。
飲んでみると、驚くほど美味しい。
酸味と苦味と甘味が、あり得ないほど美しく調和している。
確かにこれは今までに味わったことのない旨さだ。
僕はこの調和のキーマンが練乳であると理解した。
ヨーグルトと練乳は合う。
コーヒーと練乳は、やったことないけど合わないわけがない。
そう、練乳がヨーグルトとコーヒーの架け橋として機能しまくっているから素晴らしく旨いのだ。
言い換えると、この練乳は潤滑油的な役割を果たしていると表現することもできるかもしれない。
よく就活生が面接で自己PRする際に、「自分は潤滑油のような存在です!なぜなら、、、」というような事をいうと聞いたことがあるけど、本当にそう思うならまずはヨーグルトコーヒーをハノイまで行き飲んで頂きたい。そして、本当にキミは潤滑油のような存在なのか、今一度考えて頂きたい。ここまで絶妙にバランスを取ることはなかなか難しいことだと思う。
少なくとも僕にはヨーグルトとコーヒーの手を繋がせるなんて離れ業はできない。うむ、潤滑油の重要性についても考えさせられる素晴らしい飲料である。
カフェを出た僕は、満足な面持ちで出国手続きに向かう。機内に乗り込み無事席に着くと、自分の身に起きた紆余曲折が自然と思い出される。
兎にも角にも、飲むことができた。
大変美味しかったことはオマケなくらいで、僕にとっては実際に体験できたことがなによりも重要だった。
ヨーグルトとコーヒー。そしてヨーグルトコーヒーに2日間振り回されたお陰で、不思議なことにあれだけ苦手だったコーヒーが少し好きになったような気がしていた。もしかすると、執着と愛情は比例関係にあるのかもしれない。
そんな事を考えているうち、僕を乗せた機体は宙を浮き大空へ飛び立っていく。
ハノイの街を背に、東南アジアの雲に消える。
〜fin~
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