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SOS

ここは、現代から見たらほんのちょっと未来の話。
宇宙船に乗り、銀河を翔ける2人の警察官がいた。
「ザザザ…SOS!!!助けてくれ、至急応援頼む!!!SOS、SOS!!!このままでは…ザザザ…」
突然の救難信号を、宇宙船は受信した。
「向かいましょう、先輩。どこの惑星かはわからないが、人命を見捨てることはできません」
「状況の確認もしたいな。通信では『応援を求む』と言っていたが、我々だけでも向かうことにしよう」

その惑星までは数百光年の距離があったが、警察官たちの宇宙船は警察用の特別車両だ。通信機能はもちろん、走行性能も一級品。そんなことを思い返している間に、その星がコックピットから直接見られる距離までたどり着いた。
「見ている限り、惑星自体は噴火や凍結など大規模な地象は起きていませんね。もしかしたら生き残っている人もいるかもしれません。」
「幸い、惑星のどこから通信が来たかははおおよそ分かっている、まずはそこに着地しよう。」

警察官たちは宇宙船を徐々に惑星に近づけた。惑星にはゴツゴツと何かが衝突したような跡がたくさん存在している。
「おい、見てみろ。あれは墜落したロケットじゃないか?しかも大量に墜落した跡がある。」
「そうですね、やはり異常事態なのではないでしょうか?今のうちに救難信号を出しますか?」
「状況確認が先だ、まずは着陸して人を探す。」



警察官は、惑星の平らな場所に宇宙船を着陸させた。
地表にはゴロゴロと金塊が転がっている。先輩の警官は思わず手頃な大きさの金塊を手に取り、その重さを確かめた。
「比重からして高純度の金とみて間違いないだろう。それにしてもすごい量だ」
「しかし人なんてどこにもいませんよ、あんなに墜落したロケットはあったのに」
新人の警官も、驚きを隠せない。

警官たちは突き刺さるような視線を感じた。恐る恐る、警官たちが周囲を見渡すと、大きな岩の後ろから、全身が毛むくじゃらのサルがうようよと出てきた。大量のサルたちは警官を警戒し、鋭く尖った棒や、石を結び付けた斧のような道具を構えている。
「おい、私たちは…」
先輩警官は新人にひっそりと伝える。
「やめろ。こんな身なりの奴に、俺たちが警察官だなんてわかるわけない」
「それよりも考えてみろ。墜落した宇宙船があんなにあったのに、人が1人もいない。いるのは武器を持ったサルだけ、どういう事か分かるよな?」
「もう人はみんなサルにやられていて…ってことはこのままだと僕たちも…ってことですよね」
「そういうことだ」
警官の2人も極度の緊張から、目は血走り、心臓の鼓動はそのペースを加速させていく。
「宇宙船に戻りましょう」
「・・・」
先輩警官は、金塊を少し見つめてこういった。
「おい、お前は銃を構えて周辺を見張りをしろ。サルが近づかないようにな。」
「お前が猿たちをビビらせてる間に、俺は金を宇宙船に積む。金塊をこれだけ持って帰れば、俺たちは大金持ちだ」

先輩警官は、一心不乱に金塊を転がしては宇宙船に詰め込んでいく。
サルは隙を見せたと思い、警察官たちに近づく。
新人警官は、思わずサルの1匹の足元に威嚇射撃をした。銃撃に怯えたそのサルは完全に足がすくんでしまい、他のサルは驚いて一目散に岩陰に隠れた。
先輩警官は、あっという間に宇宙船に金塊を詰め込んだ。
「おい!早く乗れ!ずらかるぞ!!」
サルは最後のチャンスと言わんばかりに近づく隙を伺っており、新人警官は銃口をサルたちに向けたまま、急いで扉へ向かう。 




「先輩!!宇宙船のドア閉めました!!いつでもOKです!!」
「よくやった!!すぐにエンジンがかかる。こんな星からはおさらばだ!」
宇宙船の出力を最大にし、ジェットエンジンは勢いよく火を噴き離陸した。

数百m過ぎたあたりで、宇宙船内に警報が鳴り響いた。
「重量オーバー、重量オーバー」
いままで聞いたことがない機械音が鳴り響く。
「なんだって!?構わん!!これだけ金を積んでいるとはいえ、打ち上げ軌道に乗れば…」
「重量オーバー、重量オーバー」「最大出力オーバー、最大出力オーバー」「オーバーヒート検知、オーバーヒート検知」「冷却必要性アリ、冷却必要性アリ」
警報はいくつも鳴り響き、ついには徐々に軌道から逸れて急降下し始めた。
「先輩!!緊急脱出です!!やばいですって!!!」
「分かってる!!!その前に救難信号だ!!!SOS!!!助けてくれ、至急応援頼む!!!SOS、SOS!!!このままでは俺たちの船は墜落する!!!」
2人の警察官は、持っていた銃を叩き付けて安全ボタンを守るガラスカバーを割り、緊急ハッチを開けた。パラシュートを起動させ、命からがら宇宙船から脱出した。誰も乗っていない宇宙船は、勢いよく地面に叩き付けられ、爆発してしまった。

2人の警官は、開いたパラシュートに身を任せる。
「なんとか僕たちは生き残りましたね…」
「あぁ…救助が来ればいいが…」
2人は地表に降り立った。身を覆い視界を遮る巨大なパラシュートから出てきて、周囲を見渡した。

「せ、、先輩…」
新人警官が指を向けた先には、あれだけ恐れをなしていた毛むくじゃらのサルが大量にいた。
「しまった…銃は脱出時に…」
サルたちはゆっくりと警官を囲い始める。
警官たちはサルたちが近づいてくるのを感じながら、目を閉じて、覚悟を決めた。



「お二人とも大変でしたね。お怪我はないですか?」
サルの1匹が突然しゃべり始めた。
警官は互いに目を見合わせる。
「なぁに、不思議なことはありませんよ。私たちも今でこそ汚い身なりになっていますが、髪や宇宙服がボロボロになっただけでただの人間です」
「あなた達と同じですよ。私たちも、あるきっかけでこの惑星に降り立ち、金塊を欲張ってロケットに詰め込んだものの、発射時に宇宙船やロケットが重さに耐え消えれず墜落してしまったので、救助が来るまでこうやって集団生活していたんです」
「ま、そのうち救助は来ると思うんで、気長に待ちましょう。幸い水と食料は近くの森にあるのでなんとかなりますよ」
警官は、呆然としながら、遠くの空を見つめている。


ここは、現代から見たらたいぶ未来の話。
ある宇宙船の中に通信が響く。
「ザザザ…SOS!!!助けてくれ、至急応援頼む!!!SOS、SOS!!!このままでは…ザザザ…」





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