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阪神タイガース

阪神タイガース、18年ぶりのリーグ優勝おめでとう。

関西に生まれ、人生の大部分を関西で過ごしてきた人間にとっては、阪神タイガースは好む好まざるにかかわらず生活の一部であり続けてきた。そもそも初めてのプロ野球体験は、幼稚園児だった頃(関西ならではの英才教育!)、近所に住む幼馴染の一家に連れていかれた阪神甲子園球場だった。幼馴染のおばちゃんが「佐野~♡」と黄色い声で小旗を振っていたことを思い出す。小学校へ上がっても同級生はみな阪神ファンであり、私も阪神に対して好意は持ちこそすれ、決して嫌いな存在ではなかった。1985年の阪神優勝の日本シリーズ、それはもう全校あげての大騒ぎだった。土曜半ドンの放課後、トラキチの先生を囲み道徳用のテレビで日シリ中継を見たことも懐かしい。

ちなみに、私の通っていたその小学校は阪急沿線にあった。生徒は毎日阪急電車を眺めながら小学校に通っていたというのに、阪急ファンは数えるほどで、むしろ巨人ファンの方が多い体たらくだった。たまに阪急の野球帽をかぶった生徒がいると、クラスのガキ大将に軽くバカにされていたものだ。王道をゆく明るい阪神ファンがその他大勢をしたがえ、よく言えば月見草、悪く言えば日陰者のパリーグファンをいじるこの光景は、関西では2023年の現在に至るまでずっと地続きで、何も変わることはない。

一方、私の父は熱烈な南海ファンだったから、大阪球場や西宮球場へしばしば連れて行かれた。それがきっかけで、小学校の中学年にさしかかる頃には私は阪急を応援するようになっていた。その経緯は、以前にも書いた通りである。ほどなく阪急も南海も身売りをし、阪急はオリックスとなり、さらにはこれまた中々強かったが同じく全く人気のなかった近鉄と合併して、バファローズと名を変えた。オリックスがあまりにも低迷していた時期、近鉄を吸収合併して揉めに揉めていた混乱期、プロ野球に興味を失いかけた瞬間は何度かあったが、なんだかんだ阪急からの縁でオリックスを応援し続けている。近頃はそれなりに増えたとはいえ、阪神と比較してあまりにも少ないファンの数はどうしようもない。だから、関西で暮らす上で積極的にオリックスを応援しているということを明かすメリットは何もなく、飲み屋で野球の話題が出たとしても、オリックスのことには何ひとつ触れぬまま、阪神のリーグ優勝にも笑顔で「良かったですね!」と喜んでいる自分がいる。

もともと特に阪神が嫌いではなかったにもかかわらず、長年関西に住んで四六時中この同調圧力にやられていると、どんどん人間がひねくれていってしまう。間違いなく、古参オリックスファンが一番のアンチ阪神であり、そのアンチっぷりによってますますオリックスファンは関西で白眼視されるという訳だ。現に先日、オリックスの試合で他球場の途中経過が映されたときには「阪神負けろ〜」と大声でヤジが飛んでいたし、そんな阪神への過剰な自意識を痛々しく感じるときもある。しかし、他球場の途中経過で阪神が勝っていると無邪気に喜ぶ掛け持ちファンや、さらにはタイガースのユニフォームを着てオリックスの応援をしている無神経なファンには、はからずもイラッとするのは人情である。

もちろん、オリックスファンでなくても、阪神が嫌いな関西人はいるし、そしてそもそも野球に興味のない人が大多数かも知れない。それでもなお、阪神とどう向き合うかは、関西でどう生きるかということを意味する。勢いで道頓堀川に飛び込んだりできる陽気さに象徴されるように、明るくて声の大きい人気者に対して傍観者が好意を持つのは世の常であり、そんな量と質ともに圧倒する陽の力でもって阪神タイガースは関西の空気を支配し続けてきた。在阪マスコミの責任も大きい。長いものに巻かれろの姿勢で阪神の話題ばかりを取り上げるから、関西全域でうっすらとした「なんとなく」な阪神ファンが粗製乱造されてきたのだ。

ただ、あえてここで自分自身を振り返ってみる。関西らしさの呪縛、同調圧力などと言いながらも、今に至るまで私が阪神を好きになれなかった理由というのは、メジャーではないものを応援することで得られる「他の一般人とは違う自分」に自己陶酔しているからではないのか。そのようなひねくれた感情が芽生えはじめた頃に、うらぶれた少数派の在阪パリーグという存在に出会い、心惹かれただけではなかったのか。そうだとすると、まさに判官びいき、ジャーマンプログレ好き、カルト映画趣味、一言でいうとクソサブカルではないか。メジャーとはいえない音楽や映画をみききし、小難しい本をよんで背伸びする、そんな衒学性向があることは否めない私が、「他の一般人とは違う自分」みたいな感覚を、プロ野球観戦というド直球かつありふれた趣味においても持っていたとすれば、単に恥ずかしいだけである。もちろん、だからといってオリックスへの愛がゆるぐことはないが、多くの古参オリックスファンが抱く、アンチ阪神な感情を含んだ捻れたファン心理とオリックスファンの少なさとの関係性は、ニワトリとタマゴみたいなものだと、改めて反省する。

というわけで、今心からいえる。阪神タイガース、リーグ優勝おめでとう。きっと私は、死ぬまで阪神に対してブツブツ文句を言いながらオリックスを応援しますが、それは「電グル好きの中年」「〝普通が嫌いな〟普通の日本人」みたいなもんだと思って、わずかばかりの多様性を許してください。共にクライマックスシリーズを勝ちぬき、日本シリーズで会いましょう。

阪神ーオリックス交流戦。阪神ファンに圧迫されることを知りつつ甲子園にわざわざやって来るオリファンは、ルサンチマンの塊
たとえ三塁側でもオリファンは肩身が狭い、仕方ない

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