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ブランチとコヒーレント (15)

2022年9月のブランチ

残暑ってなんだっけ、ってくらい真夏日が続く9月。
ねこさんの生誕ライブに向けて、オタク側も準備を進めていた。大多数はねこさんが初めての推しで、この手のイベントは全く要領を得ない。しかしこれまでに培ってきたオタク間の関係性もあり、いい歳のオヤジでもあり、互いに様子を見ながらも連携を探り始める。



オタクはLINEグループを組んで情報交換。ある時は先輩オタクに、またある時は燎の運営という立場のたてみんさんに、はたまた燎のメンバーの果南さんにもなりふり構わず質問して情報と過去事例を得る。自分は自然と先輩オタクとのコミュニケーション。他のオタクはそれぞれ箱への対応、運営や当事者との渉外と役割が分かれる。

果南さんの何気ない発案で、ねこみみカチューシャを観客に配る事に。アイドルのイベントではつきものの光る棒、サイリウムも当然調達。箱の入り口にはやはり大きな花を立てたい。
他に、オタク陣がこれまでに撮影したねこさんの写真で写真集を作ろう、やっぱり誕生日はケーキだよね、でも生の食べ物どうやって保管しておくんや?などと会話が重なる。
これまでの人生で一番LINEに文字を入力している。



あまり個人で動きすぎるとネタが被ったりコストが特定個人に偏りすぎたり、はたまたオタク間のコンフリクトが禍根を残すなんて事もあるかもしれない。しかしそんな事で推しさんや周りに迷惑を掛けたり、今後のねこさんのイベントの時に空気感が悪くなるのは避けたい。皆口にはあまり出さないけど、それぞれの感性で落とし所は自然と決まる。ここは我を張るよりはバランス調整。

オタクの発案をGoogle Keepでカードにしつつ、疑問点やTODOを整理。支出見込みと実際の支出金額はGoogle Spreadsheetに金額を入れて常時共有。後になって何でこんな金額に!なんてならない様に。大体の金額感を掴んで調達へ。

箱の大きさから推定するに、動員は大体80名。
ねこさんがステージから客席を見た時、サイリウムで埋め尽くしたい。最低でも一人2本は掲げて貰いたい所。
調達本数を考えつつ、多少の余りはその後どこかで使うのも良いだろうと多めに発注。その後、家に段ボール2つが連結された形で届く。

嫁さん、なんて思っただろうか…



ライブの1週間前、ライブ当日に参加出来るメンバーでねこみみカチューシャとサイリウムを梱包、説明書きを添えて。

説明書きには、サイリウムは使用後に回収するので会場のゴミ箱には捨てないで欲しいことと、サイリウムを点けるタイミングは前方のオタクが点けたら。サイリウムのタイミング、上手くできるかな。今からちょっと心配しつつ、一つ一つ梱包。

幸い箱から歩いて5分の所に自分が務める会社があったので、事前に総務に相談して私物を会社内に置く事を許可してもらう。梱包を終えて段ボールに詰め、会社の隅に。

思ったより時間がかかってMusic Bar Cordaのラストオーダーには間に合わず、軽く準備作業の打ち上げ。

まあ、色々ありはしたのだけど、情報交換が功を奏してか大体イメージ通りの準備は完了。後は当日を待つのみ。

そして、ねこさんの生誕ライブ当日が来る。
今日もレンズをレンタル。一度新宿へ向かいレンタル品を受け取った後、芸事の神様、花園神社へ今日の成功をお願いし、手を合わせながら皆の顔を思い浮かべる。そしておみくじを引いてみる。

神様はうまく行くよ、と言っている。幸先は良い。
花園神社も横浜の金刀毘羅大鷲神社も自分にはいつも手厳しい。しかし今日は一味違うようだ。
神様、最後まで見守ってください。

夕方早めの時間に会社から荷物を持って箱へ。入り口にはスタンドフラワーが来てる。思ったよりでかい。ねこさんのイメージカラー、ピンクを基調でいい感じ。

受付を済ませて、客席の入り口でねこみみサイリウムセットを配布していたら果南さんが来て、演者さんにもねこみみをつけてもらいたいという事で演者さん人数分を渡す。これは密かに嬉しい。

間もなく開幕。口火を切るは菜月さん。ねこみみをつけている。そしてねこさんとのコラボへ。そこから沢山の演者さんがステージを繋いで行く。

アコースティックな響きで程よく力が間抜けていて、リラックス感がある おやすみカシオペア。ねこさんソロだと少し苦しさというか切なさが現在進行形の様な生々しさを伴って襲いかかってくるのだけど、おやカシの3人が入ると柔らかなベールに包まれて、ちょっと過去形になった感じになる。
去年聞いた 未来 という曲も、随分と印象が変わった。

ウィッチカルト、no concept、神楽ひらん、そしてamuLseはインディーズアイドルの世界から。ロックバンドの世界の人には特異に見えるだろうその独特のノリ、果たしてどう映っただろうか。

そして事前にねこさんから話が出ていた燎バンドセット。前回発表の新曲Andromirrorは特に映えそうだ。

想定した通り、バンドセットの音は音圧がしっかりあって聴き応えが凄い。ドラムもベースもギターも、どれをとってもやはりオケとは違う。ちょっとした弦とピックの擦れ方や、ドラムスティックの立ち方の違いすらこちらに届く。しかもこれだけの音量、音圧でもボーカルが埋没していない。普段と同じ燎の曲なのに全く別物になっている。

この企画のために組まれたバンド、PAの技量や音響設備の充実はもちろんだけど、演者さんの技術レベルの高さか、音同士は喧嘩しておらず、今までに観たことがない燎なのにそれを感じさせないほど馴染んでいる。

また一つびっくりした所は、その中でシンセサイザーの旋律が流れていた事。って言う事は、オケに合わせてメンバーが演奏していたという事で。これは実は簡単な様でいて難しくて、ドラム、ベースのリズム隊にとっては細かいところでやりづらい面がある。

これは演じている側はどうなんだろう、と興味をそそられ、ライブ後にドラムのえみりぃーさん、ベースのデスヲさんに話を聞く。すると今時はそれも一般的だそう。

自分はPCに事前に打ち込んでおいたMIDI信号でシンセをライブで流す、いわゆる打ち込みをやっていた事もあったのだけど、ライブのステージでオケはジャニーズくらいなもんだ、と言われた事も。当時はコンピュータで音楽をやっている人がほとんどおらず、ましてやそれをライブでやろうという素人は皆無だった。打ち込みでライブの大御所と言えばTM NetworkやPSY・S、Fence of defence、B'zとか。彼らのライブ編成メンバーは技巧派が多い。それを思うとオケであろうとなかろうと、上手い人は何でも卒なくこなすのは、どの世界でも同じだな。今になって思う。



ライブのトリはもちろん燎。ライブのセットリストは事前に知らなかったけど、時間的に終盤に差し掛かり、デビュー曲が掛かる。オタク同士目線を合わせてここだと確認、サイリウムを光らせる。会場はピンク色のサイリウムが点き始める。

TVで見るような一面を埋め尽くすという光景ではないけど、100本以上のサイリウムが、ねこさんのために振られ始める。その後も含め話は聞いていないけど、ねこさんの目にはどんな風に映ったのだろう。

自分はあまり意識していなかったのだけど、自分は光り始めたサイリウムを掲げて会場に合図していたらしい。ライブの後で、たてみんさんが「マスクメロンさんのサイリウムを折る合図をみて、オタクの階段を登っているなと感慨深かったよ」と言われた。あは、そうか、もう知らない人から見たら立派なオタクだな。



ライブが終わり、ゴミとなったサイリウムを回収しながら思う。

少しはねこさん生誕の賑やかしはできただろうか。
ねこさんはこういう動き、どう思っているのだろう。

そして写真は、残念。こういう大きなイベントの時は観客だけでなく写真を撮る人も多くて、被らないようにと位置どりをすることに。燎のTシャツを着ている以上、他の観客の邪魔には絶対なれない。結果、自分が事前にロケハンして狙っていた場所に立つ事はできなかった。できることなら、もう一度この箱でねこさんが立つ姿を撮りたかった。

観客がはけ、演者さんも帰途につく。残るは主演の燎メンバーと生誕委員オタクとオタク先輩。そしてオタク軍はおもむろにスタンドフラワーの解体に入る。最後のミッション、花束贈呈。

スタンドフラワーの生花を種類毎に取り分け引っこ抜く。種類と本数を見て分けつつ、それを3等分。根本をオタク先輩に借りたハサミで切り揃え、伸縮性のあるビニールテープてまとめる。事前にオタク先輩にアドバイスをもらって準備しておいた紙に包み、花束の完成。包む紙はどうしても綺麗にいかないので、最初から和紙テイストのシワがある方が見栄えを整えやすいそう。

包んでみる。めっちゃ不恰好。ひどい、これは。だけど撤収の時間優先なので、やり直している時間はない。3つの花束は、たてみんさん、果南さん、そしてねこさんに。

当然みんなねこさんに手渡したいわけだけど、オタクの無言の協議の後、ここは遠方から来ていて普段会える機会が無いオタクさんに渡してもらうことに。
自分は影の立役者、たてみんさんに花束を渡す。最初、たてみんさんはねこさん宛と思ったらしい。

「ありがとう、ねこちゃんに渡しておくね」
「いえ、たてみんさんにです。お疲れ様でした。」

驚いた表情のたてみんさん。してやったり。

ねこさんの生誕が終わって、4年ぶりくらいに取った自分の夏休みも終わった。凄い箱での自主企画、ねこさんも周りの人達も大変だったろう。いつも誰かが何かを終えた時、自分だったらどうなるだろうと想像して、その度にすげーと感心するわけなんだけど、今回のライブも例に漏れずとなった。

去年、訳も分からず参加したねこRockから1年、その間にねこさんはこんなイベントを切り盛りするくらいキャパを広げていた。ねこさんはどんどん凄くなって、加速していて、もっとねこさんに近づきたいのに、どんどん遠くなっていく。尊敬と疎遠が入り混じって、ねこさんの顔を見ながらは何も話せない。

このライブで撮った写真は3,000枚を超えた。普段だったらそのうち数枚はこちらに視線が向いたカットが確実にあるのに、この日はゼロだった。

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