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ブランチとコヒーレント (20)

2023年1月のコヒーレント (1)

アイドルユニット燎2023年最初のイベントは撮影会。
連休の浅草で和装の撮影、ベタが故に押さえておきたいという事でまたもロケハンから。ロケハン大事。

浅草。家からだと2時間かかり、なかなか足が向かない場所。昔、海外から来た仕事関係の人と商店街を歩いたり、子供を連れて行ったりはしたものの土地勘は無い。

地図と検索でめぼしい撮影場所を選ぶも、和装で歩く速度やモデルさんの体力を考えると動ける範囲は限られそう。事前にねこオタクLINEの雑談で出た撮影スポットの位置関係と、年始の大きなお寺の混雑の様子を見る事に。

前日、晴天。お昼過ぎに現地到着も、凄い人混み。
集合場所を起点に事前にGoogle Mapに仕込んだリストを頼りに一通り歩きながらスマホで撮影。

そのうち、昔、独り歩き疲れてふと入った喫茶店に出くわす。ザ・昭和なやつ。こんな所にあったんだ。当時はスマホなんて無くて、どこを歩いているのかは自分の方向感覚頼りだった。随分外れを歩いてたんだな。

ちょっとかしいでる (方言: 歪んでいる、傾いている) ドアをこじ開ける。灯油のファンヒーターで中は暖かい。マスターは競馬中継に夢中。おばちゃんが寝てる。暫く入り口で立って着順がある程度見えるまで待つ。

メニューが変わってない?かも。昔来た時と同じトーストとコーヒーを頼む。あー、懐かしい。けど何で独りでここに来たんだっけ…結局思い出せず。

帰り際、マスターがボソッと話す。

「いいカメラ持ってるね。昔やっててね。盗まれないようにね。」
「あ、はい。」

きっとなんかあったんだろうな、と推測しつつも深入りはせず外に出る。また今度来たら話してみよう。いつか窓際の席で撮影してみたい。いいところを見つけたけど、距離があるから明日は無理だな。

その後ぐるっと浅草寺近辺を歩く。花屋敷デート風味も良いかなと思ったけど、他の人と被りそうだったので止めることに。

メロンパンのお店の壁に可愛らしい風車の装飾があったので様子を見るも、メロンパンの購入と撮影の為に並んでる状況。これは厳しそうだ。

浅草は舗装とか綺麗になって、印象はすっかり変わっていた。もっと泥臭い感じだったのにな。

そして最後に浅草寺でおみくじを引く。凶。
説明文を読んでみる。新年早々これからの人生を全否定された。けど、何故か心は晴れやか。

お寺さんに凶を預けて、浅草を後にした。

そして撮影当日。一番元気な時間に、と1枠目を予約していたら思いの外、家を出る時間が早く眠くて仕方ない。ぼーっとしながら集合場所へ。今日は和装でデート的な感じが出せないか、声をどう掛けようか思案しながら。

集合場所にまだ着いていないのに、姿は見えないけど果南さんの笑い声が聞こえてくる。果南さんは今日も元気そうだ。

遠目からねこさんの姿が目に入る。薄いピンク地に白で大きめのペイズリー柄に三つ編みツインテ。上がるテンションを察されると恥ずかしいな、と、はやる気持ちを抑えながら、のんびりテンションを演出してみようとする。

果南さんを撮影する方と付き添いの方、計5人で移動しながらの撮影。果南さんを撮影する人はねこさんとも知り合いで、あのメイドカフェの頃から果南さんやねこさんを知っている人だ。お気楽にできそうで良かった。

今日はやっぱりメロンパン屋の風車の背景でねこさんを撮ってみたい、と、ちと無理矢理お願い。

浅草寺の境内を横切る途中、季節外れの金魚掬いがあってやってもらう。夏祭りじゃないし振袖でやりづらいかとも思ったけど、和装と金魚掬いはなかなか捨てがたい。

多分すぐにゲームオーバーだろうと思ったら、寒さで金魚の動きが鈍いのか、ねこの本能が発現したか、ポイ1つで次々と金魚と掬い続けるねこさん。皆を待たせてるし切りが無さそうなので途中で切り上げ。

ねこさんとどう話したら良いのか相変わらず分からず、妙な間とぶつ切りの会話を重ねながら歩く。

目的の風車の壁は幸い人は少なく、直ぐに撮影できた。
人が後から来るので早々に切り上げも、撮りたいアングルはかろうじて押さえられた。けど、やっぱり自分のポージングと表情の引き出し方には課題が残る。このぎこちなさはなんとかならないものか。

その後、通称ホッピー通りを歩く。お昼前だけどお店は結構開いている。ねこさんはこういうくだけた所が好きらしく、お昼はここにしよう、と、テンションが上がり始める。

自分はホッピーは苦手で、今は好んで飲まない。
新卒の頃上司や同期に連れられて、帰り道と真逆の浅草橋にある加賀屋という居酒屋で毎日のように死ぬほど飲んだ。当時お酒好きでも無いのに上司に金借りてまで付き合った。どうもその時のもやもやした気持ちが蘇る。

やっぱりお酒はお酒自体だけではなく、一緒に飲む人と合わせて味になるんだろうな。今なら楽しんで飲めるだろうか。

撮影終了の時間が見えてきて、付き添いの人と話をして集合場所に戻ることに。

集合場所の近くで最後の数カットを撮影。やっとねこさんの表情を観察できるようになって、シャッターのタイミングが合い始める。シャッターを切った瞬間、これは来た、という感触がやっと指先から脳に伝わるようになるも、時間切れ。

撮影が終わった帰りがけにちょっと寄り道したけど、早々に家に帰り現像。
今日は一際、自分の視線はねこさんの顔に集中していて、周りが見えていない。もっといろんなカットがあるべきなのに、後から見るとバストアップどころか肩から上のカットが多いこと多いこと。現像しながら苦笑い。

SNSでよく見られる画像は、アプリで加工されている状態がとても多い。広角レンズのパースによる歪みでは無く、不自然な輪郭や目元の調整がどうも気になる。けど、自分が撮るねこさんはありのままで、そういう調整は意地でも一切行わない。

写真が綺麗だと思ってもらえたら、それが自分からのメッセージ、のつもり。届いていたらいいな。

現像を終えて、日を跨ぐ前にねこさんに送る。
ねこさんはすぐに受領確認の反応をくれて、ミッションコンプリート。

次は月末、アイドルユニット燎の1st アルバム発表ライブ。

今までは週に1度はねこさんの顔を見ていたが、これからはそれも無い。1年半前の状態に戻った事を実感する。その上で、ありがたいことに仕事が楽しい方向で忙しい。

そして去年11月くらいからか、ねこさんが自分の話のペースに合わせてくれていたり、ちょっとしたところで話すきっかけとなるようなネタを仕込んでくれていた事に、自分はようやく気づくようになってきた気がする。

仕方ない、少しずつ進歩できれば。

あのコンカフェが閉店する事でどうなるかと思ったけど、当初想定していたほどの喪失感は無い。当たり前になっていた事を失う事で、自分の中で何かが変わったのかもしれない。

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