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ブランチとコヒーレント (32)

2023年5月のコヒーレント (1)

2023年5月、ゴールデンウィーク。またこの季節がやってきた。ねこさんと初めて出会ったのは5月4日、今日は3日。初めて顔を合わせてから2年が経つことになる。

そして今日はねこさんが以前勤めていた、秋葉原のあのメイド喫茶で臨時の勤務。色々話したい事はあるのだけどそういうお店でもないし、きっと、ねこさんを目の前にしたら何も話せなくなるお決まりのパターンが目に浮かぶ。

もういいや、なすがままで行こう。



自分はそういう記念日的なものに今までは極めて無頓着で、きっと嫁さんをがっかりさせてきたに違いない。かつて節目にはお祝いをした事もあったけど、あまりにもたまに過ぎてなんかあるのかと疑われ、自分はどうしたら良いかわからなくなったりして。

対してねこさんとはそういう事を意識する間柄ではないけれど、からかいがてら様子を見てみよう。

残っていた仕事を片付けて、秋葉原へ向かう。
丸2年だし、何か消耗品で丁度良いもの無いかなと考えて、芸が無いけどまたギターの弦を。燎は様式美的なアイドルからだんだんミュージシャン的な方向に領域を広げ始めている様で、楽器を使ったステージも徐々に出始めている。そうならば、と、前回はアコギの弦だったので、今回はエレキギターの弦。

秋葉原は楽器屋どこがあるかな…と考えを巡らせていたら、あ、Club Goodmanの側にあったな。あのメイド喫茶とは秋葉原駅を挟んで真反対だけど、久々に秋葉原を歩くのも悪く無いかな、と昭和通り側に出る。

いつも思うのだけど、ギターの弦は種類が多くてよくわらかない。お店の人を捕まえて、ElixirのNANOWEBとOPTIWEBの違いについて聞いてみる、けどやっぱり分からない。もう使ってみるしかないな。

けど、ずっとパッケージを眺めて値段を見て、を繰り返して結局いつものオレンジ色のパッケージのNANOWEBライトゲージを選んでしまう。

果南さんは最近ギターの練習をかなりしている様で、果南さんにはアコギの弦、Elixirのエクストラライトゲージを。弦が細くて音の鳴りは控えめになるけど左指に掛かる負担は少ない。

自分で使ってみると、エクストラライトゲージは弦を軽く押さえて鳴らす感覚を掴むのに良さそう?な気がする。ねこさんやこの前gee-geの演者さんが教えてくれた不必要に力を入れないで押さえる感覚、自分はまだ掴んでないのだけど、たまにこれかなと思う時がある。

センスは果南さんの方が間違いなく鋭いけど、自分もその程よく押さえる感じを安定させたい。負けないわよ、と果南さんにエールを込めて。

秋葉原のメイド喫茶では、例によってまったりとした空気が流れる。席はお気に入りのテーブル席が空いてなくて、客室の一番奥、普段は人が立つ事はないカウンターの所に座る。

燎の写真を整理しながらミートソーススパゲッティとダージリン。自分のこの2年間の行動の原点。ねこさんは給仕しながら色々な人に話しかけていて、にゃはははという笑い声が自分の背中の方から聞こえる。

今までやった事ない事をやってみようと、きっかけとして写真の整理を始める。燎の写真はこれまでに3万枚くらいがクラウドストレージにあって、そこから自分の記憶を辿りながらまず350枚くらいに絞った。

写真集を作りたいなと前から思っていて、ページ構成を考えながら更に絞り込む。表紙は燎のファーストショット、デビューライブの1曲目をねこさんが歌い始める瞬間。これに燎の再始動時に更新されたアーティスト写真と同じフォントでタイトルを。

と思ったけど、んー、表紙に自分の思い入れだけの写真。ライブを撮り始めた頃で今から見ると色々アラが目立つ写真。

いまいちだな、センスねぇー。
編集さんの苦悩が想像つく気がしてきた。

「写真撮ってー」とねこさんがやって来る。
今日はピンクと白のメイド?服。けど、このメイド喫茶にいる時は正統派がいいかもしれない。2年前とは異なり、すっかり自分の目に慣れた、精度の悪いファインダー越しにねこさんを眺める。

いつも同じ角度、画角、距離。安定と見るか、惰性と見るか。写真を撮る時間は会話のチャンスでもあるのだけど、予定通り会話を上手く切り出せない。ねこさんが話しかけてくれる。

写真を撮り終えて席に戻り、また写真の選定。画面をじっと見ていると、ねこさんが自分が座っているカウンター席の向こう側から声を掛けてくる。

珍しいパターン。今まではこう話しかけられる事はまず無かった。撮った写真に絵を描きながらねこさんが話し始める。何かと立て込んでいるねこさんの脳裏を反映してか、仕事のコミュニケーションの仕方とか、優先順位付けの話とか。

話の内容がこれってどうよ?と思う人もいるかもしれないけど、アイドルさんとこういう話ができるというのは、アイドルじゃない別の一面を見せてくれているようで、これはこれで良い感じ。
自分にこんなに時間割いて大丈夫なんかな、と思うくらい付き合ってくれた。

話が区切れてお絵描きが終わった写真が渡される。
一緒に伝票も。

お会計しようと席を立ったら、ちょうど他のご主人様がご帰宅してきて、ねこさんは席への案内に当たっていた。タイミング悪かったな、ちょうど良いと思ったんだけど。お会計はこのメイド喫茶で昔からかなり人気のよつばさんがしてくれる。

よつばおじさん、と呼ばれるファンがつくくらい人気のメイドさんで、面白いのはそのファンの皆さんの挙動。よつばおじさん達は基本カウンターに鈴なりになって並ひ比較的長時間お店に留まる習性がかつてはあった。カウンターが空いていない時はテーブル席に分散して座るのだけど、その時は綺麗にバラついて座る。カウンターが空いているとよつばさんに引き寄せられ、近づけないと斥力が働く、分子みたいだ。

よつばさんとはあまり話しをした事がないのだけど、どういう人なんだろ。機会は少ないだろうけど、よつばさんを推している人達の行動パターンと合わせて更に観察してみたい。

と、お会計が進む中、ご丁寧にねこさんがレジのところにきてくれる。忙しいのに申し訳ない、ファンサービスも大変だ。

ねこさんが「今日はこれから横浜?」と尋ねてきて、そうよー、と、答える。自分はこれから果南さんが勤める関内のカフェへ行こうとしていた。ふーん、と微妙な温度感を漂わせるねこさん。

「まだ早いんじゃない?」
「今出て1時間ちょい、開店してちょっと経った頃に到着かな。」

あ、そうだ、と行き掛けに買ってきたギターの弦を渡す。今回はエレキギターの弦ね。

「なんかチラシも一緒に入ってるんだけど」
「チラシくらい抜いておけって?ごめんごめん」
「まあいいけど」

こういう所がダメなんだよね、自分。
プレゼント感皆無。

「そういやねこさんと初めて会ったのが5月4日で、明日で3年目に突入なんだよね、これからもよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくー」

こんなやりとりを側から見ていたよつばさんはどう思っただろう。お会計を終えて、よつばさんとねこさんに挨拶をしてお店を後にする。

「飲み過ぎないでね」

ねこさんの声が聞こえる。

「はいよー、気をつけますー」

返事をして振り返ると、お店の扉の向こう側で、渡したギターの弦の袋を胸元に両手で抱えたねこさんの姿があった。

お店を出て、いつもの道を駅に向かって歩き始める。
あ、そうだ。道端にカバンを置いて、果南さんに渡す予定のアコギの弦が入った袋を開ける。
入っていたチラシを抜いて、また駅まで歩き始めた。

また一つ学習した。

2023年5月のブランチ (1)

ライブ、高円寺High。一年ぶりにこの箱でのライブ。
一年前はまだライブに参加するだけでいっぱいいっぱいで、写真を撮るのに夢中だった。ここは照明が綺麗で、いい写真が撮れた。音もまとまっていて気持ちいい。
今回はどうだろう。

スタートは昼前、まだ皆頭は寝ている。燎のいつメンと話していると、前回のライブの時に来ていた人がまた来ていて「あのー、燎の推しの人達ですよね?」と話しかけられた。お、2回連続で来るとは素晴らしい。

最近ねこさんの配信にも来ている人で、なんか知らんけど燎と親和性が高そう。これは是非仲間になってもらわなければ。

最前中央を勧めたのだけど、上手の端に陣取った様。これからもよろしくお願いします。

ライブは空回りに空回りが重なり、クタクタなのに気分は上がらないまま終わった。まさにライブは生き物。その後他の演者さんをじっくり観て、また新鮮な時間を過ごせた。

以前この箱に来た時は、まだライブハウス自体に慣れていなくて対バンを楽しむ余裕もなかった。あれ以来30以上のライブハウスに40回以上足を運んだ。徐々に違いが感じられるようになってきて、ライブハウスに行く楽しみの一つになっている。

燎の曲は静かな曲が割と多いセトリだったけど、特にmoon riverは彼女らのボーカル、特にサビの果南さんの声が自分の体を包み込むような感覚があって、悲しげな曲なのに心地よかった。

この箱は、前からの音もさることながら、頭上から回り込むような音の感じがあって、音量はあるのに耳をつんざくような感覚もない。相性がいいのかも知れない。

自分の好みというか、自分の感性が追いつくようになってきたのか、他の演者さんも耳に残る人達が多かった。特に東京演劇女子. が良くて、物販に足を運んだ。

ほぼ初見状態で5人組となると誰がどうというのもないもので、メンバーでじゃんけんして一番負けた人の写真を撮る事にする。

割とすんなり相手が決まり、一番お姉さんタイプの人にインスタントカメラで写真を。その間、5人全員が自分に当たってくれるハーレム状態。

結局、他のメンバーは名刺大の写真入りカードにそれぞれサインと自分の名前を書いて渡してくれて、メンバー全員分の特典をもらう事に。
ありがとうございます。

GW最終の日曜日も、ねこさんはあのメイド喫茶で勤務。今度は昼から夕方。天気があまり良くなく、雨に結構降られながら秋葉原へ。今回は特に何も前後に予定無く、静かに写真集の編纂に精を出そう。

最初は人もまばらな店内、自分が知らないウェイトレスさんに席を薦められ、やっとお気に入りの席、オカリン席に座る事ができる。ねこさんがすすっとやってきて、注文を取ってくれる。

PCを開いて写真を凝視し続ける。
すぐそばに当人がいる状態で写真を凝視しているのもなんかシュールな話しだけども、やはり人生はアウトプットあってナンボ、ノートPCの液晶モニタを凝視。

空いている事もあって比較的早く注文の品をねこさんが持ってくる。続いて紅茶も。ティーカップに金属製の茶漉しを乗せて、紅茶を注いでくれる。自分は注がれて濾されていく茶葉を見つめる。

前はねこさんが来るたびに舞い上がったものだけど、なんかこなれてきた、のかな。んー、いや違うな、これは。

ねこさんと出会ってから2年経ち、写真を撮る対象もスタイルも一変し、音楽を再び聴くようにもなって、ギターの練習なんかも始めたりして。仕事一辺倒だった自分の行動パターンは一変した。興味の範囲も広がり、全然違う環境の人と話す事で交友関係も増えた。

そして最近、今までのねこさんとは自分への対応が違う。違和感という言葉は当てはまらないのだけど、なんか今までと違う。きっとなんかある。けど、何かはわからない。これはねこさんじゃなくて、自分自身の観察が必要そうだ。

しばらく一人でいると、徐々にご主人様がご帰宅なさって、混み合い始めた。自分はだ4人掛けのテーブルに一人。と、エージェントオタクさんがご帰宅、ねこさんは問答無用で自分と相席を指定。席の利用率を上げつつファンサービスもこなす、効率的配置。

そのうち更に一名顔見知りがご帰宅、3人で座ってお話会。3人で色々話しながらも、それぞれご飯を食べたりスマホいじったり、自分は編集中の写真をエージェントオタクさんに見せながら、ライブハウス毎の写真の撮り方や設定について話したり。

そのうち夕方に差し掛かる。後はうちで作業を続ける事にして、この場は撤収。店内にいるねこさん推しの人達に一通り挨拶して、お店の入り口のレジに。

いつものように、お会計をしながら締めの会話。

次のライブは明日。箱は新宿Loft。色々用事を済ませてからでないと行けなくて、またもや時間が怪しいけど、なかなか沢山の演者さんが集まった、2つのステージを使ったライブ、出番は30分と長め。
これはまた面白そうだ。

また明日ね、と声を掛けてお店を出る。

階段を降りる途中、お店の入り口に目をやると、ドアの所から上半身を乗り出した格好で見送ってくれているねこさんがいた。

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