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ブランチとコヒーレント (5)
2021年10月のコヒーレント (1)
自分は写真を撮る事を趣味にして久しいけど、人の写真は家族を除いて数える程しか撮った事が無い。
普段は街中のスナップがメイン。人がいないシーンで、誰か知らないけど人がそこに確実にいたと言う、息遣いと言うか、残影から勝手なお話が想像できるような風景を好んで街を徘徊していた。
5月から秋葉原を歩くようになり、5ヶ月で数千枚の写真を撮ってきたけど、秋葉原の特徴的な街並みや人の多さは即物的な絵になりがちで、撮れば撮るほど視野が狭まってありきたりになっていく。
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そんな感じで行き詰まっていた時に、ねこさんが猫カフェで一日店長、写真撮影時間付きと言うイベントが発表され、これはまた新しい挑戦になりそうだとイベントに予約を入れる。
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どうせなら、と、今持っているミラーレス一眼カメラだけでなく、昔に四苦八苦しながら使っていたフィルムカメラを、リバーサルフィルムを装填し投入する事に。
リバーサルフィルムは求められる露出の精度が高い代わりに、うまくハマった時の色の出方は他では真似できない透明感が得られる。ねこさんの透明感をフィルムに結像できたらどんなに素敵だろうか、と仕上がったフィルムを想像して妄想が膨らむ。
フィルムは、あまり肉眼では意識されないその環境の色味がそのまま反映されるので、蛍光灯だと緑色に被れたり、白熱灯だとオレンジ色っぽくなる。その猫カフェの照明の色温度を確認するため、2週間前にその猫カフェに突撃する事にして準備に取り掛かる。
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ロケハン前には撮影のペース、色温度を計測するための設定、画角と撮影距離を頭の中であれこれ考える。
だんだん疑問点が絞れたので、いつも野毛に飲みにいく前に必ず顔を出す横浜きっての老舗のカメラ屋さん、大貫カメラに顔を出す。いつも相手してくれる元カメラマンの店員さんに、今度ポートレートに挑戦しますと伝えると、待ってましたとばかりに前のめりであれこれポイントを教えてくれる。2時間くらい。
ごめんね、何も買わなくて。今度レンズ買うから。
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そしてロケハンとしてその猫カフェへ。そこでは、猫耳をつけた可愛らしい店員さんが店の猫と戯れている。お客はそれを遠目に愛でると言う非常に高度な趣味のお店だった。
猫には近寄ってきた場合だけそっと触れる事ができる。追いかけ回す事はできない。抱っこも禁止。そしてまず間違いなくおじさんには寄ってこない。ではどうするかと言うと、有料の猫のおやつを購入し、猫を一本釣りする。世の中金なんだな、やっぱり。なんか悔しいから購入見送り。
今はもう皆お空の彼方へ飛んでいってしまったが、昔、自分の田舎には猫が6匹と犬が1匹。自分はかなりの時間を割いてあいつらと遊んでいた。扱いは心得ているつもりだ。しかしロケハンとは猫と戯れる事でも、ましてや可愛らしい店員さんと仲良くなる事でもない。色温度の計測と画角の確認だ。忘れるな。
画角も難しい。自分は趣味を拗らせていて、ズームできない単焦点レンズばかりを40本近く持っている。変に凝ってレンズ交換しまくると交換しているだけで終わりそうだ。被写体のねこさんまでの距離を想定しつつ画角の確認を行い、レンズは28mm, 50mm, 85mmの3本とすることに。
可愛らしい店員さんはガン無視で雑誌「アクションカメラ」ばりに這いつくばって猫の写真を撮る。当初の目的は達成し、データは得られた。
準備OK。よし、当日を迎えよう。
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ねこさんの猫カフェ一日店長のイベントはまったりとした時間が流れていた。参加者はこれまでのイベントでおおむね顔見知、和気あいあいと時間が進む。
同担拒否(最近覚えた四字熟語)…推しが被る他のファンを敵対視するようなギスギスした空気感は皆無だった。正直ほっとする。
撮影の順番が回ってくる。初めてねこさんにレンズを向ける。これまでとは全然違う対峙の仕方に戸惑う。
どう始めたらよいか、お願いします、とだけ声をかけてシャッターを切り始める。フォーカスリングをゆっくり回してピントを追い込むも、視度を調整しているファインダーであっても老眼がきつい。
ねこさんがポーズを取ってからシャッターが切られるまでの間にピント合わせ、画角の確認、背景の確認。正直とろい。多分プロとはリズム感が違うと思う。パシッと決められないもどかしさを感じつつ、自分が今出来る精一杯を絞り出す。
結局2時間弱その猫カフェに滞在し、当初想定していた写真の撮影を終えて、撤収する事に。果たして、リバーサルフィルムに感光した光はどうなったか。懇意にしているカメラ店にフィルムを預け、祈る。
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デジタルカメラの方は、家に戻りデジタル現像する。撮影した枚数はフィルムと合わせて120枚。やっぱりねこさんの表情は硬い。どうしても撮影者とモデルの間柄が出てしまう。
撮影した時はいいのが撮れたと思っても、後で見ると残念な構図の連発。ピントも甘い。あぁ、修行が足りない。ファインダーを覗き、全体を見回し絵を瞬時に把握する事が求められる。この習慣はスナップでも必須のスキルだ。練習と経験が足りなすぎた。
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出来上がった写真をねこさんに送る。
正直写真の出来は良くなかったけど、後のねこさんのツイートの中に、自分の写真が1枚含まれていた。
なんだろう、この嬉しさ。
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