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大学への数学・増刊号を語る①『入試数学の基礎徹底』

 どうもこんにちは。家庭教師のせむです。
 本業が忙しく、更新が滞っていました。
 暇ができ始めましたので、また記事を書いていこうと思います。

 今まで『大学への数学(以下"大数")』シリーズは"1対1"などをはじめとしてごく一部しか使ったことがなかったのですが、今年の受験生に月刊大数や増刊号などを使わせてみたところだいぶ感触が良かったので、今回から増刊号を紹介するシリーズ記事を書いてみます。

 来年度以降も使う問題集ばかりですので、生徒に使わせる際に問題集の概要から説明するのもアレかなと思い、「この記事見といて~」で済ませようという魂胆です(実際、授業時間を削りたくはないし、口頭だと伝え漏れがあるかもしれないし……)
 その分、授業内では「この問題の発展形が◎◎大に出ていて……」「これ半年前の模試で間違えてた問題まんまだねぇ」など具体的でディープでネチネチとした話題に時間を割いていけたらと思います。

 大数増刊号のシリーズ記事ですが、それぞれ発売日前後に記事をアップロードしようかなと思います。2024年度版が発売され次第、2023年度版をもとにした記事をぼちぼち公開していく感じです。
 以下が増刊号一覧です。

 今回は3月号増刊(2月末発売)の『入試数学の基礎徹底』です。

★★補足

★『大学への数学』とは?


・大学入試数学の専門誌。月刊。
・数学好き、数学が得意な人向けの雑誌、とされているが、実際は全受験生が幅広く使うことができる
月刊大数で今年の受験生を指導してみたところ相当感触が良かった
また後日別記事をアップします


★増刊号とは?

・毎年1回、決まった時期に発行される月刊誌『大学への数学』のテーマ別問題集
・3月号増刊(2月末発売)は入試基礎固め特集の問題集として『入試数学の基礎徹底』が発売される。
・今回はそれの紹介記事

『入試数学の基礎徹底』

今回紹介するのはこれ
鳥が描かれてますね

 名前の通り、入試基礎固めの問題集です。
 問題数はそれなりにありますが、基礎問題ばかりですので、1問あたりの労力はそこまで大きくありません。

 網羅系(チャート等)は問題数があまりにも多いです。定期テストでそれなりの成績を取れているなら(平均点前後あればOK)、膨大な量のチャートを1周やるよりも、同じ時間でこちらを何周かする方が、定着度は高くなるはず。
 一応、例題と演習題で、基本問題のほぼ全パターンを確認することができます(演習だけだといくらか抜けがあります)

 3月号増刊で、毎年2月末に発売されています。
 昨年度版と比べると、今年度版は確率統計が増えています。
 それ以外は去年と同じですので、安く入手したいなら中古でも良いんじゃない?といったところですね。

◎コンテンツ

・問題数

 各単元ごとに講義+例題と演習に分かれています。
 例題と演習題合わせて20問~30問くらい。

 講義は公式の導出や利用法などが書かれています。たまに超便利な裏ワザ的事実が載っているため、理解度の高い単元でも一見の価値アリです。
 講義内の例題は、平均すると7問~8問くらいだと思いますが、実際には重たい単元と軽い単元で例題数に大きな差があります。
 演習はいずれの単元も15問前後です。

 数ⅠA・ⅡBまでの問題数は、例題141問、演習226問。
 →合計367問
(複素数平面と2次曲線(数C)を除いています。これを含めれば400問超)

 類似の問題集と比較します。

・青チャート(ⅠA+ⅡB、基本例題のみ)……500問くらい?練習題含むと1000問
・基礎問題精講(ⅠA+ⅡB、例題のみ)……300問。練習題含むと600問
※青チャートについては、今回は同レベル問題の比較ということで、基本例題のみと比較しました。本来は例題合計800問、練習含めて1600問です。

 というわけで、問題数は圧倒的に少ないです。

  「これで大丈夫なの?」と思うかもしれませんが、そもそもチャートの例題500って、基本すぎるものとか、微妙な差異の類題もそれぞれ例題として掲載してるだけで、やってる解法は全部同じだったりするんですよね。やってる解法が全部同じなら、『入試数学の基礎徹底』を繰り返して、その解法をしっかり定着させたほうが、後々の応用力に繋がります。

 ちなみに、『基礎徹底』はそういう被りを削ぎ落とした結果、逆にチャートには無いタイプの頻出基礎問題もいくつか収録しています。
 なので、網羅性という観点においても、必ずしもチャートに劣るというわけではありません。

 受験生の中でも数学があまり得意ではない子に使用してもらいました。特に周回の後半は単語帳のごとく使い、徹底的に解法を定着させました。
 結果、数学が苦手な子にありがちな、「問題の見た目が違うだけで解けなくなる」ということがなくなり、「このタイプの問題はとりあえずコレをやる!」というふうに、問題の見た目ではなく問題の解法で判断する脳が育ちました。

・難易度

 問題はほぼ全て難易度Aで、わずかにB問題もあります(難易度については下に詳しく補足しています)。
 同じくらいの難易度の問題は、

  • 教科書の章末問題で一番むずかしい問題(教科書のレベルにもよる)

  • 教科書傍用問題集の難し目の問題

  • チャート難易度2~3(これは正確なデータです。調べました)

  • 模試の大問(2)~(3)前半(これもイメージではなく正確なデータです。模試の(3)の途中までがチャート難易度2~3に対応するため、こういう結論になります)

  • 同じような難易度の問題集に『基礎問題精講』など

 などなど。
 ただし、演習問題はすべて実際の入試過去問からの出題なので、チャート例題と比べて、やや面倒な一捻りが加えられたものもあります。

★(補足)大数シリーズの難易度表記について

 
大学への数学シリーズの問題集は、問題の難易度をA(易)~D(難)の4段階で分類している。

 いずれも「一定以上の入試問題においての」という枕詞がつくが、
・A……基本
・B……標準
・C……発展
・D……難問

 である。

 B問題を完璧に仕上げれば、一部医学部等を除いて全大学で合格ボーダー以上が取れる※とされている。
 実際、東大理系(全6問)の平均的な難易度はBBBCCCくらいで、難化したと言われる2023年度入試でCCCBCDである。

※大問の完答難易度を示したものなので、C問題やD問題ばかりの入試セットでも、難易度B相当の部分を確実に得点し、それ以上のものもある程度の部分点を稼げば、合格点に達する。

・到達レベル

 この問題集は、大数基準のA問題をきっちり仕上げるための演習書、ということが分かりました。

 では当然気になるのは、「A問題を完璧に仕上げたらどのくらいの成績になるの?」というところです。
 以下に、予想される模試/入試結果をいくつか箇条書きしてみます。

  • 記述模試(文系)……160/200点・偏差値68

  • 記述模試(理系)……130/200点・偏差値63

  • 共テ&マーク模試……170/200点

  • ハイレベル/冠模試(文系)……得点率25%~45%・偏差値40~55

  • ハイレベル/冠模試(理系)……得点率20%~35%・偏差値40~45

  • 偏差値50↓の入試……7割~満点(文理問わず)

  • 偏差値50~55入試……4~7割(文理の差や問題セットによる)

 大体こんな感じかな。
 記述模試は大問難易度Bで(2)or(3)前半までA問題なのでこの点数、共テも大問の最後の問題以外はだいたいA問題なのでこんな感じです。一定以下の難易度の入試でも似たような得点率になります。
 ハイレベル模試や難しめの入試になるとB問題以上の演習も必要になってきますが、それでもA問題をしっかりやっていれば、完全に手が出せないわけではないことが分かります。

 こんなにいけるの?と思うかもしれませんが、このレベルが完璧に仕上がってる受験生って意外と居ないんですよね。
 本番時点での実力はともかく、最後の模試がある10月末頃までにA問題が仕上がっている受験生は結構少ないです。なので、偏差値もこうなります。
 冠模試も、特に夏の時点では全受験生(浪人含めて)まだ全然仕上がっていません。問題セット次第で、偏差値50を超えることもあります。

・早期に基礎を固める意義

 学習のイメージは、「基礎固め=得点の最大値上げ。入試演習=得点上げ」です。
 得点の最大値が低ければ、どれだけプラチカややさ理を頑張ったところで、大した実力にはなりません。

 なので、記述模試の問題もA問題に偏重しているのです。最後の模試がある10月末の時点で合格に必要な実力を身につけている受験生はそう多くありませんから、成績の伸びしろなどを判断するしかありません。
 本番レベルより易しめの問題が判定として機能するのは(特にA判定とD~E判定は正しい)、基礎が固まっているかどうかをしっかりと判別しているからです。

 基礎を固めた方が圧倒的に後半伸びます(後半と言っても、早い子は夏休みくらいから差が出始めます)し、そもそも基礎を固めるだけで、やたらと難問に挑みたがる「意識高い系」の受験生には余裕で勝てます。
 そういう「意識高い系」の末路は、「解いたことある問題そのままなら解ける。一捻り加えられると全然解けない」という非常にダサい暗記型数学マンです。
 受験数学は「貴方がウサギとカメのどちらになるか」を試されています。皆さんはカメとして、地道な学習を積み上げていきましょう。

◎進め方

・対象

 基礎固めが必要な受験生全て。

・時期など

 解きはじめは、高2夏~高3春くらいがベストシーズン。
 解き始めてから2~5ヶ月かけて仕上げます

 最初の1周は1~2.5ヶ月。
 2周目以降はその半分の所要期間です。
 3周以上やりたくて、2週目以降は「完璧に解ける」と思った問題は飛ばしてもOKです。
 しっかり仕上げるのに、2~5ヶ月くらいかかります。

 1つの講義&例題、または演習を1日でやり切るイメージです。
 1セットあたり、1.5時間~3時間くらいかかります。

★(補足)大数の目安時間表記

 大数シリーズは解答時間の目安を記載している。
 『入試数学の基礎徹底』収録問題のほとんどは、解答時間5~10分である。

 『基礎徹底』では、演習1セットの解答目安は100分~120分。
 そこに答え合わせ等の時間も含めて、150分~180分ほどが1セットやり切る時間になります。気合を入れて1日1セットやっていきたい。

 講義+例題も含めた全30セットは1ヶ月ほどかかります。
 中休みなどを入れたり、1つの演習を2日かけてやるのであれば、1.5ヶ月~2.5ヶ月ほどになる。

 2周目以降は大幅に時短できますので、結局2ヶ月~5ヶ月で合計3周以上できるはず。

・次の問題集

 偏差値50以下の大学を志望するのであれば、次は赤本などの過去問演習でOK。
 この場合、夏頃から解きはじめて、10月くらいに仕上がれば十分です。

 それ以上の大学を志望するのであれば、次のレベルの問題集に進まなければいけませんので、遅くとも8月くらいまでには終わらせたいところ。
 できれば夏休み前に終わらせたいです。
 次に扱うのは『1対1対応の演習』や『標準問題精講』など

 共テのみの場合、この後は共テ対策の演習にスムーズに移行してOK。
 10月くらいまでに仕上げたい。

使用を薦める人

・偏差値55までの志望/共テだけ

 この問題集がゴールになるか、次の問題集があるかどうかで変わってきますが、一番刺さるのは偏差値50前後の大学を志望する受験生です。
 各レベル/志望校ごとの使い方は上に書いてある通りです。

・時間がない

 この手の問題集の中では、問題数は少ない方です。
 上でも書きましたが、これを何周もやる方が、チャートを1周やるよりも理解度は高まります。周回数こそ増えるものの、おおむね時短になるはずです。

・早いうちから基礎を固めたい(高1,高2)

 何気に一番オススメできるパターンです。
 わかりやすく模試の点が伸びるので、さらなる学習のモチベに繋がると思います。
 本当は時間があるならチャートのほうが網羅性が高いしオススメなんですけど、部活が大変だとチャートを全部やり切るのは本当にキツイので……。

その他あれこれ

・大数参考書の宿命:簡素すぎる

 大数の参考書はどれも簡素です。「不親切」「苦手な子には不向き」といった意見も少なくありません。
 『入試数学の基礎徹底』もその例に漏れず、解答や解説はだいぶシンプルです(ただし、他の大数の参考書や問題集に比べれば、解答・解説はだいぶ手厚いと感じます。一応、問題のレベルに合わせて解答の親切さも調整しているようです)
 ですが、このシンプルなレイアウトが、逆に数学が苦手な子に刺さる可能性があります。なので、基礎問などではなく基礎徹底を薦めています。
 以下に、その可能性を述べます。

・「分かったつもり」がなくなるかも?

 1から10まで全てを解説している一般的な問題集は、「読んだだけで分かったつもりになってしまう」ことがしばしばです。
 これには、問題集を立ち読みで買わせるため、という出版社の意図があります。立ち読みで「めっちゃわかりやすい!」と感動させるために、受験生が思考を挟む余地がないくらいに丁寧な解説を記してあるのです。

 簡素な大数書式なら、そのようなことはありません。
 あちこちをガッツリ省略してくる(というか、本来はこんなもんの答案で良いのですが)ので、「わかったつもり」の状態だとしっかり躓くようになっています。

 独学で学習を進める際、一番難しいのは「理解しているかどうか」を判断することです。数学の理解が浅いほど、その判断も難しいです。
 『入試数学の基礎徹底』なら、そういった段階の子でも、自分が本当に理解しているかどうか、しっかり判断できます。

・要点だけ押さえられるかも?

 解説がやたら詳しい問題集だと、その解説のどこが本当に重要か、中々わからないものです。
 例えばチャートなどを使わせると、補足情報が多すぎる問題集のせいで、余計な情報ばかりに気を取られてしまい、本筋の解法が身につかないパターンが少なからずあります。
 そうなるくらいなら、「この問題の方針(やること)はこれ!計算はこれ!」という情報だけ残してくれた方が、遥かに学習がしやすいはずです。
 解説の多さや分かりやすさが、必ずしも成績向上に繋がるわけではありません。

 これらは特に、難易度Aの演習を通過点として、難易度BやCの問題が主戦場となる受験生が重視すべきポイントです。
 手取り足取りのサポートに慣れすぎていると、より思考力が試される問題を前にしたとき、まったく手が出せない、なんてこともザラにあります。俗に言う「旧帝ギャップ」というやつです。

・どのように授業で使ったか

 毎週の課題として3~4単元やらせて、それの解説・補足を授業で実施、という形です。
 少なからず分からない箇所が出てきますので、まずはそこの解説から。あとは冒頭でも述べた通り、「この問題、◎◎大の入試で発展形が出てるよ」みたいな風に問題を再解釈しています。あるいは逆に、「この問題、入試頻出パターンの一番おおもとの基礎の形なんだけど、これがどういう風に発展すると思う?」といった風に問いかける場合もあります。

 生徒のものに書き込みながら授業をするため、余白部分は類題や発展題の紹介や解説の補足などでビッシリ埋まっています。一度仕上げたあとも解法・問題辞典として使わせるようにしていました

まとめ

 個人的には、全受験生使って良い問題集だと思っています。
 基礎を徹底的に固めて、「ウサギとカメ」のカメになりましょう。
 

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