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レビュー Big Thief "Dragon New Warm Mountain I Believe In You"

 今回は、USインディーロック界の至宝、Big Thiefの通算5作目となるスタジオアルバム、
"Dragon New Warm Mountain I Believe In You"のレビューを書いていきたいと思います。

【収録曲】★はシングル曲
1. Change★
2. Time Escaping★
3. Spud Infinity
4. Certainty★
5. Dragon New Warm Mountain I Believe In You
6. Sparrow★
7. Little Things★
8. Heavy Bend
9. Flower of Blood
10. Blurred View
11. Red Moon
12. Dried Roses
13. No Reason★
14. Wake Me up to Drive
15. Promise Is A Pendulum
16. 12,000 Lines
17. Simulation Swarm★
18. Love Love Love
19. The Only Place
20. Blue Lightning

■全20曲、計80分の超大作

 2015年結成、NYブルックリン出身の男女混合4人組インディーロックバンド Big Thief。

 通算5作目となる本作は2枚組で、全20曲、計80分の超大作。

 フォーク、カントリーを軸とした、アコースティックな質感のミニマルな楽曲でありながらも、オルタナティブ・ロックな感性も巧みに取り入れ、繊細かつ力強いサウンドが魅力のBig Thief。

 リードボーカルでギタリストのエイドリアン・レンカーの繊細な歌声と、ギタリストのバック・ミークによる巧みなコーラスワークも最大の見どころの一つ。

 本作は全20曲と非常にボリューミーであるが故に、果たして全編を通じて集中力を維持しながら聴くことが出来うる作品なのかという懸念を持たれたという方、私自身も含め少なからず居たと思いますが、結局のところそれは杞憂に終わったと言っていいでしょう。

 カントリーを基調としつつ、終盤にオルタナ要素を強調しメリハリのある展開を見せた1枚目。

 アコギ1本での弾き語り曲から、大胆に打ち込みを導入した楽曲、オルタナティブ・ロックテイストな楽曲まで、多彩さを見せつけた2枚目。

 曲数が多い中でもしっかり展開をつけた構成、一曲一曲のクオリティの高さ、様々なジャンルの要素を巧みに吸収する多様性、どこを切り取っても賞賛に値する、会心の作品です。

■個性豊かな全20曲

【1枚目】
 アルバムの幕開けを飾る#1 Changeでは、美しいハーモニー、優しく穏やかな音像とは対照的に強烈に響き渡るバスドラが、オープニング曲としての存在感を際立たせている。

 #2 Time Escaping〜#3 Spud  Infinityでは、ハープやフィドルなど多彩な楽器を取り入れ、アイリッシュ民謡的アプローチで一気に音数を増やしつつ、躍動するベースラインによってオルタナ要素を巧みに融合させている。鬱蒼と生い茂る森林、土埃の匂い、眩い太陽光、様々な大自然の風景を思い浮かべるようなスケール感のある音像が魅力。

 最小限のシンプルな味付けで、美しいハーモニーが主役の#4 Certainty、静謐で神秘的なサウンドメイク、繊細な歌声が印象的な表題曲#5 Dragon New Warm Mountain I Believe In You、一つのフレーズがひたすら丁寧に積み上げられていく穏やかなナンバー#6 Sparrow。この3曲はフォーク・カントリーを軸としたアコースティックな質感の普遍的な楽曲群となっている。

 雰囲気が一変するのは#7 Little Things。カラフルな音像、躍動するベースライン、オルタナティブ・ロックな感性が一際大きな存在感を放つ。一見キャッチーなようでいて、決して一筋縄ではいかない。間違いなく1枚目のハイライト。

 #8 Heavy Band、#9 Flower Of Blood、#10 Blurred Viewの終盤3曲は、それまでの楽曲群とは一変し、シリアスな空気感が醸し出され、リズム隊が更なる躍動を見せる。特に#9の楽曲後半にかけて加速するバンドアンサンブルが非常に格好いい。

【2枚目】
 2枚目は、カントリー的アプローチの#1 Red Moonで幕を開ける。軽快なテンポと、躍動するベースラインが印象的な楽曲。

 #12 Dried Rosesは、ほぼギター弾き語りで、終盤にフィドルを添えたシンプルなアレンジ。美しいハーモニーが主役の一曲。

 #13 No Reasonは優しい普遍的なサウンドで、グッドメロディが際立つ。

 大胆に打ち込みを導入した#14 Wake Me Up To Driveでは、さりげなく挿入されるアコーディオンの音像が幻想的な雰囲気を作り出している。

 #15 Promise Is A Pendulumは、アルペジオの響きが切なくも美しい弾き語り曲。

 #16 12,000 Linesは、穏やかな曲調ながら、躍動するベースラインが存在感を放つ。美しいコーラスワークが魅力。

 #17 Simulation Swarmでは、繊細な歌声とメロディに対し、力強いリズム隊が対照的。楽曲後半にかけてボーカルとバンドサウンドがともに熱を帯びていき、エモーショナルに展開していく様相が見どころ。

 歪ませたエレキギターの響きが格好いい#18 Love Love Loveは、一筋縄ではいかないグッドメロディが魅力。

 ギター弾き語り曲#19 The Only Placeは、美しきメロディと繊細なアルペジオの響きが秀逸なナンバー。

 アルバムを締めるのは、カントリー的アプローチの#20 Blue Lightning。ハッピーな雰囲気に包まれ作品は幕を閉じる。



 2022年、まだまだ始まったばかりですがまたしても傑作が生まれました。インディーロック好きや、WhitneyやAndy Shauf、Pinegroveといった系統の音楽にピンと来る方でまだビッグ・シーフの音楽を聴いたことが無いという方は是非聴いてみてください。

 最後まで読んで頂きありがとうございました。

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