Big Thief 全アルバム聴いてみた
NYブルックリンを拠点に、インディーロック/フォークを展開する男女混合4人組バンド、Big Thief。今やインディーシーンにおける最重要バンドと言っていい存在にまで飛躍しましたよね。
インディーロック好きを自称している人であれば、彼らの過去作は網羅しているという方がほとんどかと思いますが、実は私は彼らの過去作を聴いたことがなく、今年リリースされた最新作で初めて聴いたクチです。そして、評判通り、いや評判を軽く超えるクオリティの高さに、これは全作聴かなくては!となった次第です。
というわけで、11月に控える来日公演の予習も兼ねて、オリジナルアルバム全5枚を各1周ずつ聴いてみて、その率直な感想を綴っていきたいと思います。
これからBig Thiefのディスコグラフィーを掘り下げていこうという方の参考になれば幸いです。
それではリリース順に書いていきます。
2016年 1st
"Masterpiece"
表題曲の#2"Masterpiece"でいきなりやられました。デビュー作の時点で、優れたソングライティングと抜群のコーラスワークは既に完成されていたのだということを確認するのには十分な楽曲ですね。#3、#4と聴き進めていっても良い印象は変わりません。
サウンド面においても、フォーク・カントリーを軸に、オルタナ要素を巧みに融合するという、基本的なスタイルは既に確立されていたのだなと思いました。現在よりもオルタナ寄りな感じはしますが。特に#8"Humans"とかオルタナ要素全開でいいですね。
これが次作以降さらにブラッシュアップされていけば、という期待が膨らむ、ダイヤモンドの原石のような作品だと感じました。
お気に入りトラック:Masterpiece
2017年 2nd
"Capacity"
『この楽曲はちょっと地味かな〜』なんて思いながら聴いている曲でも、必ず後半に見せ場を持ってくるのがBig Thiefであって、タダでは終わらないバンドだなあと思わせてくれます。それはソングライティングの面でもそうですし、エイドリアン・レンカーの唯一無二の歌声、歌唱力によるところも大きいと思います。
サウンド的にはデビュー作と同様、どちらかと言うとまだフォークよりもオルタナ寄りなサウンドという印象。表題曲の#3"Capacity"では歪んだギターロックサウンドを展開していますし、#6"Great White Shark"から#7"Mythological Beauty"にかけてはミニマルでありながらもカラフルな音像で、1stから更にバリエーションの豊かさに磨きがかかっている印象を受けました。
当初はソングライティング面でやや地味な印象を受けましたが、聴き進むにつれて彼ららしさがじわじわと増していくような作品で、最終的には進化を感じ取ることが出来ました。
お気に入りトラック:Mythological Beauty
2019年 3rd
"U.F.O.F."
冒頭3曲を聴いて感じたのは、オルタナ要素が減退し、フォーキーでカントリーな路線へとシフトしつつも、ただフォーキーでミニマルなだけの音楽ではないということ。楽曲から発散されるエネルギー、力強さ。前作までと比べて明らかにバンドとしての説得力を増しています。特にそれを象徴している楽曲は#3"Cattails"。
その後は#7"Century"まで、ミニマルかつ繊細な音楽を、静かに丁寧に展開していきます。エイドリアン・レンカーの囁くような歌声はドリーミーでありながらも、確かな存在感を感じずにはいられません。シリアスさがありながらもリズミカルな#8"Strange"を挟み、再びアコギが丁寧に紡ぎだすフォーキーな路線へ。
静かな楽曲ながらも、歌唱のダイナミックさからスケール感が溢れる#10"Terminal Paradise"は個人的に後半のハイライト。スローながらもエッジの効いたギターが牽引する#11"Jenni"が最後の見せ場を作り、#12"Magic Dealer"で静かに幕を閉じます。
本作によって、バンドとしての存在感を獲得、独自の地位を確立し、更なる高みへと昇った感があります。ターニングポイント的作品。
お気に入りトラック:Cattails
2019年 4th
"Two Hands"
前作から1年経たずにリリースされたという本作は、よりシンプルでミニマルなサウンドを追求し音数を減らしているのとは反比例するように、バンドとしての説得力、存在感はむしろ増す一方です。エイドリアンの表現力は更に豊かになり、リスナーの心により力強く響くような素晴らしい歌唱を披露してくれています。
#2"Forgotten Eyes"のようなシンプルでストレートなグッドメロディも素晴らしいですし、#6"Shoulders"や#7"Not"の感情を揺さぶられるような情熱的な歌唱にも引き込まれます。
前作との決定的な違いは、この泥臭いまでの剥き出しの感情表現ではないかと思いました。陳腐な表現にはなりますが、緻密さの3rd、情熱の4thといったところで、私はこの4thの泥臭さを愛さずにいられません。素晴らしい作品に出会えたと感じています。
お気に入りトラック:Not
2022年 5th
"Dragon New Warm Mountain I Believe in You"
1stから4thまでを聴いた後に改めて本作に戻ってきての感想ですが、これはまさしくBig Thiefの集大成的な作品だなと。過去4作の良い部分だけを集めて全部詰め込んだような作品ですね。なおかつ新しさ、進化もあり、全20曲、計80分の超大作ですが、冗長さは一切感じさせません。
フォーク、カントリー色の強いミニマルな楽曲に関しては、ハープやフィドルなどの楽器を取り入れたアイリッシュ民謡的アプローチが作品全体に色彩を与えてくれていて非常に楽しいです。特に#3"Spud Infinity"なんて最高ですね。オルタナ色の強い楽曲に関しては、よりロックバンドとしての肉体的躍動が前面に出てきています。それを特に感じるのは#7"Little Things"と、#17"Simulation Swarm"の2曲で、非常にエモーショナル。
ソングライティング面ではより親しみやすいストレートなグッドメロディが増え、アレンジ面ではリスナーを飽きさせない工夫が随所に凝らされています。
これまで彼らがインディーシーンにおいて築き上げてきた地位を不動のものにする、新たな傑作の誕生と言っていいと思いました。
お気に入りトラック:Spud Infinity
最後に、個人的に好きだった順番を。
1. Dragon New Warm Mountain I Believe in You
2. Two Hands
3. U.F.O.F.
4. Masterpiece
5. Capacity
最新作の5thに辿り着くまでの過程を知ってから改めて聴くことで更に楽しむことができました。本当に素晴らしいバンドですね。これからもずっと追い続けていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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