レビュー Whitney "Spark"
今回は、シカゴのフォークロック・デュオ、Whitney(ホイットニー)の新作、『Spark』のレビューを書いていきたいと思います。
まずはこれまでの彼らのキャリアを簡単に振り返っていきたい。
2015年、前年に解散したインディーロックバンド、Smith WesternsのメンバーであったMaxとJulienの2人を中心に結成。"デュオ"と称される場合が多いが、厳密には彼ら2人以外にも固定のメンバーがおり、計7人のバンド編成である。
2016年、1stアルバム『Light Upon the Lake』をリリース。インディーフォーク、カントリーを基調とし、素朴さと多幸感に満ち溢れたポップソングを展開。美しいメロディとハーモニー、ファルセットボイスが人気を博し、デビューからいきなり脚光を浴びる。
2019年、2ndアルバム『Forever Turned Around』をリリース。基本的には1stの延長線上のようなスタイルで、素晴らしいメロディとハーモニーの健在ぶりを示した。
2020年、カバーアルバム『Candid』をリリース。彼らのルーツである音楽を 、R&B等ジャンル問わず幅広くカバーし、独自の解釈でWhitney流にアレンジした極上のカバー集。
◇
ここからは、オリジナルアルバムとしては3作目となる新作、『Spark』について語っていきたい。
結論から言ってしまうと、本作も素晴らしい出来である。
ただし、これまで一貫して自分達のスタイルを崩してこなかった彼らが、本作では大胆な音楽性の変化を見せている。
それは、煌びやかなシンセサウンド、打ち込みのビートなど、これまでに無かったモダンなアプローチの多用だ。
その新たなアプローチに加えて、従来の持ち味である穏やかで温かみのあるメロディが巧みに融合されており、あくまでWhitneyらしさは失われていないのが良い。
また、アートワークに関してはアルバムタイトルである"Spark(煌めき)"の、ミニマルで美しいイメージを表現しているのだという。
◇
#1 NOTHING REMAINS
シンセの煌びやかなサウンドに、さり気なくストリングスを忍ばせたアレンジが絶妙なナンバー。本作の音楽性の変化は、この1曲目を聴けばすぐに分かるでしょう。ただ、サウンド面では変化しても、歌声やメロディの美しさは不変。このファルセットボイスこそが、WhitneyをWhitneyたらしめているのです。ポップでキャッチーなグッドメロディ。
#2 BACK THEN
細かく刻まれる微かなビートに乗せて、鍵盤の音とシンセが鳴り響くミニマルな楽曲。
#3 BLUE
サウンド面はアップデートしつつも、ソングライティング面で従来のWhitney節が最もよく出ていて、安心感のある楽曲かと。『コレぞWhitney』と言いたくなるような、キャッチーでポップな本作の主役。
#4 TWIRL
静寂の中で、鍵盤の音だけが反響する。ミニマルな構成で、『神秘』『清廉』といったワードを連想するような美しく繊細な楽曲。
#5 REAL LOVE
普遍性に溢れたキャッチーなポップソング。リズミカルなビートとシンセサウンドを基調としつつも、従来の優しい雰囲気がよく出ている。
#6 MEMORY
Whitney本来の優しいサウンドというよりも、少しだけ尖ったサウンドと、ややシリアスな雰囲気が印象的な楽曲。グッドメロディは健在。
#7 SELF
ビートは無く、静寂の中に微かなシンセの音だけが鳴り響く、ドリーミーな楽曲。
#8 NEVER CROSSED MY MIND
淡々と繰り返される打ち込みのビートが印象的だが、メロディラインの素晴らしさは本作でも随一と言っていい出来だし、煌めくようなサウンドも美しい。
#9 TERMINAL
本作の中では最もシリアスでダークな空気感を纏った、切ない雰囲気の楽曲。テンポもスローで、ファルセットを使わない歌唱も彼らとしては逆に珍しい。
#10 HEART WILL BEAT
必要最小限の音数ながら、音の明るさとしては本作随一。まさにSpark(煌めき)というアルバムタイトルに相応しいサウンド。
#11 LOST CONTROL
軽快で力強いビートとカラフルなサウンドが魅力なポップソング。
#12 COUNTY LINES
ビートの無い静寂の中、ストリングスの音がゆったりと静かに流れてゆく。サックスの音色がさりげなく華を添えてくれている。
既に次作の楽曲制作を開始しているというWhitney。本作で新たなサウンドアプローチを示してくれたが、今後、本作が彼らのキャリアにおいてどのような位置づけになっていくのか非常に興味深い。どんな形であれ、次作での更なる進化を期待したい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?