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レビュー The Beths "Expert In A Dying Field"

 今回は、ニュージーランドの4人組、The Beths(ザ・ベス)の3rdアルバム『Expert In A Dying Field』のレビューを書いていきたいと思います。

3rdアルバム『Expert In A Dying Field』


 まずは、The Bethsのことをよく知らないという方のために、簡単に彼らのキャリアを振り返るとともに、その魅力について語っていきたい。

(左から) ジョナサン(g)、ベンジャミン(b)、エリザベス(vo,g)、トリスタン(dr)


 バンドの中心人物となるのは、紅一点のフロントマン、エリザベス・ストークスと、リード・ギタリストのジョナサン・ピアースの2人。同じ高校に通っていた彼らは、それぞれ別々のバンドに所属。大学進学後に同じバンドでプレイすることになる。

 Elizabeth Stokes (Vocal, Guitar)
 Jonathan Pearce (Guitar)
 Benjamin Sinclair (Bass)
 Tristan Deck (Drums)

 バンド結成は2014年。ニュージーランド最大の都市、オークランドの大学で出会ったメンバーによって結成された。メンバー全員が大学でジャズを学んでいた経験からくる、確かな演奏技術と繊細なアレンジは彼らの武器の一つであり、特にドラムのタイトさには目を見張るものがある。

 パワーポップからの影響を感じさせるような疾走感溢れるパワフルなロックナンバーが目を引くが、Alvvaysからの影響を公言するなど、メロディの良さやコーラスワークの丁寧さを活かしてしっとりと聴かせる路線の楽曲も数多くあり、特定のジャンルにとらわれない幅広い音楽性が魅力である。

 2016年にEP『Warm Blood』でデビューを果たすと、2018年の1stフルアルバム『Future Me Hates Me』で世界的な飛躍のきっかけを掴んだ。この1stが高く評価されると、Death Cab for Cutieのヨーロッパツアーのオープニングアクトに抜擢されるなど着実に経験を積み、ライブパフォーマンスに磨きをかけた。

1stアルバム『Future Me Hates Me』


 2020年には2ndフルアルバム『Jump Rope Gazers』をリリース。持ち前のパワフルさや疾走感はそのままに、ソングライティングとコーラスワークの面で更なる進化を遂げた本作で、インディーロックファンからの評価を確固たるものにした。

2ndアルバム『Jump Rope Gazers』


 その後も2021年にはライブ音源を発表するなど、精力的な活動を続けている。

 ここからは、新作"Expert In A Dying Field"の内容について、一曲一曲語っていきたい。

 まず冒頭の3曲がとにかく素晴らしい。この3曲はいずれも先行でMVが公開されており、まさにアルバムの顔である。

#1 Expert In A Dying Field
 優しい響きでありながらもエッジの効いたギターアルペジオが印象的なオープニングナンバー。とにかくギターの音の鳴りが良い。ミドルテンポでじっくりと聴かせるタイプの楽曲で、堅実なソングライティングが光る、グッドメロディな一曲。彼らの真骨頂である、丹念なコーラスワークも素晴らしい。エネルギーを解放するような終盤の見せ場は特に必聴だ。



#2 Knees Deep
 淡々と正確無比なビートが刻まれるアップテンポなこの楽曲は、The Strokesからの影響を受けているという。言われてみれば、ミニマルなサウンドプロダクション、特にドラムの音の響きにこだわりが感じられる。やはりここでも素晴らしいコーラスワークを聴かせてくれる。この曲もソングライティングがかなり優れている。MVも彼らの素朴でキュートな人柄がよく表れていてとても良い。



#3 Silence Is Golden
 本作随一のキラーチューンはどれかと訊かれれば迷わずコレ。正確無比な高速のビートに乗せて、エッジの効いたディストーションギターが掻き鳴らされる。パンキッシュで、エモーショナル。圧巻は、ジョナサンによるラウドかつヘビィなギターソロ。最高。


 冒頭のキラーチューン3曲を終えると、4曲目からは普遍的で良質な楽曲が並ぶ。

#4 Your Side
 何気ない日常の風景さえも色鮮やかに彩ってくれそうな、普遍的なソングライティングが魅力のミドルテンポな楽曲。とにかく丁寧なグッドメロディが光る。優しい音像が包み込んでくれる。


#5 I Want To Listen
 尺としては2分程度と短く、箸休め的な立ち位置の楽曲とも受け取れるが、ここでもしっかりとグッドメロディとコーラスワークで魅せてくれており、聴いていて心地いい。

#6 Head In The Clouds
 アップテンポで、なおかつバンドサウンドもエッジが効いているこの楽曲だが、どこか切ない雰囲気を纏っているのは、コーラスワークによるところが大きいと思う。瑞々しいサウンドのギターソロにも切なさがありエモい。

 ここからアルバムも後半戦に突入。変化球を織り交ぜ、リスナーを飽きさせない。

#7 Best Left
 ディスコ風の、エフェクトが効いたサウンドはThe Killersを意識しているらしい。コレが本作のアクセントとしての機能を果たしている。皆で声を揃えて叫ぶサビがキャッチーで良い。緩急をつけたドラミングも楽しい。


#8 Change In The Weather

 メロディやサウンドは深みのある落ち着いた雰囲気であるものの、リズムにはトリッキーさがあり、そのギャップが面白い。やはりこのバンドはドラムが良い。

#9 When You Know You Know
 どちらかと言えばシリアス寄りな空気が漂っているが、歌心に溢れたグッドメロディが魅力の楽曲で、ソングライティングは本作の中でも5本の指に入るだろう。

 終盤3曲は、フィジカル面で強烈なインパクトを残してくれる。力強い幕引き。

#10 A Passing Rain
 軽快なドラミング、掻き鳴らされるディストーションギターのまるで電流のようなサウンドが非常にインパクトの強い一曲。蓄積させていたエネルギーを解放するかのようなギターワーク。

#11 I Told You That I Was Afraid
 非常に速いテンポで駆け抜ける3分20秒。目まぐるしい展開で息をつかせる暇を与えない。ここでも圧巻のギターソロを披露してくれる。

#12 2am
 彼らの楽曲としては、過去にない奇想天外な展開とサウンドアプローチだと言える。ミステリアスさ、シリアスさを秘めた、彼らの新境地とも言える楽曲かもしれない。


 結論としては、過去2作を僅差で上回っての最高傑作かと。というか、彼らの作品はどれも遜色のない素晴らしい出来です。

 やっていること自体はデビュー時から一貫しており、大きく変わっていませんが、それでいいと思います。彼らは、彼ららしさの中でいかに質を高めていくか、ということが問われるタイプのバンドだと思うので。

 その期待通り、ソングライティングの質はリリースを重ねる度に進化しており、深みを増してくれています。

 もっともっと認知されていいバンドでしょう。過去作のMVやライブ映像、インタビュー記事などを見ても、素朴な人柄が伝わってきます。人気出てほしいですね。是非とも来日を。

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