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レビュー Pinegrove "11:11"

 今回は、現行のUSインディーロックシーンを牽引するバンド、Pinegroveの通算5枚目となるオリジナルアルバム、"11:11"のレビューを書いていきたいと思います。

【収録曲】★はシングル曲
1. Habitat
2. Alaska
3. Iodine
4. Orange ★
5. Flora
6. Respirate
7. Let
8. So What
9. Swimming
10. Cyclone
11. 11th Hour


■従来のPinegroveの質感を崩すことなく得た、大きなスケール感という武器

 通算5枚目、前作『Marigold』から約2年ぶりのオリジナルアルバムとなる本作は、元Death Cab for Cutieのギタリスト兼プロデューサーのクリス・ウォラがミックスを手がけ、フォーキーなサウンドと力強いバンドサウンドが上手く調和したPinegrove特有のバランス感覚に更に磨きのかかった仕上がりとなっている。

 何と言っても本作において特筆したいのはその圧倒的スケール感。あくまで基盤にはフォーキーなサウンドがありつつ、そこに力強いバンドサウンドを織り交ぜていくスタイルで、神秘的な空気までも漂う大きなスケール感を示している。それをやり過ぎないバランス感覚も絶妙で、あくまで従来のPinegroveらしいアコースティックな質感は崩すことなく進化している点が流石。

 よく「インディーロック/EMO」という文脈で紹介されがちな彼らだが、実際に楽曲を聴いてみるとEMOはあくまでもエッセンス程度でさり気ないところがまた絶妙でいい。大体どのアルバムもEMOの影響を色濃く感じさせる楽曲は1〜2曲程度。それがアルバムとしてのフックにもなり、展開に起伏をつけてくれている。

 クリス・ウォラがミックスを手がけたということでふと思い浮かぶのは、もしもインディーズ時代のDeath Cab for Cutieが、そのままの音楽性をとことん極め続けていたら、今のPinegroveのような音楽がその先にあったのではないかということ。どちらが良い悪いではなく、当然メジャー移籍後のデスキャブも素晴らしいのは大前提として、デスキャブの違う世界線をPinegroveが見せてくれているかのような感覚になる。それくらい、現行のUSインディーロックシーンの中でも特に洗練された音楽性の持ち主ではないかと思う。


■普遍性とスケール感を兼ね備えた全11曲

 オープニング曲の#1 Habitatは、まるで静かに燃える小さな炎のように、派手さはなくとも確かな力強さを感じさせてくれる。本作を象徴するような、スケール感に満ち溢れた一曲で幕を開ける。

 続く#2 AlaskaからはEMOのエッセンスが感じられる。力強いバンドサウンドが魅力のアッパーな楽曲。伸びやかなボーカルと重なり合うコーラスが心地よい。

 #3 Iodineは、繊細で優しいアルペジオを基調としつつ、随所でバンドサウンドが絡んでくるメリハリのある構成によって、より楽曲そのものの良さを際立たせている。

 #4 Orangeは、ゆったりとしたテンポながらも、どっしりと強靭なバンドサウンドに支えられ、楽曲の終盤にかけてスケール感が増していく展開に思わず惹き込まれる、初期デスキャブの風味が感じられる一曲。

 #5 Floraは優しい音像とメロディ、温もりに溢れた歌声が持ち味のカラフルな楽曲。この曲の存在が、アルバムの雰囲気を一段階明るく照らしてくれている気がする。

 #6 Respirateはどこか神秘的な雰囲気、クールな空気感が漂う、スケール感に溢れた一曲。素朴なだけじゃない、Pinegroveの新たな一面を開拓する会心の仕上がり。

 #7 Letは、温もりのあるメロディと、メリハリの効いたバンドアンサンブルが光る、キャッチーで穏やかな一曲。

 #8 So Whatは、曲調は穏やかながら、輪郭のはっきりとした力強いサウンドが魅力的なポップソング。

 #9 Swimmingでは、切ない雰囲気のグッドメロディから、終盤にかけてドラマチックな展開へと加速していく様相に惹き込まれる。

 #10 Cycloneは、普遍的なメロディと、力強いバンドサウンドが魅力的なポップソング。

 アルバムの最後を飾るのは、切ない雰囲気を纏ったスロウなナンバー、#11 11th Hour

 早くも今年のインディーロックを代表する一枚になるであろう素晴らしいアルバムが現れました。この先何年も愛聴したい作品です。

 最後まで読んで頂きありがとうございました。

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