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Vampire Weekend 全アルバム聴いてみた

 5年ぶりとなる5th"Only God Was Above Us"をリリースしたばかりのヴァンパイア・ウィークエンド。

 個人的に、彼らの音楽は2008年頃にデビュー作を少し齧った程度で、それ以降は聴いてこなかった。当時高校生だった私はメロコアやEMOなど分厚いギターサウンドばかり聴いていたため、"A-punk"のスカスカな音と、鼻歌系へなちょこメロディ(当時はそう感じた)に辟易とした記憶がある。

 当初はインディーロック界隈におけるカルト的人気としか思っていなかったのが、いつの間にかフェスのヘッドライナーを務めるような大物になっていた。

 新作リリースを機に全作を聴き込み、彼らに対するイメージをアップデートしてみようと思う。

1st『Vampire Weekend』(2008年)

 確か、当時MGMTと並んで新世代USインディーロックの2枚看板的な扱いをされていたような記憶がある。だがフロントマンのEzra Koenigは当時のインタビューで、インディーロックとして括られることを拒み、メインストリームが好きなリスナーにも是非聴いてもらいたいと語っていたらしい。そんな本作の主役は紛れもなくギターであり、特に"Campus"などは痛快なギターロックだとさえ思わせてくれる。"Oxford Comma"などもそうだが、ミニマルでソリッドな音の構造だけを切り取って言えばストロークスにも通ずる所がある。"Mansard Roof"や"A-Punk"などで見られるトロピカルなギターサウンドに、アフロビートの要素を加えるスタイルは当時かなり新鮮に響いたことだろう。リズムアプローチで言えば、"Cape Cod Kwassa Kwassa"が特に面白い。多様な異文化をミックスするスタイルは彼らのトレードマークだが、ただただ斬新なだけに終始しないのは、ギターの裏でストリングスがしっかりと引き締めているのが大きい。この配慮が無ければ、リスナーは置いてけぼりにされていたかもしれない。どこか人を食ったようなインテリな雰囲気が漂っていながらも、同時に硬派な印象も受けるのは、彼らの術中にハマっているということなのだろう。


2nd『Contra』(2010年)

 "Holiday"や"Cousins"などは前作のギターロック路線を引き継いでいるが、"White Sky"や"Run"など、ギターを後退させる代わりにシンセを強調した楽曲の割合が増え、音の厚みが増している。1stの良い部分は残しつつ、新たな要素も積極的に取り入れており、冒頭の"Horchata"をはじめ実験性の強いサウンドが幾つも鳴らされているが、キャッチーさを損なうことはなく、瑞々しいポップネスを保っている。他の作品にも言えることだが、Ezraが紡ぎ出すメロディラインは一筋縄ではいかない味わいがあるものの、"グッドメロディ"と呼ぶには少々アクが強い。例えサウンドプロダクションのアプローチが変わろうとも、この独特のメロディセンスがある限りは、Vampire Weekendらしさが消えることはないのだろうと思う。


3rd『Modern Vampires of the City』(2013年)

 2022年のインタビュー記事によると、Ezraは最終的に10枚のアルバムを作りたいと語っている。そしてその10枚に、それぞれ違った味わいを持たせたいと。私はこの彼のビジョンに好感を持っている。個人的な解釈にはなるが、ディスコグラフィーを縦に積み重ねるというよりも、横一線に並べて平等に扱い、幅を広げていくようなイメージなのだと思う。本作では、1stのギターや2ndのシンセのように、特定の音が前面に出てくることはない。"Unbelievers"や"Step"などがそうだが、ストリングスを含めた全体で上手く均衡を取っており、バロックポップ的な響きも伴う、モノトーンでダークな音像となっている。バンドとしての説得力が格段に増しているが決して押し付けがましさは無く、あくまでナチュラルに風格を醸し出している。とはいえ初期のギターロック要素が消えたわけでは無く、"Finger Back"や"Worship You"など、初期を彷彿とさせる楽曲も随所に見られる。その一方で、その後の打ち込み主体のサウンドプロダクションへと繋がるような楽曲もあり、キャリア全体の良いとこどりをしたような総合的な良さを持ったアルバムだと思う。


4th『Father of the Bride』(2019年)

 プロダクションを手掛けてきたバンドの頭脳Rostam Batmanglijの脱退も経て、6年間のブランクを空けてのリリースとなった本作は、全18曲という重厚な構成となった。ストリーミング全盛の時代にあって、ボリュームの重いものが聴かれづらい傾向は理解していたというが、それよりもアルバム志向のバンドだという自負、アルバム単位での音楽体験を与えたいという信念を貫いたのだという。本作のテーマは、ダークではなくオープンな内容にすることだったそうで、多幸感、温かみに溢れた優しい音像となっている。リフが印象的な"Harmony Hall"をはじめ、"Bambina"や"This Life"など、序盤はギターを前面に出しているが、中盤以降はシンセが主体で、打ち込みが基本線。楽曲クレジットを見ても、多数のゲストミュージシャンの記載こそあれど、ベースとドラムの両メンバーの参加は明確になっておらず、実質的にEzraのソロ作のような形となっている。決してオリジナルメンバー2名との決別を図ったわけではなく、様々なミュージシャンとコラボすることが本作のコンセプトだったらしい。R&B/ネオソウル畑のギタリストSteve Lacyを起用した"Sunflower"をはじめ、ジャンルの垣根を越えたコラボにより全18曲に違った個性を持たせた充実作となった。


5th『Only God Was Above Us』(2024年)

 前作辺りからヘッドライナー級のバンドになり、期待値も更に上がった中での最新作。ジャケットは、解体工場に運ばれ横倒しになった地下鉄の車両の中で撮影されたのだという。ポップな地球のイラストが描かれオープンな印象だった前作とは対照的に、本作のアートワークはどこか閉鎖的にも映るが、その雰囲気はサウンドプロダクションにも現れており、冒頭の"Ice Cream Piano"ではピアノやストリングスと共に荒々しく尖ったエレキギターが掻き鳴らされ、"Capricorn"でもリバーブの効いた重厚なバスドラ、歪んだディストーションギターが鳴り響く。打ち込み主体のサウンドプロダクションは前作以上に緻密だが、そこにヘビィでノイジーという新たな要素を付加している。そういう意味では、"Gen-X Cops"のギターノイズは本作を象徴するような音だと言える。とはいえ、あくまで要素の一つとしてのヘビィさであって、決して暗いアルバムというわけでも重いアルバムでもない。軽快なサックスが心地良い"Classical"や、クワイアを導入した"Mary Boone"など、アーティスティックで華やかな楽曲が並ぶ。本作ではベースとドラムの両オリジナルメンバーの名前がクレジットされたが、参加している曲数は約半数。Ezraの溢れ出るクリエイティビティは留まるところを知らず、今後もバンドの形にとらわれず自由に活動していくのだろう。


 アルバム5枚の個性がしっかりと立ち、そのどれもが濃密な内容だった。

 Ezraが思い描くビジョン通りにいけば、あと5枚ほどはVampire Weekendのアルバムが聴けるはずだと思うと非常に楽しみである。

 今後も、グラデーションのように音楽性を変化させていく彼らのディスコグラフィーを追い続けていきたい。

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