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影に隠れがちなEMO名盤を紹介します

 以前から、EMOというジャンルの解説記事や、私が個人的に敬愛しているEMOの名盤を紹介する記事などを書いてきました。

 今回は、王道のEMO名盤たちの影に隠れがちで、EMOの入り口付近では出会わないような作品を紹介していきたいと思います。

 定番と言われる作品を一周し終えて、更にEMOの世界にどっぷりハマりたいという方向けのネクストステップ的なアルバム達です!

①Penfold『Amateurs & Professionals』(1998年)

 一般的に、90年代EMOを聴き始める入り口となりやすいのは誰でしょうか。SDREや Mineralあたり?それとも、もっとポップなJEWや TGUKあたりでしょうか?

 Penfoldというバンドは、個人的には"裏Mineral"と呼びたい存在です。

 Mineralのように、陰鬱で、内に秘めた感情を突如爆発させるような、これぞエモーショナル!な音楽性なのです。

 しかし知名度的にはMineralの影に隠れている印象です。楽曲の雰囲気の暗さと、決して派手さは無い音楽性(アートワークも然り)からか、なかなか知名度には結びつきませんでしたが、コアなEMOファンからは根強い人気を誇っているバンドです。

 今にも壊れそうなほどに繊細なアルペジオは、Mineral以上の切ない雰囲気を纏っています。

 ネクストステップの第一歩として是非!

②Last Days Of April『Rainmaker』(1998年)

 次作『Angel Youth』(2000年)で大きな飛躍を遂げることになるLDOAの2nd。

 LDOAといえば、『Angel Youth』でのオーケストラを大胆に取り入れた重厚なアレンジや、『Ascend To The Stars』以降の瑞々しいポップソングのイメージが先行しがちで、初期の荒々しくエモーショナルな時期は少々影が薄いところがあります。

 しかし本作は、荒削りで情熱的な演奏と、瑞々しいポップセンスが同居していて、両方の良さが上手く調和した稀有な作品なのです。

 瑞々しく切ないメロディに、Vo.カールの泣き叫ぶかのようなエモーショナルな歌唱、エッジの効いたギターワークが絡んだサウンドは、革新的とも言えると思います。

 エモーショナルハードコアの側面を残しつつ、これほどまでに瑞々しいポップセンスを両立できるバンドが他に存在するのか?

 結果的には『Angel Youth』が世界的な高評価を受ける契機となりましたが、この『Rainmaker』の時点で既に素晴らしい才能が爆発していたことを是非確かめて頂ければと思います。

③Further Seems Forever『The Moon Is Down』(2001年)

 正直この作品に関しては、「影の名盤」なんて記事で取り上げるのは相応しくないという意見もあるかもしれません。限りなくEMOの第一線級に近い存在です。

 幾度となくメンバーチェンジを繰り返しながら、今もなお活動を続けているFSF。4枚のスタジオアルバムを発表していますが、しばしばEMO名盤として取り上げられるのがこの1stアルバム。

 最大の特徴はメロディックさ。全10曲がしっかり歌として聴かせられる楽曲に仕上がっています。そして、緩急自在な楽曲構成。ドラムがかなりトリッキーに暴れ回ってます。

 Dashboard Confessionalのボーカリストとしても知られるクリス・キャラバの情熱的な歌唱も魅力。

④The Get Up Kids『On A Wire』(2002年)

 1stと2ndで見せたような疾走感や、瑞々しいサウンドは鳴りを潜め、成熟した大人のサウンドへと大きな方向転換を行った問題作。TGUKと言えば1stと2ndの確固たるイメージが先行し、どうしてもその影に隠れがちなのは仕方ないでしょう。実際のところ、本作が作品全体として地味なのは否めません。

 では駄作という一言で片付けてしまっていい作品なのか?私はそうは思いません。

 秀逸なソングライティングが光る静かなオープニングナンバー"Overdue"、強烈なポップネスを放つキラーチューン"Stay Gone"、歪んだギターとコーラスが哀愁を漂わせる"Grunge Pig"、徐々に熱を帯びながらじわじわとエモーショナルに展開していく表題曲"Walking On A Wire"、彼らの故郷カンザスを曲名に冠した弾き語り曲"Campfire Kansas"など、個性豊かかつ強力な楽曲が目白押しです。

⑤The Gloria Record『A Lull In Traffic -EP』(2000年)

 伝説のEMOバンドMineralが解散後、フロントマンのクリス・シンプソンと、ベーシストのジェレミー・ゴメスの二人が中心となって結成したバンド、The Gloria Record。2枚のEPと、1枚のフルアルバムのみで解散してしまいました。

 今回紹介するのは、2000年リリースの2nd EP。Mineral活動時に見せたような陰鬱な雰囲気、感情を爆発させるような情熱的なボーカル、そして激しいロックサウンドはここには有りません。

 The Gloria Recordは、エレクトロニックな音像を大胆に導入した、煌びやかで豪華絢爛なサウンドプロダクションが特徴のバンドです。

 Vo.クリスの、まるで泣き叫んでいるかのようなあのナイーブな歌声が、こういう形で活きるとは。エレクトロニックな音像と非常にマッチしています。

 #2 The Arctic Catは特に名曲なので是非聴いてほしい一曲です。

⑥Buddhistson『Buddhistson』(2005年)

 千葉県柏市を拠点に、90年代から活動を続けているインディーバンドBuddhistson。1st,2ndアルバムでは、Mineralからの色濃い影響が反映されたエモーショナルなギターロックを展開しました。

 今回紹介する3rdアルバムは、MineralというよりもThe Gloria Recordからの影響を強く感じるような、煌びやかで豪華絢爛なサウンドプロダクションが特徴です。

 鍵盤、チェロなど様々な楽器を取り入れつつ、大胆な打ち込みの導入や、常識にとらわれない独自の楽曲展開・構成により、プログレッシブな要素を獲得することにも成功しています。

 楽曲同士がシームレスに繋がれていたり、ドラマチックな展開がまるで一本の映画を観ているような没入感を与えてくれます。

 余談ですが、2019年にMineralが来日公演を行った際には、Buddhistsonがオープニングアクトを務めています。また、クリスをゲストボーカルとして迎え、Gloria Recordの"A Lull In Traffic"を披露するという、両者のファンにとってはたまらない、奇跡のコラボレーションも果たしています。

 以上の6作品になります。EMOの世界はまだまだ深い。また紹介記事を書きたいと思います。最後まで読んで頂きありがとうございました。

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