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旧譜レビュー(24年1月)

 次々と新たな音楽が現れては消費されていく時代になった。

 簡単に音楽を手に入れることができるようになったからこそ、丁寧に音楽を聴いていきたい。

 10年、20年と、長く愛聴し続けたいと思える音楽との出会いは貴重だ。

 自分が10年以上愛聴し続けているアルバムを紹介していきたい。



The Pigeon Detectives『Wait For Me』(2007年)

 00年代に現れた有象無象のガレージロックバンドの中で頭一つ抜けた実力を持っていながら、今ひとつ目立ち切れていない感のあるバンド、The Pigeon Detectivesのデビューアルバム。本国UKでの評価と比べると、日本での知名度はかなり低いように感じる。デビュー当時はまだ日本でも多少は注目されていた気がするが、10年・15年と経った今もなお聴かれ継がれている印象は薄い。私個人としては、同時期に登場したThe KooksやThe View、Razorlightらとは少なくとも肩を並べていてほしい存在だと思うし、The Libertinesにだって引けを取っていないと思う。エネルギッシュな勢いの良さばかりが注目されがちだが、このバンドは何よりソングライティングが良い。ド直球なスタイルではあるが、曲はよく書けている。特にこの1stは名曲の連打で、このアルバムに衝撃を受けてバンドを始めましたという若者が続出していたとしても何ら不思議ではない。


Cut Copy『In Ghost Colours』(2008年)

 オーストラリア・メルボルンのシンセポップバンド、Cut Copy。今はなきオーストラリアのレーベルModular Recordingsの飛躍を牽引し、2011年リリースの3rdがグラミー賞にノミネートされるなど、比較的大きな成功を収めたバンドではあるが、それでも私の肌感ではまだまだ過小評価されているような気がする。PhoenixやFoster The People辺りとは今も肩を並べていてほしい存在だと個人的には思っているが、どうしても地味な感は否めない。本作は2008年リリースの2ndだが、ビート重視だった1stよりも歌メロを強調しつつ、ネオンのような色鮮やかな音像はより一層輝きを放っている。3rdでは、このネオン的な音色が減退しただけに、私には本作の素晴らしさが際立って映る。特に"Feel The Love"、"Unforgettable Season"辺りは、私にとって00'sを代表する珠玉のポップナンバーだ。


Nine Black Alps『Locked Out From The Inside』(2009年)

 Sonic Youthからの影響を色濃く受けたマンチェスターのオルタナティブロックバンド、Nine Black Alps。本作は、それまで所属していたレーベルIsland Recordsから契約を破棄され、完全自主制作で発表した3rdアルバム。レーベルへの怒りの感情が、そのままアルバムタイトルとして露わになっている。音楽的にも、バンド史上最もヘビィでラウド。開き直ったかのように、フラストレーションをそのままぶつけた攻撃的サウンドがもはや清々しい。そして何と言ってもこのバンドは元々メンバー全員がElliott Smithをリスペクトしており、ヘビィでラウドながらもメロディを非常に大事にしている点が素晴らしい。それが唯一無二のポップネスに繋がっている。1stリリース時、本国ではNirvanaが引き合いに出されるなど多少持て囃されもしたようだが、その後はほとんど無視され続けてきたと言ってもよい。1人でも多くの人に知ってほしい、最高にヘビィでポップなDIY精神溢れるギターロックアルバム。


Thirteen Senses『Crystal Sounds』(2011年)

 ColdplayやKeane、TravisといったUK叙情派の系譜上にあるバンド、Thirteen Senses。元々情報が極めて少なく、活動の内容が見えにくいバンドではあったが、2014年に4枚目のアルバムを発表して以降は全く音沙汰が無い。どんな理由であるにせよ、優れたバンドの活動が自然消滅的に途切れてしまうというのは余りにも切ない。本作は2011年にリリースされた3rdアルバムだが、彼らのディスコグラフィーの中でも突出して壮大な作風となっている。本作を愛してやまない私でさえ、明らかにオーバープロデュースな瞬間が幾つもあると思っているくらいなので、賛否が分かれるのは間違いない。ただ、そんな華美なアレンジに負けないだけのメロディセンスが遺憾無く発揮されており、壮大なサウンドにも陳腐さは感じさせず、圧倒的な美しさがある。氷のような冷たさを想起させられるボーカルの声質もこのバンドの特徴の一つだが、バンドが奏でる音色は時に炎のように暖かい。そのコントラストに対して私は、このバンドの音楽を聴き続けることの価値を見出している。


 以上の4枚。

 今年も、10年20年後も聴き続けたいと思えるような1枚に出会いたい。

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