【来日決定】American Footballの音楽を聴き直す
EMO界のリビング・レジェンド、American Footballの来日が決定した。
歴史的名盤であるデビュー作(LP1)の25周年記念ツアーの一貫とのこと。
コロナ影響によって単独公演がキャンセルとなった経緯もあり、フジロック'19以来、6年ぶりの来日ということになる。
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◾️プロフィール
活動期間:1997年〜2000年、2014年〜現在
活動拠点:アメリカ🇺🇸イリノイ州
ジャンル:EMO/ポストロック
◾️メンバー
Mike Kinsella (ボーカル、ギター) 左1
Steve Holmes (ギター) 右2
Nate Kinsella (ベース、鉄琴) 右1 ※14年加入
Steve Lamos (ドラム、トランペット) 左2
◾️ディスコグラフィー
'99年 1st『American Football』(通称:LP1)
'00年 解散
’14年 再結成
'16年 2nd『American Football』(通称:LP2)
’19年 3rd『American Football』(通称:LP3)
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1999年 1st『American Football(LP1)』
当初、マイク・キンセラは兄のティムと共にCap'n Jazzで活動しており、マイクはドラム担当だった。解散後、大学の同級生とAmerican Football(以下、アメフト)を結成し、マイクはフロントマンとなった。Cap'n Jazzは、EMOやポスト・ハードコア色が濃いバンドであり、アメフトの3人にとってもEMOやハードコアがルーツであることには間違いないのだが、それに留まらない音楽性を意識していたという。シューゲイザー、ポストロック、ジャズ、フュージョン、アンビエント等、様々な音楽からの影響を取り入れる。在学中は、BraidやThe Promise Ringなど、当時のEMO界隈で人気だった同郷のバンドのオープニング・アクトを務めるなどしたが、アメフト自身はこのバンドで食っていけるという自信は全く無く、卒業間際に半ば最後の思い出作りのような形でアルバムを作り上げ、完成と同時に解散したそうだ。その時は、まさか後年まで語り継がれるようなアルバムになるとは本人たちは思ってもみなかった。それが長い年月を経て、歴史に残る大名盤として徐々に認知されていくことになる。
#1 Never Meant
#6 But the Regrets Are Killing Me
#8 Stay Home
上記3曲の、息を呑むほどに美しいアルペジオが本作のハイライト。いずれの曲も歌詞はどうしようもなく後ろ向きだが、アルペジオの旋律は淡く細い光を紡ぎ出し、作品にコントラストを与えてくれている。
#3 Honestly?
#5 You Know I Should Be Leaving Soon
#7 I'll See You When We're Both Not So Emotional
ポストロック然としたタイトなリズムを前面に出した上記3曲は、緊迫した空気感でアルバムを引き締める。
#2 The Summer Ends
#4 For Sure
#9 The One With The Wurlitzer
張り詰めた空気を弛緩させるのは、上記3曲においてドラマーSteveが響かせるトランペット。幻想的で哀愁漂う音色が、作品にとって欠かせないアクセントとなっている。
2014年 2nd『American Football(LP2)』
解散から年月が経ち、マイクは自身のソロ・プロジェクトOwenで成功を収めるが、それ以上にアメフトの評判が世界的に高まっていく。周りから何度も再結成を勧められるが、当初はその高評価を今一つ信じることができず、戸惑い、断り続けていたという。やがて自分達の音楽がいかに世の中に浸透しているのかを思い知ったメンバーは、再結成を決意する。マイクの従兄弟であるネイト・キンセラをベーシストとして迎え入れ、新たに4人体制となった彼らは、イリノイを飛び出し世界中でプレイすることになる。
#1 Where Are We Now?
#2 My Instincts Are the Enemy
#3 Home Is Where the Haunt Is
#5 I've Been So Lost for So Long
本作の特徴は、トレードマークであるアルペジオの響きに、前作よりも開放的で明朗なニュアンスがあることだ。特に上記4曲にはその傾向が見られる。
#4 Born to Lose
#6 Give Me the Gun
#7 I Need a Drink (Or Two or Three)
タイトなドラミングとベースラインは本作でも勿論健在で、特にこの3曲にはポストロック的なアプローチが見られる。
#8 Desire Gets in the Way
個人的に本作のハイライト。『繊細なアルペジオ + ポストロック + マイクの歌唱が激エモい』と魅力が目白押しで、アメフトの良さが詰まった1曲。
#9 Everyone Is Dressed Up
前作で大活躍だったトランペットは本作ではほとんど出てこないが、アルバムのラストを飾るこの曲は唯一、その音色を聴くことができる。
2019年 3rd『American Football(LP3)』
前作から僅か3年というスパンで届けられた3rd。今回のジャケ写には、彼らのモチーフとも言える"家"は使用されておらず、彼らの地元イリノイ州アーバナの外れ、霧がかかったような幻想的な風景が映し出されており、バンドとして新たなフェーズに入ったことを予感させてくれる。音楽性としても、ビブラフォン(鉄琴)を大胆に取り入れたり、3名のゲストボーカルを迎え入れたりと新機軸を打ち出している。2019年にはフジロックWHITE STAGEにも登場するなど、精力的に活動を展開。
#1 Silhouettes
ビブラフォンによる印象的なイントロでアルバムは幕を開ける。何層にも連なるサウンドレイヤーが幻想的・神秘的な空気感をもたらす、本作の象徴的なナンバー。
#2 Every Wave to Ever Rise (featuring Elizabeth Powell)
#3 Uncomfortably Numb (featuring Hayley Williams)
#6 I Can't Feel You (featuring Rachel Goswell)
本作では3名の女性ボーカリストを迎えている。Land of Talkのエリザベス・パウエル、 Paramoreのヘイリー・ウィリアムズ、 Slowdiveのレイチェル・ゴスウェルという、それぞれ活躍するシーンも個性も異なる多彩な顔ぶれだ。ただ、多数のゲストボーカルを迎えているからといって、歌メロにフォーカスしているのかと言えば少し違う。むしろ本作はこれまでで最もアンビエント的だ。3名のボーカルに関しても決して前面に出てはおらず、ビブラフォンやストリングスの音色に溶け込み、混ざり合い、幻想的な空気感を作り出すことに徹している。
#4 Heir Apparent
#5 Doom in Full Bloom
本作ではベースとドラムを前面に押し出したような楽曲は無く、ポストロック的なアプローチを減退させ、歌とビブラフォンを含めた全体のバンドアンサンブルで魅せようという姿勢がうかがえる。特に#5はその辺りのバランス感覚が優れている。
#7 Mine to Miss
#8 Life Support
本作を包む幻想的なムードには、タイトなリズムよりも、十分に余白を取った雄大なドラミングの方がよく似合う。
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ここ最近はアメフトにデスキャブに、嬉しい来日決定のニュースが続いた。MEWの解散という悲しい知らせもあったが、こちらも密かに来日を期待している。来年の1〜3月が早くも楽しみだ。