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1〜2月 新譜レビュー

 今回は、1〜2月にリリースされた新譜のレビューを書いていきたいと思います。


Måneskin『RUSH!』

 イタリアから世界へ飛び出し、一気にスターダムを駆け上がった4人組。華のあるビジュアルと、ド派手なライブパフォーマンスが取り上げられがちだが、楽曲の質の高さも本物。人気を獲得したことで変に音楽性がブレることもなく、相変わらず初期Arctic MonkeysやThe White Stripesを彷彿とさせるようなギターリフが満載。なおかつ、前作よりも更にメロディアスで更にスケールの大きい楽曲を展開し、正統派バラードも有りと、バラエティに富んだ内容。全17曲ってちょっと多くないか?と最初思ったし、先行シングル曲が終盤に固まっている曲順も「?」という感じで、実際聴いてみてもイマイチ統一感の無いごちゃ混ぜなアルバムだと感じるけど、それを蹴散らすだけの勢いと、ロック界の覇者になろうという野心は確かに感じる。何より、彼ららしいサウンド、元々の良さが消えてしまわなかったことが良かった。ただ、曲順もしっかりと練ってくれた方が、個人的にはもっと推せたかな。まあ、統一感の無さを差し引いても、総合的にプラスに転じられるだけの強度を持ったアルバムだとは思う。



Aiming For Enrike『Empty Airports』

 ノルウェーのマスロックデュオによる通算5作目。コロナ禍で空っぽになった空港を表現したコンセプトアルバムだという本作は、前作までの爆裂ギターサウンドとは打って変わって、静謐でアンビエントな路線となっている。ギターとドラムのみというミニマルな構成ながら、ありとあらゆるエフェクトを凝らした多彩なアプローチといった面は本作でも健在である。ただ、とにかくスリリングでダイナミックなマスロックに期待していたというファンは間違いなく肩透かしを食らうであろう内容。私もその一人。1〜2曲でもいいから、フィジカル的な躍動感に満ち溢れた、メロディックな楽曲も聴きたかったというのが正直なところ。新たなチャレンジを試みる姿勢は素晴らしいとは思うものの。全10曲で75分と尺が非常に長めなのも、個人的にはポジティブに捉えることができなかった。今後もこの路線で行くのか?それとも彼らのキャリアにおける異色作となるのか?次作に注目していきたい。



カネコアヤノ『タオルケットは穏やかな』

 アルバムタイトルから、何気ない日常を描いた素朴な雰囲気を連想していたが、実際は人間の内なる不安や葛藤、人と人との繋がり、あるいはすれ違いが描かれており、どこかシリアスな一面も秘めている。それはサウンドにも表れており、オルタナティブフォークと称される音楽性を展開してきた中で、これまで以上にバンドサウンドが強化され、時折轟音とも言うべき重厚なギターサウンドが掻き鳴らされている(特に#1,#5)。音楽的変化は確かに感じるが、彼女本来の素朴さや、丁寧なソングライティングも失われてはおらず、とっつきづらい作品というわけでは決してない。そこはやはり彼女の歌声が持つ力、個性によるところが大きい。ピュアさと、捻くれた感じを両方持ち合わせた歌声だと思う。繊細さよりもまずスケールの大きさ、パワー、生命力を感じるような、泥臭く人間臭い作品。



Jonah Yano『Portrait of a Dog』

 広島出身でトロント在住の日系カナダ人SSW、ジョナ・ヤノの2ndアルバム。2020年リリースの前作『souvenir』では、フォーク、ネオソウル、サイケ、ジャズといった要素を巧みにブレンドしたモダンなサウンドが高い評価を受けた。続く本作においてもそれらの要素は引き継がれているが、中でも最も強調されているのはジャズの要素だ。ほとんどジャズアルバムだと言ってもいい。それもそのはず、同じトロントを拠点とするジャズバンド、BADBADNOTGOODが全曲にわたって作曲・アレンジ・演奏で参加している。そこに、ネオソウルやフォークの要素を足しているようなイメージだ。より自由度を増した楽曲展開と、鍵盤やサックスの煌びやかなサウンドで新境地を示した。ジャジーでドリーミーな音響に、彼の淡く伸びやかな歌声もよく合っている。今回、良い意味でギャップを最も感じさせてくれた作品。



Phum Viphurit『The Greng Jai Piece』

 タイ・バンコク出身のシンガーソングライターによる2作目のフルアルバム。9〜18歳をニュージーランドで過ごし、大学進学と共に再び故郷タイへ戻ると、2014年から音楽活動を開始。インディーフォークを軸として、ファンクやソウルも包括した多様な音楽性が評価され、2018年にはワールドツアーを行うなど、世界規模のアーティストへと成長。2作目となる本作では、アートワークからして既にタイのイメージが取り込まれており、サウンド面でもタイの伝統的な楽器を取り入れているという。どこか祝祭的かつ神秘的でエキゾチックなムードを漂わせつつも、小気味の良いギターワークや、大胆な打ち込みの導入など、洗練された都会的なサウンドも上手く融合させている。このあたりのバランス感覚が絶妙で、彼の優れたセンスを感じさせる。その他、タイとアメリカをルーツとするSSWのHugoや、以前から交流のある日本のトラックメイカーSTUTSと共作した楽曲も収録され、充実の2ndアルバムとなった。余談だが、タイトルの「Greng Jai」はタイ語で「遠慮」の意。「遠慮」という概念は日本人特有のものかと思いきや、タイ人にも日本人に似た性質がある。特に、相手を傷つけないよう、対立を避けるように接する、という心理が強いようだ。



Paramore『This Is Why』

 紅一点ボーカリスト、Hayley Williams率いるパラモアの通算6作目。ここのところ、様々な女性アーティストらがHayleyからの影響を公言するなど、女性ロックアーティストのカリスマ的な存在感を示している。パラモアとしては、3作目までのポップパンク/ EMO路線にとらわれず、4作目以降はシンセポップ要素を強め、ダンサブルなアプローチも見せるなど音楽性を拡げてきた。本作では更に新境地を開拓し、より成熟した音楽性を見せつけつつ、ロックバンドとしてのフィジカル的躍動感も見事に残した会心の仕上がりとなっている。音作りとしてはミニマルでシンプルながら、ギターの音色の多彩さ、アレンジの巧みさ、そしてソングライティングの良さが光る。10曲36分というコンパクトな尺も良い。何より、根底の部分に、ルーツであるポップパンク/EMOの精神を感じられるところが素晴らしい。バンドのキャリアを総括する、一つの到達点的な作品と言えるだろう。



Andy Shauf『Norm』

 カナダのSSWによる通算8作目。2016年リリースの5th『The Party』と、6th『The Neon Skyline』が高く評価され、インディーフォークにおける地位を確立。物語性の強い歌詞が特徴で、作家的であると評されることも多い。前作の7th『Wilds』は6thのアナザーストーリー的位置づけで、共通の登場人物が存在するなど、キャリアを通じて一つの世界観を描いているかのようだ。サウンド面では、5th, 6thでは細部まで作り込んでいたのに対し、7thは意図的にラフな音作りにしていたところがあった。8thとなる本作でも、全編にわたって鳴らされているシンセの音色が、どこかぼやけたような幻想的な音像を作り出しており、あえて輪郭を鮮明にしない意図が感じられる。全体的に非常にスローテンポで、リズム的な動きも少ないが、優しいポップセンスに溢れた表題曲の#6 Norm、ややテンポアップした#7 Halloween Store、リズム面で細かなアプローチが見られる#8 Sunset、この3曲のあたりから、本作に少しずつ起伏が出てくる。ただ、それでも前半において起伏に乏しい感は否めない。前半5曲に関して言うと、ぼやけたのは音像だけでなく、メロディラインにも及んでしまっている。意図してのことなのかもしれないが、それが良い方向に出ているとは言い難い部分がある。後半の持ち直しにホッとしたというのが正直なところ。ちょっと不思議で、奇妙な雰囲気も漂う作品。



Yo La Tengo『This Stupid World』

 USインディーロックシーンの重鎮による通算16作目。私個人としてはこのバンドの作品を聴くのは初めてで、何の先入観も持つことなく聴くことができた。ヨラテンゴ初心者の感想としては、非常にノイジーなギターが一定の緊張感を保ちつつも、それに反するような緩さ、浮遊感が常に漂っているなと。全9曲49分と、1曲あたりの尺はやや長めだが、不思議と冗長さは感じない。"間"の使い方が巧みであるが故だろう。ノイズと静寂が互いにぶつかり合い均衡を保っているイメージで、決して混ざり合ってはいない。それでもバランスは取れている。楽曲の作りはラフで掴みどころの無い感じだが、強度は高い。ベテランならではの職人的な作品だと感じた。



 以上の8枚です。

 総合的に今回最も素晴らしいと感じたのはParamore。

 個人的に推したい、もっともっと広く注目されてほしい存在はPhum ViphuritとJonah Yano。オススメです。

 最後まで読んで頂きありがとうございました。

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