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2024上半期 新譜レビュー

 今年も早いもので半分が経過した。

 良かったものから期待外れだったものまで、気になったものをランダムにレビューしていく。

◾️ヘッドライナー級の大物

 ビッグネームでまず名前を挙げたいのはThe  Smileの2nd『Wall of Eyes』。'22年の前作『A Light For Attracting Attention』は、思い切りギターロックサウンドを掻き鳴らしているように見えて、その中身は難解で取っ付きづらかった。それに対して本作は、難解なエレクトロ・アンビエントのように見えて、その中身は至ってシンプルなアプローチで聴きやすい。重厚で濃密な全8曲。

 次いで良かったのはVampire Weekendの5th『Only God Was Above Us』。ロスタム脱退以降、実質エズラのソロプロジェクトと化しており、本作でもベースとドラムの両メンバーが参加する楽曲は約半数に留まるなど、前作に続いてプログラミング主体となっている。ただ、ディストーションギターやリバーブの効いたバスドラなど、これまでになくヘビィでノイジーな要素を強調し、それをストリングスやクワイアと共存させるサウンドには真新しさがある。

 一方で、Kings Of Leonの9th『Can We Please Have Fun』は、高い期待値を超えられなかったと感じた。中盤は味わい深いソングライティングで見せ場を作るも、後半は捻りの無いキャッチー路線に走ってしまい失速、といった印象。非常に惜しい仕上がりだった。

 印象が変わったのはBillie Eilish。これまで彼女の音楽を良いと思ったことは正直無かったのだが、最新作『Hit Me Hard and Soft』は純粋にソングライティングの良さで勝負してきているなと感じるし、実際に曲が良い。


◾️キャリア20年以上のベテラン

 シューゲイザーのオリジネーター、Rideの最新作『Interplay』には、残念ながら刺さるものが無かった。私の場合、'19年の前作『This Is Not A Safe Place』があまりにも好きで、最高傑作だと思っているくらいだったので、期待値が上がり過ぎていたこともある。ただ、このバンドは元々振れ幅が大きいので、今回は下振れのタイミングだったと思うことにする。

 ベテランと言えば、J Mascisの最新作『What Do We Do Now』は相変わらずの職人ぶりが発揮された良作だった。この人はダイナソーJr.も含めて30年以上、やっていることは何ら変わっていない。どこまでもエバーグリーンで素朴なメロディを歌い、そこに痛快なギターリフを組み合わせる。毎度安定のクオリティだが、今回は平均点を上回るクオリティだと思う。

 久々に存在感を見せたのはMGMTの6年ぶりとなる5作目『Loss Of Life』。あまりベテラン感のない彼らだが、結成は'02年らしいので一応キャリア20年以上ということになる。'08年のデビュー作『Oracular Spectacular』はインディーロックファンなら誰もが認める傑作だったが、2nd以降は気を衒い過ぎなのか迷走気味だった。本作では奇抜さを抑えており、このバンドらしからぬ優しいサウンドとメロディに新鮮さがある。そこに従来の遊び心も織り交ぜ、バランス感覚の優れた良作となった。

 USインディーのベテラン、The Decemberistsが、6年ぶりとなる9作目、『As It Ever Was, So It Will Be Again』をリリースした。傑作6th『The King Is Dead』で全米を制してから早いもので13年が経つ。それに続く7thも素晴らしい出来だったが、2018年の8thはソングライティングの面で精彩を欠き、失速。本作での復活を密かに期待していたのだが、残念ながら傑作と呼ぶには及ばない内容だった。所々、かつてのセンスの良さが垣間見える曲もあったが、全体で言えば、どこにでもある凡庸なポップソング集と言わざるを得ない。


◾️インディーポップ/フォーク/SSW

 インディーフォーク界隈のSSWでは、Adrianne LenkerとKaty Kirbyの二人が特に素晴らかった。

 まず、Adrianne Lenkerの最新作『Bright Future』。自身のソロ活動においてキャリアハイなのはおろか、Big Thiefの作品をも凌ぐほどのクオリティではないかと思っている。メロディの良さや歌声だけで人の心を震わせることが出来るなら、それに越したことはない。余計な音を足す必要など一切ないし、それが究極だと思う。そして彼女には、それができる。類稀なる才能。

 そしてそれに並ぶのがKaty Kirbyの2nd『Blue Raspberry』。'21年の会心のデビュー作『Cool Dry Place』を凌ぐ傑作と呼びたい。元々、キャッチーながらも捻りのあるメロディラインには光るものがあったが、それに加えて、前作では素朴な味付けだったアレンジが、シンセとストリングスによって表情豊かでエレガントなものへと変貌を遂げている。音を足し過ぎない匙加減も絶妙。あまり話題になっていない気がするが、私の中では間違いなく、Addrianne Lenkerと並んで年間1位候補の筆頭だ。

 上記2人の次点として挙げたいのはWaxahatcheeの『Tigers Blood』。これも十分に素晴らしい出来ではあるのだが、上記2人が恐るべき完成度と感じたので、次点とした。前々作までのオルタナ路線も悪くないが、前作『Saint Cloud』からのアメリカーナ・カントリー的なアプローチの方が彼女には合っていると感じる。

 Faye Websterの5作目『Underdressed at the Symphony』は、メランコリックな雰囲気、リラックスしたムードなど、彼女らしさが十二分に感じられる。時折覗かせるオルタナな一面も見逃せない。前述の3人とタイプは全く異なるが、彼女には彼女の良さがある。 

 Real Estateの4年ぶり6作目となる最新作『Daniel』は、過去の5作品から、シンプルでストレートな楽曲のみを丁寧に抽出したかのような珠玉のポップソング集となっており、私個人としては最高傑作。長尺のインストナンバーや実験的な音などは廃されており、至ってシンプル。5年後も10年後も変わらずに愛聴できるであろう普遍的な傑作。

 グラスゴーのインディーポップバンド、Camera Obscuraの実に11年ぶりとなる6作目、『Look To The East,  Look To The West』。ベルセバやTeenage Fanclubら、同郷のレジェンド達と並べると地味な印象があり、過去作にも正直あまりピンと来ていなかったが、この最新作は本当に素晴らしかった。インディーポップの魅力が詰まった作品。


◾️オルタナ、その他

 テキサスのファンクトリオ、Khruangbinの4作目のスタジオアルバム『A LA SALA』は、個人的には文句無しの最高傑作。東南アジアのポップスからの影響によるエキゾチックな雰囲気、特有のグルーヴ感・サイケ感は彼らのトレードマークだが、本作ではそれらがよりダイレクトに感じられるようなシンプルなアプローチがなされており、それが功を奏している。

 UKリーズのポストパンクバンド、Yard Actの2nd『Where's My Utopia?』は、あらゆるジャンルからの影響がより自由に表現されている。1stでもその片鱗は見られたが、ディスコ/ファンクだけでなく、本作ではHiphop要素も更に強調するなど、型に嵌まらないスタイルは健在。私のように、未だにデビューEP『Dark Days』のソリッドなサウンドの幻影を追いかけているようなリスナーは、このバンドの変化のスピードにどんどん取り残されていくことだろう。

 スティーヴ・アルビニの逝去により、2012年の2ndが再注目(?)を浴びたCloud Nothingsだが、最新作『Final Summer』はポストハードコアの要素は薄れ、ポップサイド寄りな作風となっている。このバンドはアルバムごとに作風の振れ幅が大きい。人気・評価ともに高いのはポストハードコア路線の方だとは思うが、案外ポップサイドも悪くないと思わせてくれるだけの力が本作にはある。ポップに仕上げる上で、ザラついたギターの質感と疾走感を失っていないのが大きい。

 ハードコア・パンク界隈で注目したいのはOne Step Closerの2nd『All You Embrace』。デビュー作から飛躍的な進化を遂げている。この手のバンドはどうしてもビートが一本調子になりがちで、いかに飽きさせないリズムパターンを叩けるかが肝要だと思っているが、そういう意味で本作は一つ殻を破った感がある。ギター・歌声ともに比較的クリーンで、メロコア・スクリーモ寄りなアプローチとなっているため、デス声に抵抗がある方でも入りやすいはず。今後ソングライティング面に更に磨きをかければ、文句無しの傑作が生まれるはずだ。


◾️新人

 シカゴから現れたインディーロック界の新星、Frikoのデビュー作『Where we've been, Where we go from here』は巷で今年一番の反響を呼んだ話題作だ。どこか陰鬱でノスタルジックな雰囲気にはアーケード・ファイアの1stを彷彿とさせるものがある。アルバム全体で見ればまだまだ荒削りな印象も受けるが、個々の楽曲のクオリティ、とりわけ冒頭3曲には非凡なものを感じる。今後に期待。

 The Last Dinner Partyのデビュー作『Prelude To Ecstacy』もまた、今年最も話題を呼んだアルバムの一つ。強烈なビジュアルも含めたキャラクターの濃さにはMåneskinを彷彿とさせるものがある。音楽性に関しては、過剰気味な演出に陳腐さを感じる瞬間が無いとは言えないが、ソングライティングの面で一定のレベルの高さを示しているとも感じるし、こういうストレートなバンドサウンドを鳴らす新人が注目されている今の状況には新鮮さを感じる。


 下半期は、間も無くリリースされるCigarettes After SexClairoFontaines D.C.らの新譜に期待したい。

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