見出し画像

レビュー Death Cab for Cutie "Asphalt Meadows"

 今回は、USインディーロック界の雄、デスキャブことDeath Cab for Cutieの通算10作目となるオリジナルアルバム、"Asphalt Meadows"のレビューを書いていきたいと思います。

節目の10作目"Asphalt Meadows"


 前作"Thank You For Today"のリリースから4年という長い時間が経過しているものの、その間には、フジロック2019における豪雨のWhiteステージでの伝説のパフォーマンスや、"The Blue"、"The Georgia"という2つのEPのリリースなどがあり、さほどブランクを感じさせない。

フジロック2019 豪雨のWhiteステージ


 新作のレビューを書いていく前に、彼らのことをよく知らないという方のために簡単にキャリアを振り返っておきたい。

 まず1997年の結成時は4人組で、デビュー作から4作目まではUSインディーシーンで着実に地位を築いていく。特に4作目の"Transatlanticism"は、インディー時代における彼らの最高傑作にして、00年代USインディーシーンの金字塔的作品でもある。

(左から) ニック(b)、ベン(vo,g)、クリス(g)、ジェイソン(dr)


 2005年リリースの5作目"Plans"でメジャーレーベルへ移籍すると、緻密なサウンドプロダクションに磨きをかけ、そこから4作連続でグラミー賞にノミネート。6作目"Narrow Stairs"では全米チャート1位を獲得するなど、一躍大きな成功を掴んだ。

 最大の転機は2014年。バンドの頭脳・司令塔であり、プロデューサーとしてサウンドプロダクションを手掛けてきたギタリストのクリス・ウォラが脱退。

 バンドは大きなショックを受けることになるが、それを乗り越え、2015年に8作目"Kintsugi"をリリース。このアルバムタイトルは、割れた陶器を修復し、より一層の美しさを引き出す日本の伝統的技法「金継ぎ」に由来しており、クリスの脱退を受け止め更に進化しようというバンドの意志が示されている。

 2016年には、新たに2人のメンバーを加え、5人体制として新たなスタートを切る。

新メンバーのデイヴ(左2,g)とザック(右1,key)


 2018年、5人体制として初のアルバムとなる"Thank You For Today“をリリース。インディー期を彷彿とさせるような素朴で優しいサウンドに、程よくメジャー期のサウンドメイクが施された、絶妙なバランス感が魅力の作品となった。

 前置きが随分長くなったが、ここからは待望の10作目、"Asphalt Meadows"の内容に触れていきたい。

 先行シングルとして公開されたのは、
"Roman Candles"
"Here to Forever"
"Foxglove Through The Clearcut" の3曲。

 まず、どの楽曲も生のバンドサウンドの質感、"ロックバンド"としての躍動を色濃く感じさせる内容が非常に印象的である。

 最初に公開された"Roman Candles"を一聴した時点では、そのサウンドから、ややストレンジで掴みどころのない印象を受けたのだが、それと同時に、"俺たちはロックバンドだ"とでも高らかに宣言するかのようなバンドサウンドに思わず期待が高まったのもまた事実。


 その期待を更に膨らませてくれたのが、次に公開された"Here To Forever"。6thの"No Sunlight"や"Long Divison"といった楽曲を彷彿とさせるようなアッパーなロックサウンドが鳴らされており、これはかなりフィジカル面を強調したアルバムになるのではないか?という予感が。


 そしてその予感を確信に変えたのが、3番目に公開された"Foxglove Through The Clearcut"だ。ミステリアスな雰囲気に包まれたこの楽曲は、スポークンワードで展開する"静"の部分と、一気にバンドサウンドを解放する"動"の部分のコントラストが印象的。


 その確信を持って1曲目の"I Don't Know How I Survive"を再生する。これもまた"静"と"動"のコントラストが鮮明な楽曲だ。この手のタイプの曲でアルバムの幕を開けるのは、6thの序曲"Bixby Canyon Bridge"を彷彿とさせる。力強くダイナミックな幕開け。

 2曲目に先行シングルの"Roman Candles"で更に高揚感は高まり、作品の勢いは一気に加速する。

 続く3曲目は表題曲の"Asphalt Meadows"。軽快なビートに乗せて鍵盤をドラマチックに響かせるパートでは最小限の音数で構成し、サビでは一気にバンドサウンドを重ねていくことで、しっかりと聴き応えのある展開へと仕上げている。力強くアッパーな一曲。


 4曲目の"Rand McNally"ではスローテンポでどっしりとした重厚なリズム隊を土台としつつ、ここでも鍵盤やシンセを有効に使いドラマチックな雰囲気を演出している。

 5, 6曲目はともに先行公開曲の"Here To Forever"と"Foxglove Through The Clearcut“で、ここが間違いなくアルバムの顔となる部分だろう。

 7曲目の"Pepper"はとにかくソングライティングが優れた美メロな一曲で、シンプルな8ビートに乗せて、必要最小限の装飾が施され、程よくゴージャスに仕上げているのがいい。これはかなり人気曲になりそうな予感がする。


 続く8曲目の"I Miss Strangers"。これは第2の"We Looked Like Giants"的ポジションになり得るのでは?タイトなバンドサウンド、エッジの効いたギターカッティングが非常にエモーショナルでドラマチックなロックナンバー。


 9曲目の"Wheat Like Waves"も丹念なソングライティングが光る優しいポップソング。"Pepper"とともに、作品の質を高めてくれている。

 10曲目の"Fragments From the Decade"は静謐な雰囲気漂うサウンドが支配するスローテンポな楽曲。

 アルバムのラストを飾るのは"I'll Never Give Up On You"。重厚なドラミングを軸に、エッジの効いたエレキギターと鍵盤の音色を巧みに織り交ぜている。




 彼らの通算10作目となる本作だが、個人的には彼らのキャリアの中でも上位に食い込める出来栄えだと感じた。

 サウンド面では、初期のインディー時代における生のバンドサウンドの質感と、メジャーデビュー以降の緻密で繊細なサウンドプロダクション、それぞれの良い部分がブレンドされた絶妙なポイントを突いている。

 ソングライティング面でも、ここ直近3作と比較してもメロディックな楽曲が揃っており、印象に残るグッドメロディが多い。

 クリス・ウォラの脱退以降、以前と比較するとやや存在感が落ち気味な印象もあるデスキャブだが、まだまだ才能は枯れていない。5人体制になってからの作品の充実ぶりも是非ともアピールしていってもらいたい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?