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レビュー Sadurn "Radiator"

 今回は、フィラデルフィア発のインディーフォークバンドSadurnの記念すべきデビュー作、"Radiator"のレビューを書いていきたいと思います。

デビュー作 "Radiator"

【収録曲】
1. Snake
2. Moses Kill
3. Golden Arm
4. Lunch
5. Special Power
6. The Void / Madison
7. White Shirt
8. Radiator
9. Icepick
10. <---

■ミニマルでローファイな、インディーフォーク界の新人

 Run For Cover Recordsというレーベルで、なおかつ活動拠点がフィラデルフィアという経歴は、奇しくも昨年デビューしたAnother Michaelと同じである。

 Another Michaelは、インディーロック・インディーフォークを軸に、ほんのりEMOからの影響も感じさせるようなサウンドで、個人的に昨年デビューした新人の中で一番推していたバンドだ。

 今回紹介するSadurnもまた、Elliott Smithらインディーロック・インディーフォークから影響を受けたという、ミニマルでローファイなサウンドを展開しており、2022年のAnother Michael枠といった感じで個人的に推していきたいと思っている。

Sadurn


 女性ボーカリストのGenevieveによる温かみのある歌声は、どこか少女の面影を残したような趣きもあり、Clairoを彷彿とさせるものがある。

Genevieve Degroot

 サウンドとしては、非常にミニマルでローファイ。温かみに溢れたサウンドという意味ではBig Thiefとの共通性を見出せないこともないが、Sadurnはそれよりもずっとローファイで、そこにElliott Smithからの影響を感じずにはいられない。

 とにかくサウンドよりもソングライティングに重きを置いている印象で、リズム隊は本当に余計なことを一切しない。普遍的で美しいメロディを際立たせることに徹している。

 安易な表現にはなるが、ClairoとElliott Smithの要素が合体したような存在だと個人的には思っている。

 シンプルさをとことん追求し、余分な要素を全て削ぎ落としたような音楽だ。そこには、ソングライティングと真摯に向き合ってきた跡が、確かにある。

■ソングライティングに重きを置いた全10曲

#1 Snake
本作の中でも特にソングライティングが洗練されている楽曲。とにかくメロディが良い。リズム隊は余計なことを一切せず、主役である歌とギターを際立たせることに徹している。要所で登場するコーラスワークも、地味ながら職人的で味わい深い。本作のハイライト。


#2 Moses Kill
アコギ1本弾き語り。ギターの音はまるで囁くような微かな音だが、非常に繊細で美しい。最小限の音数、最小限の展開。それでも聴かせられるだけの確かな強度を持ったメロディだと言えるだろう。


#3 Golden Arm
相変わらず音数はミニマルだが、1,2曲目がモノクロな音像だったのに対し、サウンドが一気に色彩豊かになった印象。メロディとコーラスワークの良さは相変わらず。ナチュラルなファルセットの響きの心地良さはClairoを彷彿とさせるものがある。


#4 Lunch
優しく温かみのあるメロディに対して、一見大き過ぎるようなスネアの音が違和感なく自然と溶け込んでいる。むしろ、メロディが持つ温かみをより深めるという意味で非常に効果的なアレンジとなっている。

#5 Special Power
音数は最小限ながらも、一発一発のスネアに存在感がある前半。そして中盤以降は、ドラムのみならずバンド全体としての躍動を見せる。Sadurnが持つロックの要素が垣間見える楽曲だ。


#6 The Void / Madison
この曲と#2 Moses Killのギターからは、特にElliott Smithからの影響を感じる。この曲はゆりかごに揺られているようなリズムが印象的だ。楽曲の後半部分では、草木や土、乾いた風の匂いが漂ってくるような、自然の中に居るような感覚を覚える。


#7 White Shirt
この曲もアコギ一本弾き語り。モノクロな乾いた音像と、囁くようなボーカル。優しいメロディ。何の味付けも無いけど、何も必要ないと思わせてくれる。


#8 Radiator
モノクロな音色の楽曲が目立つ本作にあって、ボーカルとギターともに色彩豊かでポップな響きがある。キャッチーさという意味では、#3 Golden Armと並んで本作を代表する楽曲と言えるだろう。


#9 Icepick
淡々と反芻しながら徐々に拡げていくようなメロディ。#4 Lunchと同様、スネアの音が前面に出ているが、そこには温かみが溢れている。


#10 <---
夢から覚める直前のような、まどろむようなドリーミーなサウンドが鳴り響く、1分未満の楽曲。ボーカルは無い。このタイトルは何を意味するのだろう。普段、歌詞やフレーズを一切気にしない私ですが、「<---」はさすがに気になってます。



余計な味付けなどしなくとも、ソングライティングだけで勝負できるアーティスト、そんな存在を今後も応援していきたい。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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