連載エッセイ「差別と悪意」第1回


はじめに

 前回のエッセイ「無知と差別」については、フォロワーさんの助けもあってたくさんの方に読んでいただいた。俺の記事を初めて読んだという方も、多分いたんじゃないだろうか。ここでまず読んで下さった方、そして反応や拡散をして下さったすべての方に感謝します。ありがとうございました。
 これから何回かに渡って書くエピソードは、俺の身に実際に起こった話である。障がい者をサポートしてくれるはずの就労支援施設で、信じられない暴言を吐かれたことが何回もあった。今までずっと書くのを躊躇ってきたが、フォロワーさんの後押しもあって決心がついた。書いていこうと思う。タイトルも変更した。
 これから読んでいただくにあたって、はじめに幾つか注意事項を書いておく。まず、俺自身と施設、スタッフのプライバシーを守るために、施設やスタッフの名前はすべてアルファベットで通させていただく。読みづらい部分もあるだろうが、ご容赦願いたい。
 そして何より、これは俺のトラウマを思い出しなながら書く文章だということをご理解いただきたい。俺のような人間がこれ以上生まれないために、ドキュメントのような感覚で読んでくれたら嬉しい。そして、他の企画のように定期的に更新するというわけにはいかないというのもわかってほしい。

本題 高校時代の話

 俺の人間不信の始まりは、高校時代の現場実習だった。現場実習に行った施設の名前を仮にAとして話を進めていこう。ちなみに現場実習というのは、普通学校でいうところの職場体験である。
 その施設は、俺が通っていた学校が紹介してくれた。仲の良かった先輩も在籍していたから、あなたも環境に馴染みやすいのでは、ということだった。先輩に会うのは数年ぶりで、楽しみにしながら実習先へ向かった。
 するとどうだろう。作業スペースにその先輩はおらず、作業開始時間になっても姿を見せなかった。この先輩を仮にCさんとしよう。俺は昼休みの時間に施設長に訊いてみた。
「Cさん、今日はお休みですかね?」
 すると施設長は、少しうんざりしたような表情を見せた。そしてこう言った。「そりゃ会いたいよね。後輩なんだもん」。そして俺は休憩室に案内された。Cさんはその中にいたのだ。そして彼女から事情を説明された。
 Cさんは俺よりも身体の緊張が強い。これは、自分の意思で身体を動かすのが困難だということを意味する。だから1日1時間くらいしか作業ができないのだという。その作業も休憩室でやっているらしい。
 それなら長時間話すのも負担になるだろうと思って、俺は早々に休憩室を出た。そこには施設長がいて、俺を待ち構えていたようにこう言った。
「君は、彼女と接点があるんだよね? あの状況見たらわかるでしょ。ここは作業所。作業のできない人間はいらないの。だからさ、君の方からCさんにここを辞めるよう説得してくれないかな
 愕然とした。こんな施設になど卒業しても通うものかと思った。100歩譲って、Cさんが施設の質と合っていないという話は理解できなくはない(言葉選びは脇に置いておくとして)。太字より前の部分は、まだ頷ける理屈ではある(それを実習生に言ってしまうのはどうかと思うが)。
 問題は太字部分だ。多少なりとも接点があった先輩に「施設長はあなたに辞めてほしがっています」なんて言えるわけがない。彼女に辞めたいという意思があるならまだしも、絶対に辞めたくないと言っているのだから尚更そうだ。というわけで、もちろん本人に言えるわけはない。施設長にもそう伝えた。
 すると施設長は、迎えにきた俺の母親にまで同じことを言った。
「本人が無理なら親にでもいいですから、とにかく彼女にここを辞めるように言ってくれませんか?」
 もちろん母だって承諾するわけがない。帰宅後即学校に連絡を入れ、「明後日から実習に行かなくてもいいか?」という旨の話をした(俺の実習は月水金の予定だった)。もちろん事情を説明した上で。
 結局先生が間に入ってくれて、実習期間は予定通りこなすことになった。だが、問題はこれだけでは終わらない。

 俺が通える施設の第一条件として「施設側で送迎をしてくれること」というのがあった。母は腰に慢性的な痛みを抱えていて、俺を担いで車に乗せるのがキツくなってきたからだ。実習打ち合わせの段階では、実際に通うとなった時も送迎はしてくれる、という話だった。ところが急に「うちはそもそも送迎はやっていない」と言い出したのだ。それどころか、俺のことを卒業後受け入れる気はないとまで言った。
 施設長曰く「車いす利用者なんて、いずれは動けなくなるんでしょ? うちとしてもこれ以上Cさんのような足でまといを抱えるわけにはいかないんだよね」だそうだ。正直、帰ってやろうかと思った。まあ、間を取り持ってくれた先生のこともあるので帰りはしなかったし、後の予定日をすっぽかすこともしなかったが。
 金曜日にもなると、もうありありと「来てほしくありません」という態度をするようになった。最後には「うちは送迎をする用意はある。ただし平日1日も休まないことが条件だ」とまで言った。もちろんこの時点で、定期通院があることは話してある。つまり「送迎してほしいなら定期通院を辞めろ」というわけだ。もうそこまでいうならいっそ「あなたにはうちのの施設に来ないでほしい」とはっきり言ってくれた方がいい。

 ここで皆さんは疑問に思うのではないだろうか? なぜ施設側はずっと、奥歯に物が挟まったような言い方ばかりするのか、と。
 答えは簡単で、就労支援事業所というのは基本的に「入りたい」と希望されたら断ってはいけないと法律で決められているのだ。例外的に断っていいのが、定員いっぱいの時と募集している障がいの条件に当てはまらない時。実習に行くと決まった時点で定員のことは確認しているし、身体障がい者であるC先輩がいるのだから条件に当てはまらないというわけでもない。だからはっきりと断るわけにはいかず、俺たちが自ら諦めるように誘導しているのだ。

というわけでその施設に通うのは諦めた。しかし話はここでは終わらなかった。
 翌年、1つ下の後輩(女子)が施設Aに実習に行くことになった。彼女と俺は仲が良かった。だから「あそこってどんな感じかな」と聞かれた時、上記のエピソードをそのまま話して警戒を呼びかけた。
 すると信じられないことが起きた。実習を終えた後輩に感想を聞いてみると「ぜひ来てくださいと言われた」というではないか。さらに「女子トイレは車椅子でも入れるように広くした」らしい。その上男子トイレは障がい者用に直す予定はないと言っていたという。
 うちの学校出身者はいらないんじゃなかったのか? 俺に言ったことは嘘だったのだろうか? 真相は今も分からないままだ。こんなことの真相なんて、今さら知りたいとも思わないが。

 そんなわけでもう施設という物が信用できなくなりかけた時、10年来の友人である1つ上の先輩から施設見学のお誘いがあった。卒業後はこの施設に通うことになるのだが、詳しい話はまた次回。メンタルが上向き次第また書きます。気長にお待ちください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?