【ある障がい者の経験談】八方塞がり完結編

 突然だが、俺の身長は162か3センチである。体重は47〜49キロを行ったり来たり。俺には適正体重というのはよく分からないが、一般的に見ればおそらく太ってはいないはずだ。むしろ痩せている部類に入ると、母などは言う。
 しかし俺は定期的に、ダイエットしたい衝動に駆られる。体型で悩む全ての方から殺害予告が来そうだが、真剣に悩んでいる。
 そう。今回の八方塞がりはずばり「体重」についてだ。

 幼少期から主治医に「ドラゴンくんは太ったらダメだよ。少しでも太ったら自力で立てなくなっちゃうよ」と言われていた。俺は直接言われた記憶はないし、母も一度しか言われたことがないそうだが、「ドラゴンを太らせるな」というのは担任の先生に脈々と受け継がれてきたことらしい。実際高校時代には、今と同じくらいの身長で60キロ程度あった。あれ以上太ったらやばかったろうなと自分でも思う。

 その後、施設Bに通ったタイミングで多大なストレスに襲われ、一切の食事ができなくなった。1日の食事が豆腐一丁とブドウ10粒、それとヨーグルトだけという時期もあった。その時の体重は43キロまで落ちた。
 すると当然だが今度は「痩せすぎだ」と言われる。「栄養失調で倒れるぞ」と。しかし当時の俺は今よりずっと精神を病んでいる。また「これでいい」という思いさえあった。「食べなきゃ」という感情にはなれなかった。それはなぜか?
 答えは単純だ。施設Bの男性スタッフが、俺が痩せていくのを喜んでいたからだ。しかしここで勘違いしてほしくないのは、「痩せてくれてありがとう!」と面と向かって言われたわけではないということだ。こっちは病的なまでに痩せていっているのにそんなことを言われたら、さすがの俺でも怒る。そうではないのだ。決して言葉には出さない。
 ただ、実際に抱き抱えるタイミングになると、介助するスタッフ全員がホッとした表情を浮かべる。「ああ、軽くなってる。よかった」という言葉こそ出ないが、顔にそう書いてある。
 入社当初から「ドラゴン君は重いね」とか「抱き抱えるのは大変だ」とかずっと言われてきた。だからといって痩せようと思ったわけではないのだけれど、実際に痩せると上記のような反応が返ってくる。
 俺の性格上、自分が痩せたことでみんながホッとしているのを見たら怒れない。乗車介助で抱き抱えて車に乗せてもらうわけだが、俺が重いせいでスタッフに要らぬ苦労をかけているのではないかと常に思っているからだ。両親でさえ俺のことを重いというのに、赤の他人に平然とやれというのは無理がある。それは介助を受ける側がとっていい態度ではないとも思う。
 要するに、スタッフの気持ちも分かるから責められないのだ。

 今でも時折、体重を増やすことに尋常じゃない罪悪感を感じることがある。それはどんな施設に行っても、「抱き抱えるには重そうだな」と言われるからに他ならない。自分たちの施設に通ってほしくないが故の言葉だろうが、それを軽く受け流せるほど俺のメンタルは強くない。だから今でも、施設見学や体験に行った直後は見事に食欲が落ちる。普段から「夕食に炭水化物を食べない」というルールを設けている(迂闊に体重を増やさないため)のに、下手をすると夕食がバナナ一本という時も多々ある。これではますます痩せてしまう。

 もちろんこのままではいけないと分かってはいる。ただ、もうどうしようもなくなってしまった。俺はストレスが全部胃に来てしまう体質で、ショックなことがあるとすぐ食事が取れなくなってしまう。まして今は「痩せてもダメ、太ってもダメ」というような状況だ。これ以上痩せたら生きていけないレベルだと母は言う。多分事実だろう。それでも施設のスタッフは「もう少し痩せてくれ」と言う。今の体重を伝えたら、現在から4、5キロ落としてくれと具体的な数字を出されたこともある。その度に「やっぱり自分は不必要に太っているんだ」と自己嫌悪に陥る。
 今まで行った施設で体重を聞かれなかったことはない。痩せろと言われなかった試しもない(どちらも母の前だと言わないからタチが悪い)。施設見学や体験に嫌気がさしているのには、そういう理由もあるのだ。八方塞がりでしょう?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?