【ドラゴンのエッセイ】ファミリー?

 これは、結構前から書きたかったネタである。しかし、自分の好きなものまで否定しかねない話題だったので、今まで勇気が出なかった。
 今回、思い切って書いてみる。

 俺は「家族」とか「ファミリー」という言葉に疑問を持っている。もちろん、血の繋がった家族や自分の奥さんだったり旦那さんのことを指して「家族」と言っているのなら否定はしない。俺が疑問を持っているのは、それ以外の分野で使われる「ファミリー」や「家族」である。
 例えば友人同士で「私たち家族みたいなもんだよね!」と、これはいい。あくまで「みたいなもん」だからだ。これが「私たち家族だよね!」と言っていたら正直引いてしまう。

 こういう考えになったのにはきちんと原因がある。ことの発端は、俺が学生の頃に勃発した吉本興業の闇営業問題だ。ご記憶の方も多いと思うが、問題の本質が段々ずれていった。最初は闇営業を行った芸人が悪いという話だったはずだが、最終的には吉本興業にも問題があるという方向に向かっていった。
 そこで、吉本の当時の社長が記者会見し「エージェント契約」という言葉を出すわけだが、皆さんご記憶だろうか? この会見の時に社長が「会社に所属している人間はみんなファミリーです」というようなことを言ったのだ。その時に初めて「ん?」と思った。
 闇営業を行った本人たちは「謝罪の機会を設けてもらえなかった」など会社に対する不信感を露わにしていた。それなのに会社側は「俺たちはファミリーだ」という聞こえのいい言葉でさっさと幕を引いてしまおうとしているように感じた。
 この時はまだ、自分には何の関係もないところで起こったことだったから若干の不信感で終わっていた。決定的に「家族」という言葉が嫌いになったのはその数年後だ。

 数年後、俺は就労支援施設に通い始めた。といってもこの時点で高校卒業から3年半ほど経っている。つまり、最初に通っていた施設は辞めてしまっていた。理由はたくさんあるが一番大きいのは、施設長が信用できなくなったということだろう。
 そういった辞めた経緯を、新しい施設ではざっくりではあるが一部のスタッフには話していた。「前の施設のような事態はここでは起こらないから安心してほしい」と言ってくれたので、心機一転ここで頑張ろうという気持ちになった。
 ところが施設入所から2ヶ月ほど経った頃だろうか。利用者仲間の態度が徐々によそよそしくなってきた。挨拶を無視されることもあった。ただ、相手は知的や精神に障がいを持つ方たちなので、機嫌の悪い日が数日続いているのだろうくらいに思っていた。
 だが日を追うごとに無視される人数が増えていった。辛うじて挨拶くらいはしてくれる人でも、それ以上に会話を続けようとするとそそくさと立ち去ってしまう。流石にこれは何かあると思って、送迎をしてくれているスタッフに相談した。するとその答えは
仕方がない
 というものだった。続けてそのスタッフはこうも言った。
「いいか? 俺たちは家族なんだ。一緒に仕事をして、一緒の家に帰り、一緒の飯を食う。それを何年も続けて、俺たちにしか分からない絆というものができてる。そこに急にお前みたいな余所者が入ってきたんだから、前からいる利用者に嫌われるのは仕方ないことだ。ましてお前は休憩時間のたびに、トイレ介助でスタッフの1人を独占する。それで好かれようというのは、無理な話だ」
 今考えるととてもめちゃくちゃな話だが、当時は「自分はまだ余所者」という意識もあったので納得した。ちなみに、「家族」という言葉に吉本のことを思い出したのでそれについて聞いてみると、「あんなのと一緒にするな」と本気でキレられた。この時点で施設を辞めることを検討すればよかったのだが、当時はそんな考え、頭をよぎりもしなかった。
 その数ヶ月後、事件は起こった。
 その日、俺たちが担当する作業を監督する男性スタッフが席を外していた。不在になる時間がどれくらいになるか読めないということで、そのスタッフが利用者の中から1人を選び、不測の事態への対処法について説明して行った。
 しかしそれでもトラブルは起こる。責任者たるスタッフがいない状態でのトラブルだから、利用者もパニックである。先述の対処法を授けられた方もパニックになっていた。そして体調を崩してしまった。
 こうなるともう、自分たちではどうしようもない。スタッフを呼んできて、対処法を相談するのが一番の解決策だ。だから別の場所で作業していた女性スタッフを呼んでもらい、現状を説明した。その時の会話はこうだ。

スタッフ「誰か彼女(体調を崩してしまった利用者さん)のフォローをできる人はいないの?」
利用者A「自分たちは指示を受けていないし、自分たちだけで判断するなと言われているので無理です」
スタッフ「だとしても、臨機応変って言葉があるでしょ! 彼女、体調崩しちゃったんだよ?」
利用者B「そもそも自分たちには、彼女の代わりをできるだけの能力がありません」
スタッフ「頭硬いなぁ。苦しんでる仲間を助けたいとは思わないわけ? 怒られるのは自分の責任でしょ?」
俺「それはちょっと無理な理屈じゃありませんかね?」
スタッフ「分かった! もういいよ! 10人以上もいて、この程度のことが誰もできないなんて、役立たずにもほどがある!」

 読者の皆さんはどう思っただろうか? 俺は割と序盤から、スタッフの言うことはめちゃくちゃだったと感じた。「指示を受けていないので、勝手な判断では動けない」という利用者Aさんの言葉は正しい。これが一般企業での話ならいざ知らず、就労支援施設ならば仕事に関する利用者だけでの勝手な判断は御法度だ。
 それに、自分に障がいがあると認識できているような人は、絶対に自分だけで判断しない。幼少期や学生時代などに、自己判断で行動して叱られた経験があるからだ。
 正しいことを言っているAさんやBさんが責められているのを見ていられなくなり、つい俺も口を出した。その結果が「役立たず」発言だった。
 これだけでも相当な問題だと思うが、もっと恐ろしいのはここからだった。
 席を外していた男性スタッフが戻ってきたので、俺はトイレ介助を頼んだ。2人きりの状態で、女性スタッフの言動の一部始終を伝えるためだ。なるべく事細かに伝えたつもりだったが彼の反応は
「彼女(女性スタッフ)も自分の仕事で忙しいんだから、トラブルに自分たちで対処できなかったお前らが悪い。叱責を受けても仕方ない」
 というものだった。正直耳を疑ったし、こいつは障がい者を人間と思っていないんだと確信した。前の施設を辞める決断ができた事件である。

 そんなことがあったから、軽々しく「家族」だの「ファミリー」だのという言葉を使う人間が信用ならないのだ。なのでSMILE-UP.(旧ジャニーズ事務所)のことも前々から信用ならないと思っていた。SMILE-UP.が運営するタレントのファンクラブの総称が「ファミリークラブ」なのだ。
 SMAPの解散騒動、その後の公正取引委員会からの注意処分など、以前から若干の不信感がなかったわけではない。しかし、今回の問題への一連の対応をファンとして見ていたら、その不信感がより一層確かなものになってしまった。俺はタレントのことは好きだけど、事務所のことは嫌いだという気持ちが確固たるものになってしまった。だからこそ今回意を決して、炎上覚悟でこの記事を書いたのだ。
 他人の言う「家族」や「ファミリー」を安易に信用してはいけない。まだ20年くらいしか生きていないが、このことだけは俺の人生を通じて後世に伝えていきたい。本物の家族は、自分たちが家族であることをわざわざ確認したりしないのだ。

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