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忘れられない歌声

2019年12月、私はミュンヘンのマリエン広場にいた。
ちょうどシーズンということもあり、クリスマスマーケットで多くの人が賑わっていた。

マリエン広場にあるペータース教会は、この界隈でも一番古い教会。
そのてっぺんには、ミュンヘンの街並みが一望できる展望台がある。意味もなく街の景色を見ることが好きなので、なんとなく登ろうと思った。
古びた階段で上に登る。クローズが近い夜だったので、早足で上に上に向かい、息切れしながら300段上の頂上にたどり着いた。

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とても狭い展望台で他の人と密着しながら見るミュンヘンの夜景はとても美しく、マーケットの賑わいが煌びやかだった。このエリアには教会がいくつかあって、かなりの頻度で鐘が鳴る。その音に心地よさを感じながら息を吸ったり吐いたりしていると、かなり小さなボリュームで子どもたちの歌声が聴こえた。

必死に耳を澄ましながら聴いてみると、クリスマスソングのような、聖歌のような、それらしきものが歌われていた。これをどうしても近くで聴きたいと思って、地上92mからその場所を探した。すると目の前にある新市庁舎の、人々に面したベランダのようなところで歌っているのが見えた。

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(新市庁舎)

急いで狭い階段を降りて、クリスマスマーケットでごった返す人と人と人をするりと抜けて、新市庁舎に着いた。恐らく、パブリックなイベントの一環で合唱団が発表をしている、というようなものだと思う。

前列に行って、必死に聴いた。彼らの合唱は、別に特段ウマいわけではないと思う。縦もバラバラだし、たまにハーモニーもずれてるし、テンポもたまにすべる。
でも、すごくすごく聴き入ってしまった。日本人とは違う発音の仕方であったり、少し気の緩みがある人間らしさだったり、歌うことへのどこか必死さが伝わってきたり。

何より、彼彼女らの歌声が包む空気感に焦がれて、そこにずっといてしまった。なんなら少し涙ぐんだ。そのシーズンがクリスマスということも相まっていると思う。そこに根付く宗教や文化の色、その中で育ち、日常を過ごす人たちの姿が、その歌声に象徴されているのか、とまで思えた。
そこに歌声があって、後ろにはクリスマスを楽しむ人の賑わいがある。私はその空気感を一層楽しみたくて、わざわざ近くの出店でホットワインも買った。
また、聴きたいなぁ。日本じゃなくて、ミュンヘンのあの場所で。

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(真剣に歌声を聴く人々)

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