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(音楽話)28: Diana Krall “The Look Of Love” (2002)

【愛の兆し】

Diana Krall “The Look Of Love” (2002)

現代ジャズ・ヴォーカルの最高峰のひとり、Diana Krall。Elvis Costelloと夫婦であることも有名ですが、1993年のメジャー・デビュー以降14枚のアルバム・リリースと5度のグラミー受賞という名声を得てきた、名実トップなシンガーです。

64年カナダのブリティッシュ・コロンビア州生まれ。4歳からピアノを習い、15歳の時から地元レストランでプロのピアニストとして活動を開始。81-83年にボストンのバークリー音楽院で学んだ後ロサンゼルスに移りキャリアを積み、93年にカナダでデビュー。3枚目のアルバム「All for You: A Dedication to the Nat King Cole Trio」(1996)はBillboardのジャズ・チャートで70週ランクインするほどの人気となり、2000年にはTony Bennettとデュオとしてツアーを回るなど、知名度・実力共に認知されました。

彼女はジャズだけでなく、スタンダード・ナンバーやフォーク、ロック、ポップスなど幅広いジャンルを歌いますが、そのどれもが非常に美しく、ちょっとアンニュイなオーラを纏います。中低音が響く歌声にはブルースの要素も宿っているように感じますし、ちょっとハスキー、過剰なヴィブラート無し、ある意味歌以上に語るピアノを自ら弾きながら歌う姿はとても魅力的です。あ、ちょっとCassandra Wilsonに似てるかしら。元々ピアニストなのでピアノの言語力は極めて高く、楽曲の心象風景をそれとなく鳴らして自身の歌唱をさらに強くしているように聴こえます。

この映像は2001年、フランス・パリの格式高いヴェニュー・L’Olympiaでのライヴから(アルバム「Live in Paris」として翌2002年リリース)。”The Look Of Love”はご存知の方も多いかもしれませんが、Dusty Springfieldの代表曲(1967)で、Burt Bacharach・Hal Davidによるもの。2008年に007の映画「Casino Royale」で使われたことでも有名です。

フル・オーケストラという豪華なバックを従えた、ジャジーでアダルトな空気感。Dianaの声は非常に艶やかに響きます。声の押し引き、言葉の詰め方に手練感を出しながらなんとも言えない表情で「愛の兆し(もしくは愛の眼差し)」を歌う。ナイロン弦のギターが刻む物悲しさ、ブラシで揺れるドラムス、静かに見守るベース、歌世界をそっと拡げていく弦楽器たち…そこに乗る歌詞が「Let's take a lover's vow (恋人同士の挨拶を交わしましょ)」「And then seal it with a kiss (キスでそれに蓋をするの)」だなんて…まぁいやらしい!笑 いや、キザですがとても美しい曲です。

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