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(音楽話)75: YOASOBI “群青” (2020)

【叫び】

YOASOBI “群青” (2020)

白状します。最近ikuraがお気に入りです。

去年からやたら色んな所で流れてるし、2020年紅白に出場して”夜に駆ける”を歌ってたのも見かけたし、最近メディア露出も多いYOASOBIというユニット。小説や漫画などに楽曲の着想を得るコンセプトは意図的なものかどうか分かりませんが、結果的にクロス・メディアを生み出し、相互補完してユニークな体験ができるという意味でもとても興味深い存在ではあります。

現代の若い世代は予め全てを持っています。書籍も、絵画も、漫画も、アニメも、TVも、動画も、ネットも。エンタテインメントを体験するプラットフォームも、それらを他者共有するプラットフォームも、はじめから持っている。だからそれらを組み合わせた自己表現は至って自然なこと。そして、既にあるフォーマットで制作されているコンテンツに対し、自身の得意分野でそれと融合を図ろうとする姿勢もまた、別に特別なことではありません。
(そもそもそういう試みは昔からありましたよね)

よって、YOASOBIのスタイルに対して眉を顰める御仁たちは、現代を全く見ていないし理解しようともしていません。それは批評ですらなく、ただの「私はあれが嫌いだ/理解できない」という個人的な嗜好や限界を表明してるに過ぎません。話はズレますがADOの”うっせぇわ”に対する賛否も同じことです。「こんなこと言ってるヤツは一回ガツンと鉄拳制裁でもして鼻っ柱折らないとダメ」なんて言う人は、ちゃんと歌を聴いてメロディと歌詞を味わったんですかねぇ。自らの人生を棚に上げてなにをエラそうに、と思っちゃいます。

…なあんて言ってる私もまた、意図的にYOASOBIは避けてました。デジタル主体のサウンドに居心地の悪さを感じてたし、早口のヴォーカルが歌詞理解を阻害しているような気がして好きではなかった。しかしふとした瞬間に、ヴォーカルikuraの声が心の奥底に響いて離れなくなってしまいました。それがこの”群青”です。
(私は今のところこの曲と”怪物”だけお気に入りです)

ikuraの声は一言でいえば、コロコロ転がる。発声、発音、リエゾン、抑揚、ファルセットへの移行など、とても聴きやすい。少女性の強い声のようでいて、エイジレスに聴こえなくもない。不思議な声質…。この曲のヴォーカル・トラックはほぼ全体的にダブル/トリプルトラックで、僅かなコーラスやユニゾンを多用。非常に立体的なプロデュースが施されていて、彼女の声が強調されています。

Ayaseの創る曲構成とサウンドは実はシンプルで、80−90年代の音楽性が沢山詰まってます。まるで現代の最新加工技術をもって、過去のサウンドの欠片たちを集めて織り上げた織物。これはぜひ耳を澄ませてほしいのですが、80年代ディスコなリズムパターン、90年代J-POPのメロディ展開など、おいしいリフやメロディやギミックに溢れていることがわかるはずです。

元々ボーカロイドを使って楽曲を発表してきたAyaseが、YouTube上でシンガー磯田りら/ikuraを発見し、コラボを打診してより歌の世界を血肉化させたことは、YOASOBIというユニットを確実に次の次元に引き上げました。ikuraの声が持つ心地良さと澄み渡る立体感が、Ayaseの楽曲傾向に見え隠れするノスタルジックな空気感と混ざり合って、楽曲に独自性とサウンドの畝りを生み出したと思います。

注目したいもうひとつのポイント=PV映像。人形劇が展開されるのですが、その世界観、色彩、動き、表情などがとても独特で魅力的。涙の表現やダンスの動き、地球が潰れていく様など、印象深いシーンが多くて見応えあります(特に3:12頃の主人公の表情は人形とは思えない)。その制作背景や発想方法など、監督・牧野淳の興味深いインタビュー記事があるので、こちらもよろしければ。

YOASOBI「群青」MVの舞台裏

歌詞は具体的で、誰しも生きていく上でぶつかるであろう人生訓的な「あるある」を力強く歌い、聴く者を励ましています。否定的な視点に立てば、「ありきたりで、直接的な表現を使い過ぎ、ギミックが足りない」かもしれませんね。でも若い方々が、こうした言葉の数々を投げ掛けられた経験が実は極端に少ないのだとしたら、あなたはどう思いますか?この歌が、悲痛な心の叫びに聴こえてきませんか?そしてこの曲が大ヒットしている世界に、もっと目を向けなければと思いませんか?

語り過ぎですね、すみません。
解釈は人それぞれです。あなたは何を思いますか?

*********

嗚呼、いつもの様に
過ぎる日々にあくびが出る
さんざめく夜、越え、今日も
渋谷の街に朝が降る

どこか虚しいような
そんな気持ち つまらないな
でもそれでいい そんなもんさ
これでいい

知らず知らず隠してた
本当の声を響かせてよ、ほら
見ないフリしていても
確かにそこにある

感じたままに描く
自分で選んだその色で
眠い空気纏う朝に
訪れた青い世界
好きなものを好きだと言う
怖くて仕方ないけど 本当の自分
出会えた気がしたんだ

嗚呼、手を伸ばせば
伸ばすほどに 遠くへゆく
思うようにいかない、今日も
また慌ただしくもがいてる

悔しい気持ちもただ
情けなくて 涙が出る
踏み込むほど 苦しくもなる
痛くもなる

感じたままに進む
自分で選んだこの道を
重いまぶた擦る夜に しがみついた青い誓い
好きなことを続けること
それは「楽しい」だけじゃない
本当にできる?
不安になるけど

何枚でも ほら何枚でも
自信がないから描いてきたんだよ
何回でも ほら何回でも
積み上げてきたことが武器になる
周りを見たって 誰と比べたって
僕にしかできないことはなんだ
今でも自信なんかない それでも

感じたことない気持ち
知らずにいた想い
あの日踏み出して
初めて感じたこの痛みも全部
好きなものと向き合うことで
触れたまだ小さな光
大丈夫、行こう、あとは楽しむだけだ

全てを賭けて描く
自分にしか出せない色で
朝も夜も走り続け 見つけ出した青い光
好きなものと向き合うこと
今だって怖いことだけど
もう今はあの日の透明な僕じゃない
ありのままの かけがえの無い僕だ

知らず知らず隠してた
本当の声を響かせてよ、ほら
見ないフリしていても
確かにそこに 今もそこにあるよ
知らず知らず隠してた
本当の声を響かせてよ、さあ
見ないフリしていても
確かにそこに 君の中に

(YOASOBI “群青”)

(紹介する全ての音楽およびその動画の著作権・肖像権等は、各権利所有者に帰属いたします。本note掲載内容はあくまで個人の楽しむ範囲のものであって、それらの権利を侵害することを意図していません)

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