アーカイブ「備忘録:苦難の2週目、第二言語習得分野の創成期」(記:2019年10月27日)

前書き

 イギリス留学中に書いたブログの転載です。当時、授業の備忘録として書いたものをブログに載せていました。この頃、銀行口座を申請しているのに1か月以上開けない、それが原因で子どもに教えるアルバイトが開始できない(←DBSチェック申請に必要)、そもそも授業についていけていない等々、荒んでいった記憶があります。それはともかく、今回も当時のことを思い出しながら転載・編集したいと思います。

苦難の2週目

 2週間くらい筆が止まっていました。というのも、色々とごたついたり環境の変化に戸惑ったり、といったことが先週から今週にかけて続いてたんです…。このごたごたについては、何回かのシリーズに分けて書いていくつもりです。小さなことから大事なことまでけっこう色々あったので、誰かの助けになるはずです…。
 そんなこんなで早速備忘録が滞ってしまいましたが、かなり難しい内容を勉強したので少しだけでも振り返っておこうと思います。

怖いのは初回より2回目

 2回目の授業はかなり大変でした。ちょうど、自分が高校で教えていた時に、一番怖いのは初回ではなくて2,3回目やったな、というのをしみじみと思い出しました。初回は勢いで乗り切れるし授業の本題に入りきらないのですが、2回目は本題に入って「思てたんとちがう!」というショック期に入り、そこから修正をかけて3週目から徐々に授業の形を成していく、というのが教えていた時の常でした。
 さて、今回は2つ振り返りたいと思います。

教育システムの国際比較の難しさ

 1つ目が、「教育システムの国際比較」についてです。この授業に関しては、僕は聴講なので課題を提出する必要はないのですが、登録している学生は2つの国の教育システムを取り上げて、それを比較するという課題が出ます。そのリサーチをするにあたって、こういった比較をする際に持っておくべき視点というのを勉強しました。要約すると、「それぞれの国の文化、教育の社会的な立ち位置、政策などを考えることなしに国際比較をするべきではない」ということです。
 例えば、よく日本の教育の問題点を取り上げるときに「フィンランドの教育は…」とか、「アメリカでは…」という言い方がされます。ただ、例えば以下の点は留意されるべきです。

 もっといろいろ視点はありますが、大事なことは「他の国の価値観を取り入れるときには、それを完全に受け入れるのではなく、文化的な側面に合うように修正した形でシステムを取り入れること」だということです。
 これは言うのは簡単ですが実践する人間が一番難しさを感じるところですよね…。他の生徒には現役の先生もいるので色々学びたいです。

  • 「フィンランド人の英語力はネイティブクラス」←北欧はイマ―ジョン(第二言語での科目指導)が地政学的な側面から重要視されていて、多くの教育が英語で行われていることから、日本と比較する前提条件が違う。

  • 「アメリカのcritical thinking(批判的思考)を重視した教育をもっと日本も見習うべきである」←これ自体は私も賛成です。が、あくまでもアメリカの有名校を例に挙げて一面的な見方をしている可能性もあります。(教育比較では、このように狭い部分のみでその国の傾向が決められがちです。)

第二言語習得論

 2つ目は第二言語習得論の歴史です。この学問はすごくホットなのですが実はかなり新しく、直接的な研究がなされるのは1970年代頃からです。ただ、これより前からもちろん言語習得については実践・研究がなされていて、今回の授業ではそれを中心に勉強しました。(僕が得意なのはこの後のところなので、この授業は頭がパンクしそうでした…。はい、言い訳です)

構造主義と行動主義

 第二次世界大戦前後の言語習得は、主に2つの考え方をベースにしてきました。それが、Structuralism(構造主義言語学)とBehaviourism(行動主義心理学)です。細かく触れるとあまりに複雑+うまく説明できないので、ざっくり言います。
 構造主義言語学は「個々の言語は互いに限りなく異なる」という立場から、言語を構成するもの(音声、文法など)を客観的に分析することを目的にしていました。対して行動主義心理学では、「刺激→反応という習慣形成によって言語の習得がなされる」という考え方がなされています。この2つの考え方をもって、「母語と目標言語の相違点に着目し、ひたすら適切な形を用いる癖を身につけることで母語の『悪い習慣』を消して言語を習得する」ことを目指し、Audiolingual methodという教授法が主流になりました。
(ざっくりすぎると思うので、言語学を勉強した方はどうぞ鼻で笑っていただいて大丈夫です(^_^;)

言語学の概念を変えたチョムスキー

 これに対して、1960年頃に、Chomskyという言語学者が全く違う概念を提唱しました。彼は母語習得において、ほぼ例外なく子どもが習得に成功するのはなぜか、というところに着目し、上記の考え方を批判しました。行動主義心理学では「真っ白な状態の脳」に母語のインプットを得ることで母語習得がなされる、という考え方がされていますが、Chomskyは「赤ちゃんは質的に十分なインプットを得ていない(例えば、お母さんが話しかける『赤ちゃん言葉』などは、普段の会話とは違いますよね。)」こと、「赤ちゃんには新しい言葉・表現を創造する能力が備わっていること」を根拠に、全ての子どもは「すべての言語に共通する文法」を備えた「言語獲得装置」を持って生まれてくる、という理論を提唱しました。
 彼の理論には多くの反論があり、それに対するChomsky自身の反論もあるようです。(僕はまだ読んでいませんが…)この理論だけで数百ページの本になっているような研究分野なので、まだまだ分からないことだらけ、ということは確認できました…。

おわりに

 ということで、復習がとにかく大事なので、日本語にして一度整理(できていませんが)してみました。間違いなどあれば、初心者に教えるように優しく教えてくれると嬉しいです…。
 ちなみに、今日からサマータイムがなくなり、日本―イギリスの時差が8時間→9時間になります。明日は特に何もないので時差ボケとかはないと思いますが、時間の間違いとかをしないように気を付けて過ごしたいものです…。

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