【アーカイヴ】第274回/「ジョージ・ハリスンよりすごいギタリストのいるバンドがあるんだ!!」と言ったと言われた10月[田中伊佐資]
●10月×日/オーディオアクセサリー最新号の「オーディオ電源・悦楽ものがたり」で世田谷に住むマニアを取材。
この方がただならぬ音楽通で、後で知ったことだが井上陽水やRCサクセションのプロデューサー(ディレクター)を担当した経歴をお持ちだった。マニアというよりプロだった。
「七里ヶ浜でナンパもできない5、6人の中学生が夕方暗くなってきて大雨に降られた。走って帰ろうとしたら、電柱にくっついている朝顔みたいなスピーカーからストーンズの「サティスファクション」が流れたんだよね。あの曲を聴いたのは初めだった。これまで千回は「サティスファクション」を聴いているけど、あんなに自分にフィットしたことはあの瞬間しかなかったね。その音はとんでもなくいい音で、宇宙的な装置だった。すぐにレコードを買って家で聴いたら、これがしょぼいんだ。そこからオーディオの旅が始まった」
それから続く旅の話は雑誌に譲るとして、何かを始めるには往々にして劇的な瞬間があるものだ。僕をオーディオが好きになる(正確には「いい音って気持ちいい」と思った)瞬間は、やっぱり中1の頃だ。
家にはオーディオといった類はなく、チープな白いプラスチック製のプレーヤーがあるだけだった。簡易的なアンプがなかに押し込まれたおもちゃみたいなものだ。外付けではあったが、スピーカーもプラスチック製で、そこから出てくる音はラジオと同等だった。
ある日、もしかしたらスピーカーだけでも替えたら少しは良くなるかもと、近所のホームセンターに売っていたエンクロージャーのキットを組み立て、フルレンジのユニットを付けてみた。
この音にとんでもなく感動した。冷静に考えれば、ただ音が出ているだけの代物に、少し毛が生えた程度ではあったのだろうが、なんであれ、どうにかしてちゃんとしたオーディオを手に入れたいと発奮するには十分なインパクトがあった。
僕は当時流行っていたポップスやビートルズを聴いていたが、音について言えば、いまでもはっきりと記憶に残っているのはディープ・パープルの『マシン・ヘッド』だ。
あのA面冒頭「ハイウェイスター」のイントロを聴いたときはガツーンとやられた。「こ、これハッ!」。まさに宇宙的だった。
で、つい先日、それを思い起こさせるツイッターに遭遇してうれしくなってしまった。
中学のときの友人、ツイッター名「特撮ピストルズ」が「特撮ピストルズの自伝エッセイ【アナログでロックしようぜ】第1回 featuring @HeadShellRecord」と題して、僕のうちで初めて『マシン・ヘッド』を聴いたことをマンガで描いていた。
彼によると「ジョン・レノンよりすごいボーカルとジョージ・ハリスンよりすごいギタリストのいるバンドがあるんだ!!」と僕が言ったことになっている。
その記憶は定かではないが「(パープルの)リッチー・ブラックモアの早弾きはスゲー。世界一のギタリストだぜ」とうそぶいたことは憶えている。そして中学生が友達に「おい、このバンド知っているか」みたいなドヤ顔だったのは間違いないだろう。
いずれにせよ、自分が感激したことを友達と共感したくて『マシンヘッド』をかけたのだと思う。
「特ピ」とは中学を卒業してずっと会っていなかったが、2人とも音楽好きなことで共通の知人を介して、十数年ぶりに再会し交流が続いている。会えばレコードとオーディオ話で明け暮れる。昔からの友達は減りはするけど増えはしない。大事にしたいもんです。
そんなことで、僕はステレオ誌で「音の見える部屋」というオーディオのマニア訪問記をずっとやっているのだが「十代の頃は音楽やオーディオはどんなでしたか」といった質問をしないわけにはいかない。
学生時代は金がないけど、無垢な情熱がある。そして時間もある。社会人になって立派なオーディオを揃える話より面白かったりする。
この連載も長く続けさせてもらい、11月19日に「大判 音の見える部屋 私のオーディオ人生譚」というタイトルで1冊の本になる。
最後にそういうことを書くと、宣伝のために丸々このコラムを使ったなと思われそうだが、すみません、まあ否定はできません。テレビで番組丸ごとがぜんぶ番宣ってあるけど、そんな感じかな。
でも新著はA4判に大きくなって、写真の迫力はすごいです。文章に進歩はありませんけども。
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東京都生まれ。音楽雑誌の編集者を経てフリーライターに。近著は『ヴィニジャン レコード・オーディオの私的な壺』(音楽之友社)。ほか『ジャズと喫茶とオーディオ』『音の見える部屋 オーディオと在る人』『オーディオそしてレコード ずるずるベッタリ、その物欲記』(同)、『僕が選んだ「いい音ジャズ」201枚』(DU BOOKS)、『オーディオ風土記』(同)、監修作に『新宿ピットインの50年』(河出書房新社)などがある。 Twitter
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