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900文字の歌

駐車場の隅に咲いた黄色い花が、
踏まれて惨めな姿になっていた。
どうしてなのと訴えてみたけど、
それはしょうがないと敷地の方。
そこは大金持ちの方の持つ敷地、
お世話になっている人々も多い。

踏まれて死にそうになった花が、
笑いながら僕に話しかけてきた。
あなたがここに車を停めたのよ、
痛かったけど私はそれでいいの。

🌼

どうせ私達なんて踏んづけられ、
それならまだしも引き抜かれて。
でなければ栄養沢山与えられて、
ちょん切られて売られていくの。
あなたの車に踏まれて良かった、
あなたに会うことが出来たから。

花はそう最期の言葉を振り絞り、
空を見上げながら死んでいった。
その日から僕は眠れなくなって、
遂にご飯も食べられなくなった。

🌼

自分も死んでいくのだとわかり、
それならお金を盗もうと思った。
盗んだお金をみんなに配ったら、
もうこんな悲しい事は起きない。
花は踏まれずに済んだだろうし、
敷地はみんなの物になるだろう。

大金持ちの家に盗みにいくんだ、
悪魔のささやきが耳元に迫った。
その頃僕は痩せ細り弱ってたが、
目だけは狂ったように輝いてた。

🌼

悪魔は盗みの方法を入れ知恵し、
大金持ちの留守の日まで教えた。
寝室にある金庫の暗証番号6桁、
それは何か身近な数字に思えた。
大きな丸い月がぼんやり出た夜、
丈夫な買い物袋片手に侵入した。

誰もいない寝室で暗証番号入力、
371008と小さく声を出す。
重い扉が静かにゆっくり開いて、
整然と積まれた札束が見えてる。

🌼

全部買い物袋に詰め左肩にかけ、
そっと寝室を出たら老婆がいた。
驚いて大きな声を出して名前を、
それは誰あろう自分の母だった。
遠く離れて暮らしているはずが、
なぜここにいるのかわからない。

いよいよ頭がおかしくなったか、
幻を見てるのか頬を叩いてみた。
そうかこれは夢なんだ悪い夢だ、
必死に目を覚まそうともがいた。

🌼

母はこっちへおいでと手招きし、
明るい台所へ僕を連れていった。
食卓の上には料理が綺麗に並び、
前に漆塗りの箸が置かれていた。
座って食べなさいと勧められて、
何から食べようと見回してみる。

白い陶磁器に入った黄緑の葉が、
親しそうに僕を見つめて笑った。
あらまた会えたわねと言う声に、
僕は泣きながら目を開けていた。

おしまい

追記:歌は朧月夜です。暗証番号に生年月日はやめましょう😅


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