小学生のタップ
バスケで「タップ練習」というのがある。簡単に言うと、選手が一列になり、一人ずつバックボードにボールを当て、次々に落とさずボールを繋いでいく、バスケ経験者なら一度はやっただろうし、応援に行ったことがある人は、試合前のアップで、ジャンプしながら片手で華麗に繋いでいく光景を見たかもしれない。
🏀
「タップをやろう」とヘッドコーチが言った。まだボールを持って数ヶ月の小学校低学年中心のチーム、その日は12名が練習に参加していた。もちろんジャンプしながらの本格的なタップは無理、一人がバックボードにボールを当て、後ろの子がキャッチする、それを全員下に落とさなければオッケー、つまり12回連続成功させたらよし! なのだが、これが簡単にはいかない。ボードにうまく当てることすら怪しいのだ。
6年生の女の子ニ人はさすがに上手で、続く3年生の背の高い子も行ける。ところが始めたばかりの2年生は、まだ動きが今ひとつ、落ちてきたボールを取るのに腰が引けて、広げた両手をすり抜けてしまう。
そこがまんまとうまく行っても、あと少しのところで変に力が入って、ボードに当てる位置がずれてキャッチ失敗、これは上級者にもよくあることだろう。ここぞの場面で簡単なシュートを落とすのは、大きなゲーム、それこそオリンピックの大舞台でもあると思う。
🏀
「全員成功するまで終わらないぞー!」ヘッドコーチが檄を飛ばす。「ほらほら、いつまでもやるつもり? 今日はこれを12時までやるの?」アシスタントコーチの僕が冷やかしながら励ます。練習は9時から12時まで。しかし、内心これは成功するのは無理だろうとも思っている。
始めて10分か、もっと経っていたか、時計は11時近くなっていた。あきらめムードが漂い、集中力も途切れてくる。もう終わるのか? コーチの顔を覗くと、まだ我慢しているようだ。「集中していこう! まだまだやれる!」失敗した子を励まし、成功した子に「よーし、ナイス!」と声をかけた。
もどかしい。
一言にするなら、これだ。続けるか、もう止めるかの決定権は誰にある? コーチの我々だ。一流選手を指導しているならともかく、学校開放の事業の一部、はっきり言えば、バスケを楽しめばそれでオッケー、上達するや勝ち負けは、それほど気にしなくても良い集まりなのだ。10分経って成功の目処が立たなければ止めるのに、全く問題はない。
🏀
どうするんだろう。ヘッドコーチも迷っている様子である。子供たちはそんなことを知る由もなく相変わらず続けている。失敗したら「あー!」と残念がっている。時折笑顔が見える。どうでもいい感じにもなってきた。
一人の男の子が急に作戦を立てた。成功率の悪い2人の順番を入れ替えようと僕に言ってきた。そうか、なるほどと唸る。「うん、いいよ、やって!」本当はルール違反だろうが、ヘッドコーチは見て見ぬふり、彼にはそういう度量があるのだ。
🏀
潮が変わった。行けるかも!皆がそう感じ始めていた。一番失敗する確率の高いところを通り越す。だがやはり最後の手前で失敗、それが続き、あきらめかけた。が、みんなの目は鋭い、そして。
力が抜けて、なんとなくリラックスしたとき・・・
やったー!
おー!
12回続けて成功、やり切った。
よーし!!
🏀
これから長い人生を歩むこの子達にとって、これがどう役に立つのか、わかるはずもないだろう。60歳を越えた僕ですら、このことにどんな意味が、意義があるのかはわからない。しかし、やらなくてはならないし、やり切らなくては、それこそが自分の人生である。そう言い切れる。今となっては。
その後、ヘッドコーチの粋な計らい、「このまま続けて!」
すんなりと12回、さらに続いたことを付記しておこう。
I love basketball!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?