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バッハ エピソード34 レオポルト侯との友情

バッハにとってケーテンでレオポルト侯に仕えた1717年から1723年までの6年間は、良き君主に恵まれ、人生における最も幸せな時期だったと言われています。

バッハのケーテンでの作品としては、協奏曲のシンボル的存在である《ブランデンブルク協奏曲集》をはじめ、レオポルト侯の誕生日祝いのための世俗カンタータ、平均率クラヴィーア曲集第1巻に代表されるクラヴィーア作品、1本のヴァイオリンやチェロのための無伴奏作品、ヴァイオリン、フルート、ヴィオラ・ダ・ガンバのためのソナタなどが残っており、バッハの世俗器楽作品の大半を占めています。


さて、レオポルト侯ってどんな人?

レオポルト侯は筋金入りの音楽好き

レオポルトは1710年、15歳の時、3年ほどオランダ、フランス、イギリス、イタリアにいわゆる「グランド・ツアー」を行なって見聞を広めます。
ローマとヴェネツィアではオペラ鑑賞に多額の費用を費やし、ウィーンではカンタータ12曲の楽譜を買うなどします。生来の音楽好きだった彼はヴァイオリン、ヴィオラ・ダ・ガンバ、クラヴィーア、声楽を学び、ローマ滞在中には、ドレスデンの宮廷楽長ハイニヒェンから手ほどきを受けるほどの上達ぶりでした。旅行総額は約4億1800万円に上っていたそうです。これは侯国として大問題となり、半額は自腹負担となりました。

楽長バッハの宮廷楽団を作る

レオポルトが君主として即位したのは1715年のこと。即位の翌年までにベルリンから優秀な奏者たちをスカウトし、18人からなる宮廷楽団を作り上げます。バッハはこの宮廷楽団の楽長として呼ばれたのでした。
レオポルトはバッハの9歳年下でしたが、音楽を愛し、バッハの価値をよく理解していました。二人はとても親密で、友人のような関係だったと言います。
旅にはバッハを連れて出かけることもしばしばありました。

結婚で変わった音楽感

しかし1720年にレオポルト侯が結婚した妻フリーデリカが全く音楽に関心がなかったため、レオポルト侯もその影響を受け、音楽に対する関心が薄れていきます。
これをきっかけに、バッハは新天地ライプツィヒへ転職するのです。

妻フリーデリカの死

ところが、あの「音楽嫌い」のフリーデリカ妃は、不幸にもセバスティアンが正式にトーマスカントルに就任する直前の、1723年4月4日に他界します。

あと1年、バッハがケーテンに留まっていたら、どうなっていたでしょう?

のちにバッハは自ら当時を回想しています。

「・・・・・・このケーテンの地で私は恵み深く、しかも音楽を愛し、かつ音楽に精通しておられる君主を得まして、このかたのもとでわが生涯を終えるつもりでおりました」

1730年「エールトマン書簡」


レオポルト侯に会いに行くバッハ

1725年レオポルト候は、ナッサウ・ジーゲン公女シャルロッテ・フリーデリーケ・アマーリエ(1702~85)と再婚します。彼女は芸術に造詣が深かったようです。翌年ふたりには男子が誕生し、エマヌエル・ルートヴィヒ(1726-28)と名付けられました。バッハは誕生を祝して変ロ長調《パルティータ》第1番(BWV825)を贈っています。
レオポルトとの親しい関係は続き、何度もケーテンまで行って、侯爵のために書いた音楽を演奏しています。

しかし、1728年11月レオポルト侯が34歳で亡くなってしまいます。
翌年の葬儀の際にはバッハ、妻マグダレーナ、次男のエマヌエルが参列し、カンタータを演奏しました。

このように、バッハがケーテン宮廷を離れたあともレオポルト侯が亡くなるまで二人の親交は続いていました。ライプツィヒでのバッハはとても忙しいはずなのに、レオポルト侯のために音楽を作曲し、しかも演奏しに行っていたのですね。
バッハの生涯において、ケーテン時代が最も幸福であったといわれるのもその通りかもしれません。


突然ですが、ここでアンクルバッハの小話です

ケーテンでのご縁<1. ビュッケルブルクのバッハ>

寡婦となったシャルロッテ(レオポルト侯の再婚相手)は2年後にビュッケルブルクのシャウムブルク・リッぺ公と再婚します。
その宮廷には当時6歳の皇太子ヴィルヘルム(1724-77)がいましたが、彼が後に、バッハの息子ヨハン・クリストフ・フリードリヒを宮廷音楽家として雇います。ビュッケルブルクのバッハとして有名になりました。

ケーテンでのご縁<2. 弟子カイザー>

バッハのケーテン時代の弟子ベルンハルト・クリスティアン・カイザー(1705-58)は、バッハがライプツィヒに赴任した翌年から当地の大学生となりコピストとして働いていました。
1729年にケーテンに戻り、宮廷弁護士や楽師、オルガニストとして活躍し、バッハの音楽の伝承に大いに貢献しました。これもまたケーテンでのご縁ですね。




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