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バッハを聴く ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロの親密

バッハのヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタを聴きにサントリーホール(小ホール)に行ってきました。

さて、ヴィオラ・ダ・ガンバはどんな楽器?

ヴィオラ・ダ・ガンバは「ガンバ(脚)」という名称が示すように、両脚で挟んで弓で弾く弦楽器です。
形はヴァイオリンやチェロに似ていますが、全く別の楽器です。
6本あるいは7本の弦とフレットのついた指板を持ったこの楽器の特徴をひとことで表すなら、弓で弾くギターです。私は以前、二胡を習っていたのですが、ヴィオラ・ダ・ガンバと同じように弓を下から持つ楽器だったので、親しみを感じます。歌いやすい楽器であるのは間違いないでしょう。

スペイン生まれで、ルネサンス~バロック期にヨーロッパ全土に普及しました。教会や宮廷においてなくてはならない楽器の一つで、「王侯貴族のたしなみ」として盛んに演奏されていました。フランスではヴィオールと呼ばれ、ルイ14世にも愛されたその音色は、重厚で味わい深く、バロック音楽には欠かせない存在でした。しかし18世紀後半に貴族社会が没落し市民が台頭してくると、音楽の主流は宮廷からコンサートホールへと移行します。構造的に大きな音の出せないガンバはヴァイオリンやチェロに取って代わられてしまいました。

ヴィオラ・ダ・ガンバとバッハ

音域によって「トレブル、アルト、テナー、バス」という種類があって大きさが違います。バッハの時代において独奏楽器として使用されるのは「バス」のみです。そのため、大きさがチェロにとても似ています。
バッハが活躍した18世紀前半では、ガンバは17世紀の盛期を過ぎて衰退に向かっていて、むしろチェロに取って代わられる時期でした。しかし、バッハは1707年(22歳頃)にカンタータ《神の時は最上の時なり BWV 106》で使用し始めます。また、《マタイ受難曲 BWV244》では終盤のクライマックス『来れ、甘き十字架よ』のソロ・オブリガードとしてガンバが指定されており、重い十字架を背負って歩かされるイエスを表現します。
バッハは生涯を通してこの楽器を取り上げており、ガンバという楽器を好んでいたようです。

3曲のガンバ・ソナタ

ヴィオラ・ダ・ガンバのソナタ3曲(BWV1027,1028,1029)は、バッハがケーテン宮廷に仕えていた時代(1717~23)に作曲されたというのが定説になっています。当時の宮廷楽団にはクリスティアン・フェルディナント・アーベル(1682~1761)というガンバの名手が在籍しており、バッハは彼のために書いた可能性が高いとされたからです。ただし、裏付ける確かな証拠はありません。しかし、ケーテンのレオポルト侯もヴィオラ・ダ・ガンバを得意としていたこともあり、バッハはこの地で作曲していたのではないかと勝手に想像しております。そんな想像をしながら聴いていると、今回のタイトルにもあるように、チェンバロとヴィオラ・ダ・ガンバの親密な関係性を感じます。

チェンバロは左手で通奏低音、右手で独立した声部を弾き、一人二役をすることで、2名の奏者で3〜4名分を演奏していることになります。これは濃密な音楽を好むバッハならではの傾向の表れであり、一人の奏者に協奏曲の音楽を表現させようとするイタリア協奏曲とも相通じるものです。

プログラムより(かとうたくみ・音楽学)

技術的にとても難易度の高い演奏であり、ガンバの繊細さをチェンバロが引きたてていました。

ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ
第1番ト長調 BWV 1027

「2本のフルートと通奏低音のためのソナタ BWV1039」と全く同じ音楽で、楽器構成だけを付け替えた作品です。一般的にはこのフルート作品の方が原曲で、このBWV1027 ヴィオラ・ダ・ガンバの方が編曲と言われていますが、これもまた定かではないです。
とても伸びやかな音楽であり、どちらの楽器構成の演奏も気持ちのいいゆったりした気分になれます。
バッハにとってもお気に入りの音楽だったようです。

↓ Viola da gamba sonata in G major BWV 1027

↓  聴き比べ フルートバージョン:Trio Sonata in G major BWV 1039


<プロフィール>

酒井 淳 (ヴィオラ・ダ・ガンバ)
名古屋生まれのヴィオラ・ダ・ガンバ奏者、チェロ奏者、指揮者。古楽アンサンブルの通奏低音奏者として、数々の演奏会とCD録音を手掛ける。室内楽に力を注ぎ、シット・ファスト(ガンバ・コンソート)やカンビニ弦楽四重奏団の創立者として活躍。またソロでは、フランス・ヴィオール音楽のスペシャリストとして高く評価される。近年はフランスのディジョンやリールのオペラ座、オペラ・コミック座での指揮で成功を収めている。2017年齋藤秀雄メモリアル基金賞受賞。18年レコード・アカデミー賞の音楽史部門に選出された。

渡邊順生 (チェンバロ)
チェンバロ、クラヴィコード、フォルテピアノ奏者、指揮者として活躍。論文執筆や楽譜校訂も手がける。アムステルダム音楽院にてグスタフ・レオンハルトに師事、ソリスト・ディプロマおよびプリ・デクセランスを取得。フランス・ブリュッヘン、アンナー・ビルスマ、ジョン・エルウィス、マックス・ファン・エグモントなど、欧米の名手・名歌手たちと多数共演。またCD録音も多数。2006年度、16年度レコード・アカデミー賞に輝く。10年度サントリー音楽賞受賞。19年指揮したモンテヴェルディのオペラ『ポッペアの戴冠』で、三菱UFJ信託音楽賞奨励賞受賞。

<プログラム>

ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ第1番ト長調 BWV 1027
ヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音のためのソナタ ホ短調 BWV 1023
イタリア協奏曲 BWV 971
ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ第2番 二長調 BWV 1028
ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ第3番 ト短調 BWV 1029


380名ほぼ満席。ヴィオラ・ダ・ガンバの音色はもう少し小さな親密なお部屋もいいなあと思ってしまいました。

さて、突然ですが、アンクルバッハからクイズです

ヴィオラ・ダ・ガンバの特徴は下記の通りです。
間違っているのはどれでしょうか?

  1. ガンバは足で支えて弾きます。

  2. 弓は上から持ちます。

  3. 指板にフレットがついています。

  4. 弦は6本~7本

  5. 調弦は4度(真ん中だけ3度)

  6. 胴に厚みがある

  7. 裏板は平ら

  8. 駒のカーブがゆるやか

  9. 形はいかり肩ではなく、なで肩


答えは、2の「弓は上から持ちます」です。

ヴィオラ・ダ・ガンバは弓は「下から持ちます」が正解です。
チェロとの大きな違いですね。



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