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きのくに子どもの村学園学園長堀 真一郎インタビュー

(2020年7月2日)
3ヶ月の休校明けに「きのくに子どもの村小中学校」が保護者宛に出したお便りを、SNSにアップしたところ、大変な反響がありました。それは人々の教育の在り方に対する関心の高さを示していると思います。そこで、お便りを書いた学園長・堀真一郎さんに、その真意をお聞きしました。

大友剛:先日休校明けに保護者に出されたお便りを、SNSで紹介させてもらったところ、大変反響がありました。そこでお便りの真意をご本人に伺いたいなと思います。

堀真一郎:コロナウイルスのせいで学校現場は大変なんですけれども、先達てある新聞を見ていて本当にびっくり仰天したことがありました。それは、ある県のある地域でウイルス問題が解決するか、そろそろ大丈夫となった時には学校を再開する。再開する時に小学校で毎日7時限授業をすると言うんです。びっくりしましたねえ。しかもその7時限も普通の45分あるいは50分の授業をするのではなく、短くして7時限すると。え~ と思ったんです。正直なところ、何と浅はかなと言う感じがしました。これは日本の学校では1年間に決められた数の時限数をしなくてはいけないと言う縛りに、すっかりハマってしまった考え方だと思うんですね。でも実際問題は、そんな風に時限数だけつじつまを合わせて短い時間で詰め込んだところで、子どもの力がつくとは限らないんです。むしろそんな授業をされたら学校が嫌になります。まともな神経ならね。
一番大きな問題は、学校の先生が、教育委員会や文科省から言われた通りの時限数をこなさなければならない、よく使われる言葉でいうなら〝学習の遅れを取り戻す〟という発想から逃れられないでいらっしゃるんだなあと。私は現場の先生を非難する気は全く無いんです。現場の先生方はみなさん本当に一生懸命、誠心誠意頑張っていらっしゃるので、その先生たちを悪くいうつもりは全くありません。むしろ同情しています。つまり、現場の先生は言われた通りにしかできない。何をどういう風に教えるかという自由も殆どないような感じなんですね。ですからもっともっと学校の先生が、何をどういう風に教えようか?とか、どういう事にどのくらいの時間を割こうかという事を決められるような学校になっていけば、先生が元気になって、先生が元気になれば子どもも元気になると思うんです。今はその逆だと思います。

大友:今回のお便りに対して、「賛同します」「共感します」という声が沢山寄せられました。しかし共感しながらも多くの人が〝理想と現実〟ということをおっしゃいます。それは理想だけれど、現実はそうできないと…。そういう声に対して何かお願いします。

堀:そうですね。私たち(きのくに子どもの村)は学習指導要領で決められたことを、自分たちなりに柔軟に工夫してやっているんですけれど、そういう風なやり方をしていると、「そういう学校に自分も入りたかった」とか随分共感してくれる方が多いんです。でもよく言われるのが「しかし理想と現実は違う」と。「良いのはわかっているけれど、現実には学校は変わりそうにない」「自分の子どもたちに(新しい)学校を用意してあげることもできない」とおっしゃいます。ただそれでも私はこの頃本当に思うんです。日本中、色んなところから私たちの学校に対する興味や関心を持ってくださる方が増えてきてるんです。去年の夏休みから今までのおよそ半年あまりの間に、子どもの村のような学校を作って欲しいという話が全部で4つきました。つい先週も別の人からまたきました。しかもその内の3つは日本で一番人口の少ない県からです。それを思うと私たちにはわからないけれども潜在的には、今までの学校教育ではなく、もっと別のやり方もあるんじゃない?と感じてくださる人がどんどん増えてきているのではないかという気がします。まあ、どんどんとまでは言わないにしても、じわじわと増えてきているように思います。現に私たちの学校に入れなくて待ってくださってる子が沢山いまして、和歌山なんかは2月頃に計算したら80人待ってるんですね。そういう子のことを思えば、頑張ってもう一つ二つとか思わないでもないけれど、他の人にエールを贈ったり、刺激をしたり、ネジを巻いたりしながら他の人たちが頑張ってくれるように期待をしてます。

大友:公立学校の学力の〝遅れを取り戻す〟という流れの中で、現場で頑張っておられる先生たちに何か一言お願いします。

堀:私はまだまだ本当に若い時に、大学院で修士論文を書いて(書きあげて)しまった。そして12月に提出したんです。そしたらある中学校から、非常に荒れたクラスがあって、担任の女の先生が倒れてしまったからせめて3学期1学期だけでも来てくれと言われて行ったことがあるんです。その時に色んなことをしてみたんですけど、何と校長先生が「若いうちは何でもできます」と言ってくださったので、思い切って色んなことをしたんです。例えば理科を教える場合でも、普通の教科書通りにやるのではなくて、実際にそれぞれの家でどれくらいの電力を使っているかを調べてみるとか。みんなで考えて色んなことをするというのが、それまでの学校では殆どありませんでしたから、私が先ずそのクラスで考えたことは、〝楽しく遊ぼうぜ!〟ということ。というのは、そのクラスは凄く荒れたクラスでしてね、授業中出歩く子やら、先生の言うことを聞かない子やらでとうとう担任の先生が倒れちゃった。いわゆる荒れたクラスでした。私はその子らの為に、雪国でしたので道徳の時間に雪合戦しようぜと言った。その雪合戦をどう言う風にするか話し合ってと言う形で子どもたちが色々考えまして、〝男の子にはどこに投げても良いけど、女の子の顔には絶対投げるな〟とかいっぱい意見が出ました。そうしているうちに日曜日もクラスで集まって、バスケットの大会やら卓球大会しようじゃないかと言い出すので、私も仕方なく付き合って…仕方なくではないか…(笑)まあ、付き合ったんです。クラスで卓球大会するのにはやっぱり話あいしなければいけない。何時に集まるかとか、いっぱいワイワイ言いながらやり出したら、クラスがまとまってきましてね。12月までは、5クラスある内で、そのクラスは他のクラスより平均点が10点くらい低かった。私はその時、英語と社会の免許しかなかったけれど、校長先生が理科をやりなさいと言うもんだから理科を担当していたんですが、理科だけは他のクラスを抜いてトップになりました。たった2ヶ月半で。つまりクラスがまとまって、楽しくて、やろうぜ!となったらその雰囲気が成績を上げたんだと思うんです。その学期の終りに校長先生が「堀先生は普通なら1年か2年かかるところを僅か2ヶ月でやってくれました」と褒めてくれました。嬉しかったですね。子どもたちは、自分たちが何かを出来ると認めてもらえると張り切ります。ところがあれダメこれダメ、言った通りにしなさいと言う風に学校生活を送らないといけないと言うのはやっぱり可哀想ですね。

大友:最後に、そんな学校に入れれば良かったと思っても、例えば中3、高3だと受験や就職が迫ってますよね。そんな保護者に対して一言お願いします。


堀:私たちの学校は、教科書通りに教えていくのではなく、実際に色々な仕事や活動に挑戦して知恵を働かせ、友だちと話し合って問題を解決していくと言うやり方を中心にしています。このやり方だと学力大丈夫?と言われる方が結構多い。子どもたちは楽しそうで良い!生き生きしている!目が輝いている!…だけど…でも、高校入試大丈夫ですか?と言う方が多い。そこで何年か前に、うちの卒業生たちが高校へ行ってどんな成績を取っているかを調べたことがありました。そうしたら、私が想像できないくらい良い成績なんです。高校で成績が真ん中より低いと言う子がいない。だからうちのようなやり方で、みんなで知恵を働かせ、力を合わせて、失敗したらやり直してという事をしていた子たちは、高校へ行って良い成績を取ってるんですね。私が想像もしないような成績でした。和歌山県にだけ高等部(高等専修学校)があります。ここも世間がやっているいわゆる受験勉強などせずに入ってきてますが、大学進学率は、75%~85%なんです。受験勉強などは殆どしないんですけど、いつの間にか大学へ入っていきます。子どもの村学校を始めた最初の時には、我々がやっている体験中心のやり方でも、世間が言う〝学力〟でも負けていないと言っていましたが、今はこっちの方がずっと良いですと自信を持って言えます。「子どもの村のような体験中心の学校では学力が伸びる!」と、あえてそこまで言いたいです(笑)。

~収録後~
堀:
サマーヒル(※注1)の大学進学率は高いんですよ。あそこなんかここよりもっと何もしないでいるような子もいるんだけど(笑)、卒業生を調べてみたら、イギリス全体の大学進学率は日本などよりかなり低いんですけれど、サマーヒルは他の学校より進学率は高いんです。イギリスは学力統一テストがあって成績がどのくらいかと言う証明書をくれるんです。その証明書を教科ごとに集めて大学へ提出すると、入学試験の代わりになるんです。学力試験を国全体、或いは地方全体で統一試験をするんです。その試験の結果を証明書として出してくれる。その証明書を調べてみました。そうしたら普通の中学校の卒業生のレベルよりかなり上だったんです。授業に出るか出ないかも自分で決めると言う制度なのにです。やはり自分でやることが楽しいとなると、それだけの成果が出てくるんですね。だって、〝勉強するのは楽しい〟というのと、日本のように〝イヤイヤするのが勉強だ〟というのと違いが出てきますよね。日本では〝強いて努めさせるのが勉強だ〟と変な理屈をつける人がいるけれど。勉強は楽しいからする、或いはやめておけと言われてもやりたいというくらいの物であって欲しいと思うんです。
ここの卒業生の話ですけど、大人たちが面接大丈夫?と心配して声をかけるとね「大丈夫!むしろ私は面接で稼いでくるから!」という答えが返ってきます(笑)。面接って5人とか複数でやることがあるりますが、うちの卒業生ばかり質問されるらしいんです(笑)。うちの卒業生は面接で稼ぐタイプの子が結構いるんです(笑)


(※注1)
サマーヒル・スクール
(Summerhill school) は、1921年ドイツのドレスデン近郊のヘルナウでA・S・ニールにより創立された学校である。翌年、学校はイギリスに移された。現在では、イングランドのサフォーク州のレイストンに居を移し寄宿学校、及び全日制の学校として初等中等教育を民主的なスタイルで提供している。最も古いフリースクールと言われ、世界各地のフリースクールの設立の際、モデルとなった。現在の運営者は、ニールの娘、ゾーイ・レッドヘッドである。
サマーヒル・スクール
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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