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初心者向けの教材その2 ぴあのどりーむ

 子ども向けの初級教材として、ある程度人気があると思われるのが、ぴあのどりーむシリーズ。これは大人の初心者には向かない。あくまでも幼児〜小学生が楽しくピアノを学ぶための本。

 このシリーズの良さは、子どもたちの発達段階に合わせて丁寧に作られているところ。永田萠さんのカラフルな絵がふんだんに使われており、絵本のように見える。対象年齢はなんと2歳6か月から。ここまで低年齢を対象に作られた教材は、他になかなかない。

 また、ピアノを教え始めたばかりの先生にも使いやすい。ひとつずつ新しいポイントが導入され、テキストに沿ってレッスンすれば、無理なく上達できるよう構成されている。調もゆっくりひとつずつ導入され、様々な音型でそれを練習していく、というバイエル的な構成だ。おそらく子どもたちの素質を選ばず、先生の力量もあまり問われない教本だ。そして一通りやり終えれば、一定の読譜力とテクニックが習得できるようになっている。

 短所としては、バイエル程ではないにしても、似たような曲が続き、くどく感じる、使用されている和声や伴奏が古典的、対位法を使った曲が圧倒的に少ない、リズムが単一的、進むペースがゆっくりで、人によっては退屈する、などだ。バスティンやギロック等使っている先生だと、ちょっとうんざりしてしまうところがあると思う。ジャズやポップスに興味を示す生徒には、あまり向かないかもしれない教材だ。

 個人的には、すごく小さい頃にピアノを始める場合、このシリーズは使い勝手が良い部分があるけれど、あまり長年こればかり中心にやると、古典的特徴を持つ音楽しか身につかないように思う。今はカラフルな音楽に取り巻かれている時代。古典和声ばかり登場する曲を弾かされるのは、30色の色鉛筆があるのに3色しか使わせてもらえないようなもの。

 最初は古典の基礎をやって、基本が身についたところで、近現代でもポップスでもジャズでもやれば良い、という考え方もあると思う。けれどもこの意見には賛同しかねる。クラシック音楽の習得に臨界期があるとすれば、それ以外の音楽にも当然、貪欲に吸収出来る時期があると考えるのが自然だからだ。子ども時代バイエルばかりやらされて、即興で伴奏しようにも、バイエル的音型がずっと抜けない大人だっている。

 子ども時代に何の音楽に触れるかというのは、結構重要な部分だと思う。そして可能なら、まだ先入観のないうちに、どんなジャンルでも構わず触れておくと良いのではないかと思う。たくさんの音楽を楽しめるということは、その分人生を満喫できる要素が増えるということだからだ。

 ということで、ぴあのどりーむは幼少期に絞って活用するとメリットがあるが、これだけで何年も生徒を教えるのは、少々単調で生徒が可哀想に思える。

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