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ユーミンとプロコル・ハルム

  さて、本稿は日本ポップ&ラブミュージックの女教祖とも言わしめる荒井由実(松任谷由実)について論じようと思う。しかし驚くことに、現代では「荒井由実」と「松任谷由実」が別人であるという認識の若者も少なくは無い。(ただ筆者が驚きなだけ)

   日本音楽会に突如として現れた天才ユーミンは、当時19歳の女子大生であった。デビュー年は1972年であるが、作家としてのデビュー年はなんと1971年、つまり高校3年生にして作家デビューをしている。作家デビューとしての作は、加橋かつみの「愛は突然に…(作曲)」であり、この曲がなんとも60'sブリティッシュ感満載な曲である。特に、プロコル・ハルムのクラシック・ロックに強く影響を受けたスタイルの音楽である。この楽曲は元々「マホガニーの部屋」というタイトルでユーミンが作詞作曲を行ったものであった。しかし、加橋により詩が一新されて「愛は突然に…」という形に仕上がった。

聴けば分かる通り、後に発売する「翳りゆく部屋」と同じメロディである。マホガニーの部屋を新たにしたものが翳りゆく部屋として発表され彼女の代表曲となっている。この翳りゆく部屋はパイプオルガンのイントロから始まるブリティッシュロック感満載の名曲である。
  翳りゆく部屋やひこうき雲を聴けば、誰しもがプロコル・ハルムを思い浮かべるだろう。しかし、荒井由実時代の曲だけでなく、松任谷由実時代の楽曲にもプロコル・ハルムを彷彿とさせる楽曲がある。それが、2013年発売通算37枚目となるオリジナルアルバム「POP CLASSICO」収録の「Early Springtime」という曲である。この楽曲はハモンドオルガンの優しいイントロから始まる、春を舞台にした純愛ソングである。


Early Springtime


春 夕靄の中に 小さな汽笛がした
肩をよせて橋にもたれて 心は旅に出よう

まわり道したのは ようやく気づくため
取り戻せない時間なんて なにひとつもないこと

なぜ あなたといると 涙がでるの
独りだった日々が いじらしくなるの

春 潤んだ灯りに なつかしい匂いがした
重なり合う自転車の影 風に揺れているけど

もう あなたといれば 怖くないから
明日はあたたかい 予感がしているの

2羽のカモメ 回っている
5時の鐘が 響いている
ゆっくりと ペダル ゆっくりと踏んで
家へ帰ろう

なぜ あなたといると 涙がでるの
独りだった日々が いじらしくなるの

もう あなたといれば 怖くないから
明日はあたたかい 予感がしているの


  ひこうき雲や翳りゆく部屋は、ジャンル分けすればレクイエムのような、陰と陽であれば陰であるような暗い楽曲であった。しかし、40年の時を経てユーミンは自身のルーツを希望に満ち溢れたアンセムとして再構築した。
  そして、プロコル・ハルムのボーカルキーボード「ゲイリー・ブルッカー」は2022年は豊かな大草原が広がるイギリスのサリーにて亡くなった。この楽曲は言うまでもなく、ゲイリーが亡くなる前に発売されたものであるが、まるで大往生を果たしたゲイリーを讃え出逢いに感謝するかのような歌詞であり、ユーミンが創り出す詩の世界観に改めて脱帽した。歌詞もサリーの土地柄ともピッタリでありなんとも不思議な感覚に陥る。歌詞の内容自体は、暖かなフィクション純愛ソング。しかし、私はこれがゲイリーに宛てた40年越しのラブレターにしか思えないのである。

今回はユーミンのルーツを大雑把に紐解いてみた。プロコル・ハルムとの関係については、もっと音楽的に解釈した投稿を予定しているためお待ち願いたい。

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