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コロナで見えた「雑談」のチカラ

 ご無沙汰しております。産業医・精神科医の堤 多可弘(twitter) です。

今回は人事・労務の方、ひいては経営者の皆様にTIPS的ではありますが、コロナで起きているメンタルヘルスの変化についてお話しし、その対応策を提案したいと思います。

 まずは簡単に自己紹介をさせてください。

私は「働く人の健康をすべてのステージで支える」ことをライフワークとしています。
 そのためいろいろな肩書で活動しています
・健康経営コンサルティング企業 株式会社Appdate取締役

・ビジネスパーソンの伴走者 

 VISION PARTNERメンタルクリニック四谷 副院長

・上場企業や行政機関などの産業医

・コンテンツプロダクトの開発
 ビジネスパーソンのパフォーマンスを維持するためのコンテンツプロダクトを株式会社チェンジメーカーズ様と共同で開発したりしています。

これらの活動は、ビジネスパーソンの健康、特にメンタルへルスにおいて予防・早期発見・治療・回復後の維持、そして全ステージを通じてパフォーマンスを維持・発揮する、という一気通貫な活動になっています。
前置きはこれくらいにさっそく本編を話していきますね

1、コロナ下でのメンタルヘルスの現状


 新型コロナウイルスが世界的流行を始めてから早1年が経とうとしています。(2020年12月19日現在)
 感染は拡大の一途で予断を許さない状況となっている一方、当初から懸念されていた問題が最近になり顕在化してしまいした。自殺者の増加です。
(参考:https://www.jiji.com/jc/article?k=2020111001047&g=soc)

 増加の背景には経済状況の悪化やコロナそのものへの不安など様々な要因があると思います。この要因をすべて解明するのは難しいのですが、私が産業医・精神科医として多くの方々とお話しする中で、強く感じるものがあります。それが「ココロの袋小路」です。
 


 

2、ココロの袋小路? = 「雑談」が減ったために起きた現象


 「ココロの袋小路」は私が作った言葉なので初めて目にされたことかと思いますが、これについて、まずはイメージがわくように、あるビジネスパーソンのお話を個人が特定できないようにご紹介します。

 Aさんは20代後半の女性でWebページ作成の仕事をしています。コロナの流行に伴い、在宅勤務がメインになっており、出社は週の半分以下だそうです。仕事量はもともと多いのですが、コロナ不況のため、仕事のやり方が変わり創意工夫を要するものが減り、ルーチンワークが増えていたようです。具体的にはWebページを作成する際に、コストを削減するためにいわゆるパターンにはめていく仕事が増えていたようです。最近では仕事をしようとすると動悸がしたり、涙が出てしまったりするようになっていました。具体的な気持ちを聞くと「もともと仕事は忙しかったがやりがいをもって取り組んでいた。しかしルーチンになってやりがいも無くなり、この先どうしたいか考えられなくなってしまった」ということでした。

 実は彼女は、会社で実施されたストレスチェックで高ストレスと判定されて、産業医面談を希望し私と話をしたのですが、それまでこのようなことは誰にも相談していなかったようです。

 コミュニケーションについて尋ねると、メンバーとの仕事上のやりとりには困っていないものの、飲み会や食事会、仕事の合間の雑談などは減ったと感じていました。普段ならば、仕事のことなどを同僚と話してストレス解消したり、行き詰った仕事の打開策を一緒に考えたり、仕事の成果をお互いに褒めあったりしてモチベーションを維持していた部分もあったのですが、そのようなことはほとんど無くなっていました。そのため「自分が何のために仕事をしているかわからなくなり、考えが整理できず何をどうしたらいいかわからなくなってしまった」と言います。

 私が「ココロの袋小路」と呼ぶ現象がこの話の中にあります。
ざっくり概要を説明すると、、

①雑談等のコミュニケーションが減る
②一度行き詰ってしまうと自分の中にいろいろな考えを抱えこんでしまう
③考えすぎるがゆえに疲弊してしまう
④やがてメンタルのバランスを崩してしまう

 このように自分の考えを表に出せず、自分の中に抱え込んでしまい、袋小路で力尽きてしまうかのように不調になる方が最近は増えているように感じます。

 ここから先、もうすこし詳しく説明してきます。

3、雑談が減ることで悪影響を及ぼす3つのこと


 雑談が減ることで、悪影響が出るものには大きく3つあると私は考えています

① エンゲージメント(仕事に対する前向きな気持ち)の低下
②    心理的安全性の低下
③ ココロの袋小路

①と②は
「リモート疲れも第2波到来?「なぜかやる気が出ない」その正体とは?」にまとめているのでぜひ読んでみてください。


 今回は ③ココロの袋小路 についてがテーマですので説明します。
 人は、自分の考えをコトバに出したり、書いたりすることで考えを整理したり客観視できたりします。これを外在化といいます。よくビジネスの世界で、「壁打ち」などと言って自分の考えを話しながら整理したりすることがありますが、これも外在化のいち形態といえるかもしれません。
 しかし、雑談がなくなると外在化の機会が減ってしまい、あたかも袋小路に入るかのように考えが行き詰ったりします。
 また会話の中で、些細なきっかけや想い追記で行き詰った状況を打開できるなどということは誰しも経験すると思います。また、思いつめていた考えがふっと軽くなるようなこともあるでしょう。「話しただけで気が楽になりました」というやつです。しかし、他の人に話すことが減ると、視点が固定されてしまい、行き詰ったときの打開策が見いだせなくなります。


 どうも雑談にはココロが袋小路に入らないようにするチカラがあったようです。


 先ほどのAさんも「自分が何のために仕事をしているかわからなくなり、考えが整理できず何をどうしてもいいかわからなくなってしまった」という風にだんだんと袋小路に入っていってしまった様子があります。普段の状況であれば、仲間と支えあうことで業務量や仕事のやり方の変化などは乗り越えられていたかもしれませんが、そうはならなかったのです。
 これこそがコロナで起きたココロへの変化の一つです。


4、その対応策は?


 最後に対応策をお話ししたいと思います。
 なかなかコロナ前の状況に戻ることができず対応策がたてずらい現状ですが、やはり、意識してコミュニケーション、とくに雑談タイムを設けることが必要と私は感じています。 
 リモート下のでコミュニケーションについてはこちらのコラムにまとめているので参考にしてください。

 雑談だけでなく、一人でできることとして考えを紙にまとめて眺めてみることもおすすめの方法です。紙に書いて冷静に見つめることで、別の視点=メタ認知を持つことができます。
 そして、本当につらくなる前に専門家に相談することも大事です。下記3つの項目のうち一つ以上が2週間以上続いたら相談の目安です。

①食事
 食欲、増減、嗜好の変化、飲酒量の増大、自炊をしなくなる
➁睡眠
 寝つきが悪い、途中で目覚める、早朝覚醒
 寝汗、いくら寝ても眠い
③楽しみ
 趣味をしなくなる、趣味に関連することをしなくなる
 楽しめなくなる

 もし周囲に心配な人がいたらさりげなく尋ねてみてもいいかもしれません。

 本当に変化の多い一年でしたが、まだまだ変化は続きそうです。その変化の中でこのコラムが少しでもお役に立てばと思います。それではみなさま本年もお世話になりました。来年もよろしくお願いします。

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