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アレサ・フランクリン / Aretha Arrives 1967

アメリカのシンガー、アレサ・フランクリン1967年発表のスタジオ・アルバム

1966年11月、アトランティック・レコードに移籍し、プロデューサーであるジェリー・ウェクスラーは、彼女のルーツ、幼少から牧師の父の教会で馴染んでいた「ゴスペル」(福音音楽)を活かす方針を図る。

彼女の声量を起点に反響やマイクの距離感、立体感を精緻に計算している。そしてセンターにボーカルをある程度の容量を与え、演奏楽器は左右のチャンネル全て納めているのがこの作品の特徴。
ビルボードのアルバム・チャートTOP200、5位を記録。

曲目

1.Satisfaction
2.You Are My Sunshine
3.Never Let Me Go
4.96 Tears
5.Prove It
6.Night Life
7.That's Life
8.I Wonder
9.Ain't Nobody (Gonna Turn Me Around)
10.Going Down Slow
11.Baby, I Love You

曲目感想

1 Satisfaction

ローリング・ストーンズの代表曲を1曲目に配置している。同年のオーティス・レディングのカバーもあるが、女性シンガーのオーティスような「軸」になるようにアトランティック・レコードが「本気で売っていきたい」という明確な期待が伝わる。

ドン、ドン、ドン、ドン、ドンとゴスペル音楽にある手拍子にも匹敵し、コール&レスポンスの要素を包括しており、彼女の直球のストロング・ポイントを活かせることが出来る選曲となっている。

2 You Are My Sunshine

有名な合唱曲、ユー・アー・マイ・サンシャインをゴスペル・アレンジで2曲目に投入。
イントロからのアレサのゴスペルと追随するコーラスで姉のアーマ、妹のキャロルが参加している。
原曲が何なのか分からないくらいの状態に仕上がっている。こういう歌い方がアレサ姉妹が幼少から歌っていたお馴染みのゴスペル曲なのかもしれない。
中盤からテンポが速くなるが、それがかなりのゴスペル攻めでカッコよい。やはり、こなれた感じがここでは聴きやすく、ライブ感がある素晴らし仕上がりになっている。

3 Never Let Me Go

一転、テンポを落とし引き続きスタンダード曲。右のしっとりとしたピアノが大きめに聴こえ、左チャンネルにオルガンとウッド・ベースという配置。アレサの歌は中央に堂々と配置し、中盤中央のチャンネルから滑らかなストリングスが流麗に歌と絡んでいく。
そして絡むとアレサの陶酔の度合いが上がり、ドラマティックな仕上がりになっている。
非常にクオリティが高いので3分以内はそれを味わうにははっきり言って短い。

4 96 Tears

オールディーズ・スタンダード曲で、再度アップ・テンポのナンバーに戻る。この曲は比較的アレサのボーカルが前に聴こえる。
右チャンネルにホーンセクションをまとめ、左チャンネルに姉のアーマ、もう一人の妹キャロリンのバッキング・ボーカルが配置されている。
コール&レスポンスを強調するためか姉妹のバック・コーラスの声量がホーンセクションより大きい。

5 Prove It

ここは中央にバック・コーラスが配置されている。しかもアレサの声量と同等に近い。
これまで異なった扱いなのは、スタジオ専属女性バック・コーラス・グループのスウィート・インスピレーションズ(Sweet Inspirations)が起用されている為だ。1960年代初頭から活動している先輩ミュージシャンズのためのセンター配慮かもしれない。
※推測であるがプロフェッショナル・グループを起用するためのセンター条件というのがあるのかも知れない。
このスウィート・インスピレーションズもルーツはゴスペルで、アレサとのハイレベルなゴスペル VS ゴスペルが聴けるとも言える。まさに「ゴージャス!」

6 Night Life

後半に入り、スロー(バラード)ブルースを投入。ここでのアレンジは提携先のサザン・ソウル・レーベル「スタックス・ボルト」の構成と展開を正面から取り入れている。
スタックス流アレンジも「むしろ取り込むのは必然」といった考慮も感じる。

7 That's Life

前曲に引き続く形でのスタックス路線だが、ストリングス・アレンジが甘美で上品さを加味している。
アレサはフランク・シナトラがよほど好きなのか、気持ち良く歌っていて情感が良く伝わる。
人種のボーダーを軽く超え、素直な歌唱アプローチが成功の要因かもしれない。曲の後半から盛り上がっていく展開具合など、戦略や配置もそうだがシナトラ的上品さと敬意を感じる。

8 I Wonder

前曲の曲調を受け継いでいる。ここまでストリングスのアレンジを聴き進めていくと、ある種の確信的さを感じる。
そうであるのはジャズ・ピアニストとしての活動のほか、映画音楽の作曲・編曲家のラルフ・バーンズが手掛けているからで、アトランティック・レコードと同じニューヨーク在住の屈指のアレンジャーだ。
華麗さと上品さにアレサのボーカルが絶妙に融合している。

9 Ain't Nobody (Gonna Turn Me Around)

この曲は、スタックス・ボルトのサザンソウルに曲調の舵を切っている。
スタックス特有のテンポとホーンセクションもクライマックスに来たところでブレイク(で盛り上がる)するパターンなど正にモロといった感じだ。
強いて言えばサム&デイブ的なクールさで仕上げている。

10 Going Down Slow

スタンダードのブルース・ナンバーをカバー。アレサのボーカルは、ホーンセクションと緩急を共にし、途中から入るギター・ソロに呼応してさらに歌い上げる。
フェンダー系アンプ直のシングルコイルのギターのサスティーンを指でこねくり回して稼ぐサウンドなどアレ(南部)を意識して弾いているのが分かる。ギターが左チャンネル2本なので、もう一本はこれもさらっと軽めにトレモロをいれて花を添えるかのごとく、こちらもアレな感じで良い。

11 Baby, I Love You

ミディアム・テンポで、汗が伝わる熱唱ソウルナンバー。この最後の曲だけ音の配置音量、ミキシング、それより息遣いや空気が異なっている。
録音場所が違う可能性が非常に高い。
最初にレコーディングした場所が南部のマッスルショールズで途中からニューヨークに移動しているので、この曲だけ同所の録音かもしれない。
ビルボード Hot 100で4位、同R&Bシングル・チャートで1位とシングル・チャートで実績を出している。時系列の検証はしていないが、この曲だけアルバムが完成する前に先行でリリースしたのかもしれない。
それぐらい前の10曲と異なっている。

イントロから始まる左チャンネルのギターの音量と音圧が大きいのと程なくアレサのボーカルが入るが、同じ空間で録音配置されており、完全分離アレンジではない。ドラムも右チャンネルではあるが、やや中央寄り。
同じ部屋の1発録音かもしれない。そういう事情を織り込んで聴いていくと作品中1番ライブ感があって生々しい。
アレサのボーカルもラフさが出ているが、この1曲があるだけで違った側面の楽しみ方だったり、前の10曲のアレンジ、ミキシングの精緻さが浮き彫りになるとも言える。

総論

彼女が成功の階段を上がる現在進行形の「音」が凝縮されている。
ひたむきな向上心とピュアで丁寧な歌唱は好感が持てる。すっきりとした演奏も基礎がしっかりして安心して聴ける。

ジャケットのアレサの写真、後年カメラ目線の眼光鋭い自信のオーラをまとったものに比べればうつむいているのがある意味初初しい。

姉妹総出の出演は、ゴスペル・フィーリングをこの作品では突破口にしようとするアトランティック・レコードの明確な意思が伺える。

プロデューサーのジェリー・ウェクスラー、ミキサーのトム・ダウド、アレンジャーのラルフ・バーンズの時代を超えたプロフェッショナルなマインドは名門レーベル、アトランティックのプライドをも感じる。

カバー曲作品は今後のアレサのアーティストのあるべき姿を模索しているともいえる。しかし全て独自に消化しているので、全く問題になっていない。

リズム&ブルースの入門編的名盤。

終わり

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