初夏を添える夕日

日差しの照らす海路
波飛沫あがる夏空
隣を歩く椿の息
快晴の街を二人で

窓を開けピアノを弾く
差し込むのは夏の風
外で騒ぐ蝉の声
奏でた音色が溶けていく

突然に鳴り響いた家の鐘
何度も何度も繰り返し
「早く出てよ!」って騒がしくって
溜息ついて戸を開けた

空の蒼に重なる君が
「夏休みなのに家にいるの?」
寝癖着いたまま手を引かれ
宛もないまま走り出した

思い出すのは四月の朝
静かな教室に添える花瓶
隣に座る君の影
僕の名前を呼んでいた

欧州、アイリス、多年草
あやめ科の花の名前
初夏に花弁を開かせる
「私たちはお互い花だね」

僕のこの名前が好きじゃなかった
弱々しくて嫌いだった
そんな嫌悪感を掬いとって
君がどこかに植えたようだ

快晴の下歩いていた
桜並木を潜っていた
二人の背中に落ちる夕日
「それじゃあ、またね」

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