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#87 ノア・カーン『スティック・シーズン』

服部さんへ

 ビヨンセの新作紹介、ありがとうございます。そう、最近カントリーづいている僕は、注目していたんです、ビヨンセのカントリー・アルバム。あ、失礼。「これはカントリー・アルバムではなく、ビヨンセのアルバムよ」と、本人がコメントしていましたね。
 いやしかし、さすがはビヨンセ。違和感がないどころか、彼女の“血”はカントリーや、ゴスペルやブルースで、より熱くたぎるのではないかと思えてきます。ボン・ジョヴィがカントリー・アルバムを出した時に取材した際、ジョンが「アメリカ人の心にはカントリー・ミュージックが根づいているんだ」と言っていたのを思い出しました。
 そして改めて、その歌唱力と表現力に脱帽。「Blackbiird」(なぜこの英表記に?)と、まさかの「Jolene」のカヴァーも独自の世界観を作り上げているし、ポスト・マローンとのコラボでは、ポスティのさらなるポテンシャルを引き出していますね。「Texas Hold 'Em」のMVだけは、ちょっとアレだけど……。
 今回はカントリーつながりということで、僕はノア・カーンを取り上げたいと思います。

ノア・カーン『スティック・シーズン』

 オリジナルはもう2年前にリリースされていたのだが、当初は鳴かず飛ばず。時間をかけて火がつく過程で再発され、昨年からの大ヒットを受けて再々発という状況なので、新作紹介としたい。
 カントリーはちょっと苦手なはずだったのに、モーガン・ウォーレン、ザック・ブライアンときて、最近の僕はノア・カーンばかり聴いている。彼がメンタル・ヘルス的な問題を抱えているところに、無意識に共感しているのかもしれないが、周波数が合うというか。サウンド・スタイルも、もっとフォーク寄りで、アコギに乗せてグッド・メロディを歌うというシンプルさが好きだ。彼のキャラクターにもマッチしている気がする。
 今作には頭から、耳を奪うキャッチーで美しいメロディ満載の好楽曲が超満載。でもやはり、決定打は失恋ソングのタイトル曲だ。米コロラド州にある人気野外会場でのパフォーマンスで、体感してみてほしい。

 最近これを観た時、気がつけば涙腺がやられていた。個人的に、ここまで映像で感動したのは、ダッシュボード・コンフェッショナルの『MTVアンプラグド』以来かもしれない。「枯れ枝の季節についての曲を書いたんだ。情けない男の、しみったれた曲さ。でも、その曲のおかげで、今僕はここに立つことができているんだよね」という、照れながらのMCも味わい深い。
 もちろん、声もいい。だけど、「歌は心」というか、人を表すというか、誰が歌っているかによって受け止め方が全然違ってくる気がするのは、僕だけだろうか。
                              鈴木宏和


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