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歌詞に思いを込めるとは(歌詞と絵本と背番号)

よく、「歌詞に思いを込めて」と言いますが、いまいち「ピンとこない」という人も多いと思います。それで本当に、歌の良し悪しが変わるのか?


言葉や数字には、何が入っているのか

先日、我が家に絵本が届きました。何でも、学校の「読み聞かせ」の時間に使うそうで、その事前準備も兼ねて、妻が購入したとのこと。

「良かったら、読んでみて~。」

何気なく手に取って、パラパラとめくってみると、ページ一杯に広がる絵と、ごく限られた言葉が並んでいるだけなのに、自分の記憶が引っ張り出されるような感覚に陥ります。ページをめくるごとに、温かいような、懐かしいような、ソワソワと息苦しくなるような。久々に手にした絵本は、子どもの頃に読んだ絵本とはかけ離れたものになっていて、ちょっと怖くなり、思わず、パタンと閉じました。

その時、
「スラムダンクの三井君の背番号って知ってる?」
という声がしました。

「え?14でしょ?」

「え~、なんで覚えてるの?」

スポーツをやったことがある人はわかると思いますが、背番号は、単なる識別番号ではありません。背番号の大小がチーム内の序列と結びついていたり、「背番号をもらう」という思い出があったりで、記憶と強く結びついているので、本来の「数字」以上の意味を持つのです。

スポーツ観戦でも、そうですよね。野球で51といったら、イチロー選手を思い浮かべます。きら星のごとく現れた年にシーズン最多安打記録、がんばろう神戸、7年連続首位打者、MLBへの挑戦、大リーグ年間最多安打、WBCでの不振と決勝打など。51という背番号に、それら全てが詰まっていると言っても、過言ではありません。そうじゃなきゃ、単に51と書いてあるキーホルダーが売れるわけない(笑)。

「ここをキャンプ地とする。」
これは、「水曜どうでしょう」のディレクターが追い込まれた状況の中で放った渾身のひと言ですが、これも、知らない人にとっては、ただの何でもない説明です。ステッカーが売れるわけがない(笑)。

ここまでくると、段々と見えてきます。文字とか、言葉は、それ自体が力を持っているのではなく、そこまでのストーリーが、熱を吹き込んでいる。それで、そのストーリーを共有している人が、言葉を通して、熱を感じ取るのだと。

自身を投影すると「自分ごと」になる

では、このパターンはどうでしょう。

道端で、「有難い言葉」を書いてくれる人がいます(今もいますか?)。これについては、事前に何のストーリーも無いわけです。書くその人に、思い入れも無い。ではなぜ、その「有難い言葉」を買ってしまう人がいるのか。それは、自身の経験や、その時に思い悩んでいることに対してヒットする言葉があったから。抽象的、普遍的な言葉であればあるほど、ヒットの確率が上がるように思います。

具体的に説明をすればするほど、書いた人の固有の経験となり、逆に、言葉の数を減らしていくほどに、抽象的、普遍的となり、多くの人が、自身を重ねる余白が生まれます。全部を説明していないからこそ、自分の経験や感情を投影できる。
だとすると、先程の絵本の話は、絵本が変わったのではなく、大人になった「私自身」が変わった、つまり、投影する経験・材料が増えたということなのだと思います。

歌詞に思いを込めるとは

ここで話を戻します。
歌詞に思いを込めるとは、どういうことでしょうか。何が変わるのでしょうか。

例えば、「頑張れ」というセリフがあったとします。
同じ「頑張れ」でも、教科書の中でたまたま出てきた「頑張れ」を声に出すことと、何年にもわたって受験勉強を見守ってきた親が、受験当日の朝、出かける子どもにかける「頑張れ」の言葉では、全く違うわけです。

感情がこもった、伝わる言葉には、必ず背景があり、ストーリーがあります。だから、それを具体的に描くことで、歌詞は、よりリアルな自分の言葉となっていくのです。自分の内から出てきた言葉は、人の心を動かします。

そういうものが無いと、歌詞は単なる字面に成り下がってしまいます。意味のある言葉として発しているのではなく、音声として発することになる。「表現したいもの」の無い歌は、カラオケで点数を取る目的なら良いけれど、人に聴かせる歌にはなりえません。

私たちの教室でこだわっているのは、まさにそこです。

そして発表会は、その集大成。先日の発表会では、歌詞の中の登場人物、それぞれの生い立ちから、性格、趣味嗜好、仕事、人間関係までを緻密に描いて、感情の浮き沈みを表現し、見事に歌い上げた人もいました(これには、私たちも驚きました!)。

もちろん、感情だけでは、歌として成立しません。日頃のレッスンでは、思いを表現するうえで、技術部分がネックにならないよう、バランスを取りながら向上を図っています。

余白を楽しむ。

これができると、歌を学ぶことは、加速度的に面白くなっていきますよ!

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