すずめの戸締まりのここがよかったの話(ネタバレあり)
まとめ
細かいシーンの一つ一つが、キャラや世界観の厚みを増やすのに十分な説得力があってよかった。
新海誠の作家性、みたいなものが薄れたんじゃないかといわれるとそうかもしれない気もするけど、こと完成度についてはとても高いと思う。
こういう、プロの仕事の苦労を感じられるモノって最高だよねというわけでどこでそれを感じたかを雑多に羅列してみる。
よかったポイント
オープニング〜旅立ちまで
毎日手作りの弁当のクオリティが高いことをクラスメイトに指摘されてるシーン。この1シーンだけですずめのキャラ説明が大きく進んでいて圧縮率が高い。毎日いい弁当ですな〜みたいな一言で、保護者やクラスメイトとの関係の良さが一撃で表されて(おばとの関係は冒頭の朝食との合わせ技ではある)、すずめが基本的に友人や叔母に好かれる“いいやつ”なんだとわかる。
突然謎の理由で重役出勤してもさほどクラスメイトに心配されない程度には普段からそういうことしそうなやつであることとかも。
おばやクラスメイトとの訛りの強さの差で、出自の違いを暗に示している。セリフで説明しないで、他のシーンのついでに伝わるようになっている
いったん踏切まで行って友人の指摘で顔の赤さに気づいて遅刻してでも引き返すって流れ、単に出会ったその場でついていくよりも、一目惚れの最初の一歩を受け止めるまでの時間経過や感情の混乱が描けていてキャラに厚みが出る。すずめが「思い立ったら常識よりも行動をとる!」ってキャラであることの補強でもある
工事中の車止めをハードル走みたいに飛び越すシーンですずめの運動神経を暗にほのめかしている。観覧車のシーンや御茶ノ水のシーンの説得力になる。
また、二度目に同じ道を通るときに工事中が脇に避けられていて、すずめが一回目に来た後でソータが廃墟に行ったことがわかる。草太の行動を見せるためのシーンを短縮してる
最初の扉を見つけて水たまりに靴で入るの、すずめの好奇心と行動力を示すとともに、すずめがどれだけ強く扉に違和感を覚えたかが伝わってくる。あそこが水たまりでなければもっと別の何かで説得力を出す必要があるので、水たまりにしたことは複数の問題を解決できるいい“アイディア”(宮本茂的な意味で)な感じがする。
逆に違和感のあるシーンとひて、ソータが最初の出会いで「扉を探していて…」って言うのはちょっとおかしいな…初対面の相手にそんなこと言わないだろ…ましてや一般人を巻き込みたくないはずだし…
学校のシーンがくどくどと描写されないのもスピード感ある。もっと事件が起こる前に「いつもの日常」を描写したくなる気もするしそういう作品も多いが、すずめのキャラ造形を伝えるのをいろんな手段で圧縮しているので日常パートを削れる。ましてやソータが教員志望なんだし、悪い先生をそこで出しておいて後で比較するようなことを露骨にやるサムイ映画とかありそ〜
高校の先生をほとんど出さないの、後にすずめと草太の距離感を調整するためもあるかもな。草太から教師を連想しちゃうと、教師と高校生の距離感だとインモラル度が世間標準を越えそうだけど、大学生と高校生ならまあ
学校はさっき言った弁当や訛りの人物描写の他に、最初に地震速報が流れるシーンでもあり、みんながスマホで地震速報を同時に受け取るのがあたりまえな世界を提示するためにはまとまった人数が必要なのでその目的も果たせている。
みんなにミミズが見えていないことを描写するためにも複数の一般人が必要なのでそれもある。
日常パートを圧縮した結果、最初のミミズ被害と戸締まりシーンがまじで開始早々に来るのがめちゃくちゃ楽しかった。いきなりクライマックスでテンションあがる
あのファースト戸締まりをできるだけ早くに持ってくるためにキャラ説明や世界説明が圧縮されてるんだと思う。あれは完全に天才の構成。星を追う子どもの反省を感じる
ミミズが落ちたのは結局最初の一回だけで、ミミズが落ちるとどうなるのかのチュートリアル(あれ自身が何かを踏み潰すわけじゃないこと等)を済ませておいて、そのあとは落ちたらやばい!ってハラハラさせられればそれでいいわけだ
最初の戸締まりで草太の人間性がだいたい描写されきっていて、後に「あいつは自分を大事にしなさすぎる」のときにわかる〜〜!!ってさせる準備が始まっている。すずめをかばって怪我するところとか、扉を押えながらでもすずめを帰そうとするところとか。
部屋を片付けるのは椅子を見つけるのに必要なシーンだが、草太のキャラ説明も兼ねてる。看護の勉強の情報も入ってる。ちょっとした隙間のシーンでも複数の意味を持たせて圧縮!
さん付けで呼ぶのもキャラ説明としては時間効率のいい手法ぽい
部屋がちらかってるのは、その直前の「(病院に行きたくないなんて)子供じゃないんだから!」をフリとするお前のほうが子供じゃねーか!ってギャグなわけだけど、ギャグを説明する罪をいま犯してしまったけど、それを直す草太と勝手にいじったことを怒らないすずめのキャラ描写にもなってる。(単にカットされただけかもしれないけど)
船で謝るシーンまではすずめの子供っぽさが強調されてた気もする。あの謝るシーンが結構早めにちゃんとあるのはとてもいい。ああいうののない作品もたくさんあるが、一瞬のシーンだけで謝れる主人公であることを示せて好感度上がるんだからどんどんやってほしい。
草太が椅子を直してた気がするんだけど、あれはなんだったんだろう?あんまり他と繋がってないシーンに思える
終盤ですずめが「(椅子を)大事にしなくなったのはいつからだっただろう」的なモノローグをするが、僕はそれを言われるまで三本脚のまま部屋の片隅に積まれてた事が大事にしていなかった事の描写だと気づかなかった…
ダイジンがすずめを好いた理由が最後まで説明されないのは意外だったが納得のいく範囲。神は気まぐれ、神の考えることは人間にはわからない………
とはいえあの時点ではすずめと過去の因縁があるのか?みたいな想像で観客のモチベーションにはなる。
ダイジンを餌付けして飼おうとするシーンで、あの世界ではあれがぱっと見で猫に見える外見なことがわかる。映画の観客には猫に見えないので…
その後の展開で、猫としてSNSで有名になる事への間接的な説明にもなってる
猫が喋ることに対する草太のリアクションで、この作品のファンタジーレベルがどのくらいかの説明になる。一般人ではなく作中でもっともファンタジー寄りの人間の持つ常識の提示なので
その後椅子にされてから追いかけだすまでのリアクションや反応の速さもそう。また、あのへんのやり取りは草太の人間性の補強としても使われている。行動力の化身同士のカップルだな!
窓から椅子が飛び出すシーンで、椅子がどれくらいアクションできるのかの説明になる。トムとジェリーくらいのアクションは平気そう
椅子のまま街を走ることを全くなんとも思ってない草太の常識レベルはちょっと違和感あるが、あのかなり無理そうな最初の戸締まりを一人でやろうとしたり、怪我をかえりみずすずめをかばったり、猫を追って車道に飛び出したり、なんか後先考えなさそうで眼の前の事で頭が一杯になりそうなキャラ付けがあるし、すぐに捕まえてすぐに戻れるだろうという予想をしていそうだし、猫が喋ってからの展開のスピード感とテンポでぎりぎり納得ラインを保ててたと思う
フェリーに乗り込むことを全く躊躇しない草太と、一瞬ひるむすずめの対比もキャラの厚みが出てよかった
叔母が地震ですずめが心配になって帰ってきたという行動原理も、救急箱をそのままにしていたことで来客を見抜かれるという流れも自然でよい。やばい男に騙されてるのかも、って心配する流れに違和感がなくなる。
冒頭で今日遅くなるから晩飯先に食っといて、の残業によって発覚が遅れたわけだ
フェリーで寝るときに雑魚寝スペースがあることを1カット映すのもいい。わざわざ外で話している事、毛布がそこにあってそれを持ち出していることなんかがわかる
さっきも言ったけど要石抜いたことを謝るタイプの人間であるとちゃんと示してくれたのでその後安心して見られた。数秒のやりとりだけどあるとないとで大違い
フェリー下車〜愛媛
このペースでやると無限に時間かかりそうなので一旦やめて公開しよう…
(つづく)(気分が向いたら)
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