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1日目(1) - 僕んちに警察がやってきた。

 この日早朝、僕んちに警察がやってきた。

 前夜朝方まで飲んで寝ぼけていたせいもあり、まだ暗かったにもかかわらず「宅配便かな?」と思い、簡単にドアホンで応対した。
「ハイ?」
「××さん?」いささか横柄な口調で名を尋ねてくる。多少ムッとしつつ「どなたですか?」
一拍おいて、「警察」
 なぜだか瞬時に状況が理解できたのは、我ながらあっぱれであった。

 おとなしくドアを開けると、まさに「刑事」以外の職業は許されまいと思われる顔つきの男たちが素早く入り込んできて、改めて「宇都宮東署のものだ」とドラマ同様手帳を掲示、当方は「ハア…」と間抜け顔。相手はさらに「家宅捜索令状が出てるから」と、紙ペラ一枚を見せ、後は一気に五人の「刑事」顔がゾロゾロと入り込んでくる。

 寝込みを襲われてパンツとTシャツ一丁の僕はベッドサイドの床に座らされ、あちこちと探す刑事達の動きをボウッと見守るのみ。
 日頃から机兼食卓としているコタツの上から現在使用中のパイプ、パソコンの下からずい分と以前に使っていた古いパイプなど、次々と押収されていく。コタツの脚を外して、その中まで調べられる。その間にも「この部屋は、まァだまだ、色々出そーだナ」とギロリとこちらを睨んだり、小物入れを開けながら「この中にもなんかあんじゃないのか!」等と凄んだりと、未だ半分酔ってる僕は、何だかテレビドラマを見ているような、非現実感に包まれるばかりである。「悪夢を見ている様」とは、まさにコレだナ、と、妙に冷静に考えたりもしている。

 そうこうするうちに、冷蔵庫からマジックマッシュルームが見つかる。もう面倒なので、自ら、食器棚や流しの下に置いてあるアクアパイプやマッシュルームの残りを教える。ともあれ、一刻も早く事態を先に進めたい一心なのであった。
 一通り出そろった所で、床一面に押収物を並べ、各々を指差して写真を撮る。証拠品の出て来た場所や物品を自分で指差して、それを一つ一つ写真に撮られるのである。
 まだなんだか現実感の伴わぬ僕は、ついつい記念写真感覚で笑ってしまい、「笑ってんでねぇ!」と、一喝されてしまう。

 さらに、まだ酔っているので水を飲もうとすると、「勝手に動くんでねェ!(いずれも栃木弁)」と、またしても一喝。
 その後、「水、飲みたいんですが」「よかろう」
「トイレいーですか?」2、3人で協議「いーかナ?」「いーだろ、もう出るもん出たし(証拠品の事だろう)」という事で、トイレのドアは開けたまま、刑事に見られながらの小便。

 本の整理用に出していた段ボール箱を1ヶ、中身を放り出され「これ、もらうぞ」「どうぞ」その箱に種々の証拠品(一つ一つ封筒に入れられ、出てきた場所やら番号を記入されている)を中に詰め込む。
 再びベッドサイドに戻り、逮捕状を見せられ、「××時××分、逮捕ナ」
 まだ、8時前である事が判る。踏み込まれたのが6時半頃、この間1時間半程。アッという間の出来事であった。
 あとはバッグに当座の下着や歯ミガキ、煙草の残り(これ、意外と大切なのが後刻判明)等を詰め、「じゃ、行くか」手錠をはめ、腰ナワを結ばれる。「キツくないか? 痛くないか?」と、聞かれる。この辺は、人権の問題等あるのだろう、意外と丁寧であった。

 刑事が表に人がいないのを確認し、いざ護送。左右を刑事にはさまれ、部屋を出る。僕の部屋はアパートの一階、入り口から二つ目の部屋なので、入り口にピタリと横付けされた1ボックスカーのバンに直ぐ乗り込む。隣の部屋で朝の支度をしている気配がする。「気付いたかナー」とボンヤリ考える。この辺、既に思考停止状態というか、妙に冷静である。 

 車の最後部奥に座らされ、発車。「2時間くらいかかるから寝とけ」と言われるも、さすがに寝られる訳もなく、刑事のくれた煙草を吹かしながら、ボォーッと窓外を眺める。世間が普段と変らず動いているのが不思議な感すらする。
 車だと、家を出て直ぐに「環状七号」という、広い幹線道路に出る。普通、朝のラッシュ時に栃木方面に行くには、一見遠回りだが右折する所を地図どおりに左折して行く。「東京の人じゃないから、分らないだナ……」と思い、よほど教えてあげようかとも思うが、さすがに黙っていた。車はラッシュに巻き込まれたまま、ノロノロと進んで行く……。

 いつしかウトウトしていたのだろう。目覚めると、どこかのインターを降りる所であった。そこから一般道を走る事、三十分くらいか、未だ酔い醒めやらぬ僕を乗せたワゴン車はゆっくりと、宇都宮東警察署の「関係者以外立入禁止」と看板の懸った駐車場へと、堂々たる「関係者」として乗り入れられたのであった。……

(つづく)


※この手記は2003年に執筆されました。

この記事は故人の遺志により、妹が公開したものです。故人ですのでサポートは不要です。ただ、記事からお察しのとおりろくでもないことばかりやらかして借金を遺して逝ってしまったため、もしも万が一、サポートいただけましたら、借金を肩代わりした妹がきっと喜びます。故人もたぶん喜びます。