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【10/29日シリ・オリックス戦●】それでも、挑戦できることを。

「こんなことならいっそ、全然関係ない立場でやいのやいの見られた方がずっと良かったかもしれない。」

と、人混みをかき分けながら歩く帰り道、私はつい、息子に言ってしまう。

「こんなにしんどいのかね日本シリーズって。日本一を目指すってこんなにしんどいのかな。優勝したらそれだけであんなにうれしくて、でももっと上を目指そうと思うと、やっぱりこんなにしんどくなっちゃうものなのかなあ。なんか、シーズン中のきつい負け方とはまた違う、しんどさがあるね。」と、しょぼんとしながら話す。

「『坂本そこで打たなきゃ!!』とか勝手に言ってた、ちょっと前の日本シリーズが懐かしいよね!」と、息子は笑って言う。その肩には、塾の重たいテキストがたっぷり入ったリュックを背負っている。

そう言えば、塾から一人で遅れてやってきた息子は、神宮に着くやいなや、「先生にチケット見せたらさ、いいなー!!これ、ヤクルトファンの塾長に渡していい?って言われた!!」と、嬉しそうに言っていた。そして言った。「これがさ、今年最後の神宮だね僕。明日は行けないからさ。受験前、最後の神宮!」と。

そうか、泣いても笑っても、もうこれが今年最後なんだな、と、私は改めて思う。いや、私とむすめは明日のチケットも持っているのだけれど、それにしたって、もうこの数日で、今年の野球は終わりだ。そしてキャンプが始まる頃には、息子は受験を終え(なんとまあ)、泣いても笑っても、あらゆる決着が、着いている。

泣いても笑ってもか、と、思う。誰かは泣き、誰かは笑う。物事というのは、いつだってそうだ。

そして物事が不利になった時、泣くくらいなら、もう最初からやらなきゃよかったのにとつい、思ってしまう。挑戦さえしなければ、ここに最初から立たなければ、こんなに辛い思いをすることもなかったのに。ステージの外から、やいのやいのと楽しめたかもしれないのに。日本シリーズに出る別のチームを見ている方が、ずっと楽だったかもしれないのに。

でも私は、いつだったか母が刺繍にしてまで送ってくれた言葉を思い出す。たぶん、高校受験の時だったと思う。

一番良いことは、挑戦して成功すること。
二番目に良いことは、挑戦して失敗すること。
一番良くないことは、挑戦しないで失敗しないこと。

記憶があやふやだけれど、そんな言葉を英語にして贈ってくれた。

日本シリーズで、どちらが泣き、どちらが笑うかはわからない。受験を決めた息子の挑戦が、どんな結果に終わるのかはわからない。だけど、いつかは(もうすぐにでも)出るその結果がどうであれ、挑戦したことは、やっぱり、素晴らしいことなのだ。

チャンスで打てない誰かが抱えた痛みを、うまくセーブできないマクガフが抱えた痛みを、想像するだけでつらくなってしまう。目の前の、うまくいかなし試合のもどかしさから、こちらまで逃げ出したくなってしまう。

だけど、その素晴らしいステージで戦えるのは、ヤクルトたちが一年間、逃げずに戦い続けたからだ。そこに立つまでに、今抱える以上の痛みを、乗り越えてきたからだ。挑戦できるのは、その結果なのだ。

だから私だって最後まで、みんなの戦いを見届けていようと思う。しょぼんとしながら歩く神宮の帰り道なんて、今まで山ほどあったじゃないか。でもそのたび、みんなで乗り越えてきたんじゃないか。どんな結果が待っていたとしても、それでもめいっぱいの拍手を、みんなに送ってきたんじゃないか。だから今、辛くてもここに、立つことができたんじゃないか。

「明日、がんばって応援してきてね!!」と、息子がにこにこ言う。私が神宮にいるあいだ、この子は塾で講座を受けているというのに。みんな、それぞれの場所でがんばっている。私だってつべこべ言っている場合じゃない。また明日待っている早朝からのお弁当作りくらい、がんばらなきゃいけない。(うむ。)

なんか一つだけグッズ勝って帰ろうか(負けた日はグッズショップ空いてるし)と、むすめにミニバルーンを買ってあげると、「・・・・ぐっちだ!!!」と、むすめが言う。「ぐっちだったらいいな、そしたらママよろこぶなと思って開けたらほら!!42!!」と、うれしそうにむすめがバルーンを見せてくれる。「ほんとだ!!ぐっちのもあるんだね!!やったね!!」と、私はむすめと小さくハイタッチする。ささやかな「いいこと」は、どんな時にも、そこにそっとあるのだ。

明日は、みんながたくさん打ってくれますように。泣いても笑っても、良き試合になりますように。みんなここまで、野球を見せてくれて、ありがとう。

マシュマロおへんじ

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