見出し画像

「嶋さんがいるヤクルト」を、神宮で見る日を楽しみに待っている 【3/21 練習試合 阪神戦○】

浦添の暖かい空気の中、嶋さんはエイオキとキャッチボールをしていた。その姿がなぜか胸とぐっと迫り、私はしばらくそこから動けなかった。

ヤクルトのユニフォームを着て、防具をつけた嶋さんは、何はさておき、とにかく、超絶、かっこよかった。これ以上かっこいい人を増やすでないよヤクルトは、と、私は思った。気持ちが持たないではないか。困る。

長くいたチームを離れ、たくさんの実績をそこに残したまま、嶋さんはヤクルトにやってきた。35歳。一つ下、ほぼ同年代だ。そこにはきっと、とんでもない覚悟があったはずだ。ぐっちがオリックスから来た時の年齢よりさらに、歳を重ねてからの再挑戦なのだ。

背負うものは、とんでもなく大きかっただろうと思う。その覚悟は、信じられないくらい重たいものだったと思う。でも嶋さんはその覚悟を、おおっぴらに見せびらかすことなく、王子様かよ、というさわやかな顔つきで、エイオキにボールを投げた。そのボールはすっとまっすぐに飛び、エイオキのグローブに収まった。


さわやかな嶋さんの言葉は、それでもいつも、力強かった。私はいつの間にか、嶋さんの言葉を追うようになっていた。

「野球がしたくてしたくて」と、嶋さんは言った。

そして楽天ファンの前で、「この移籍のことでは絶対に泣かないと決めて今までやってきたが、今日は無理だわ」と言って涙を流した。

練習試合、四回の交代で、古巣に向かって「クビだよ」ってジェスチャーをして、笑いを誘った。

その存在は、確実に、確実に、チームにいい風を吹き込んでくれた。

この短い時間の間に、嶋さんはチームになじみ、その存在感をどんどん大きくして、なくてはならない存在になってくれた。それはとても大きな変化だった。私は「嶋さんがいるチーム」となったヤクルトを見るのが、とてもとても楽しみだった。

それはきっと、嶋さんが、表立っては出さない並々ならぬ覚悟を背負ってここに来てくれたからこそなのだと思う。その思いが、しっかりチームに、いろんな形で伝わってきたからなのだと思う。

その思いは、覚悟は、今日、死球を受けて、絶対めちゃくちゃ痛かったはずなのに、あれだけ顔を歪めたのに、それなのに一度立ち上がって、一塁まで自分で走った嶋さんのあの姿に現れていた。そしてベンチで、叫んだあの姿に現れていた。直視できないよ、と私は思った。嶋さんの気持ちが、画面越しにまで伝わってきて、悔しくて、どうしようもなくて、泣くことしかできなかった。

それは、「覚悟」をいつだって胸に秘めて、でもそれを表立っては見せず、さわやかな笑顔で、少しずつ少しずつ、チームに良い風を吹き込んでくれた嶋さんの、初めて見せた心からの叫びだったのだ。

その姿を見るのがあまりにつらくて、そして私は思った。嶋さんはもう、ヤクルトに必要な人になっていたんだな、と。チームにとってもファンにとっても、大切な人になっていた。

その胸に秘めていた「覚悟」こそが、きっとここまで、チームにたくさんの影響を与えてきた。ファンの心をここまで動かしてきた。私は「嶋さんがいるヤクルト」を見ることを、心待ちにするようになっていた。

立ち上がろうとする、それにはものすごい力がいる。覚悟と勇気がいる。それを、思いもしない形で挫かれる悔しさは、計り知れない。

だけど、ヤクルトにこれだけの影響を与えてくれた嶋さんが、その覚悟をもってして、チームにたくさんの影響を与えてくれた嶋さんが、ファンの心をつかみ続けた嶋さんが、「野球がしたくてしたくて」といった嶋さんが、神宮に、野球をしに戻ってきてくれることを、もう一度ぐっと立ち上がってくれることを、信じている。それを信じて、待っている。

私にはここで祈るしかできない。そして待つことしかできない。でも、たくさんのファンが、待っているというそのことが、どうか嶋さんに伝わりますように、と思う。

必要な人なのだと、そうファンだって思っているのだと、この無観客試合の中でもどうか、届きますように、と思う。

開幕も、嶋さんの復帰も、いつになるかわからない。宙ぶらりんは、いつだって苦しい。でも、これはまだ道の途中だから、と思う。止まない雨はない。そう信じて、私だってもう一度ぐっと力を入れて、待っていたい。大丈夫、ここまで覚悟を見せてくれた嶋さんだから、きっと大丈夫。その覚悟が花咲くのは、まだまだこれからだ。少しだけ、少しだけ延びたけれど、必ず咲くことを信じて、「嶋さんがいるヤクルト」を神宮で見ることを、私は心から、楽しみに待っている。

ありがとうございます…! いただいたサポートは、ヤクルトスワローズへのお布施になります! いつも読んでいただき、ありがとうございます!