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【5/24日ハム戦◯】田口の20球、そして高津監督vsビックボス

てっぱちが素早く、でも丁寧に、セカンドからファーストにボールを投げ、オスナが体を思いっきり伸ばして取る。ものすごいファインプレーで、アウトの判定が出たのを見届け、てっぱちは少し、ほっとしたような顔をした。

その映像とともに、9回裏、てっぱちは打席に立つ。背番号「1」を背負った後ろ姿と、遥海「pride」の登場曲と、その映像に映るてっぱちのファインプレーとそして表情に、私は、なぜか泣きたい気持ちになる。

初夏の神宮には、涼やかな風が吹く。それはいつも、何だか感慨と切なさを、運ぶのだ。

今日も打てない、今日も打てない、という、あの神宮の空気を打ち破ったのは、若き19歳の内山くんだった。プロ初ホームランとなるそれは、大きな弧を描き、バックスクリーンに飛び込んだ。重い空気を変えるのは、若い力なのだ。

はにかみながらベンチに戻る内山くんを、パパみたいな青木がほんとうにうれしそうな笑顔で迎え入れた。

それまでさくさくと進んでいた試合の流れが、まず変わった瞬間だった。気づけば私は今日一度も席を立たず、ずっとここでじっと見ていることに気づいた。

ピッチャーの集中力が切れる場面、というのはいくつかあると思う。ストライクだと思っためちゃくちゃ良い球が、ボール判定になったとき。打ち取ったと思った当たりが、アウトにできなかったとき。

だけど今日の田口はそのどれもで、集中力を切らさなかった。「無」でいきました。と、田口は言う。だけど集中するときの「無」は、ほんとうに、何よりも強いだろうと、そう思う。「打たれたらどうしよう」「押し出したらどうしよう」その不安はぜったいにぜったいに頭をよぎるはずだけれど、そんなものはとにかく頭から追い払ってしまう。邪心を捨てる。それが、集中力、というものだ。

3塁ベンチの上、一番上の座席には、一球ごとに叫ぶ田口の声が聞こえてきた。その気合は、ほんとうに「ただもの」じゃなかった。いつもオラオラしている田口だけれど、今日の気合と集中力は、ほんとうに、ほんとうに、格別だった。

田口の集中力と気合は、こちらまで鋭く伝わってきた。それでもその集中力の中、田口はオスナへの気遣いを忘れなかった。

でも私は思う。田口のあの一礼は、もちろんオスナのためでもあるけれど、同時に、自分のためなのだと。

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