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素材とマテリアルの狭間「Material, or」展

六本木の高級マンションが立ち並ぶなか現れる都会のオアシス、東京ミッドタウン芝生広場の横にあるデザインミュージアム:21_21DESIGN SIGHT。
ここで「もの」をテーマにした展覧会が開かれています。


“素材”と“マテリアル”とは

普段同義で使われる素材とマテリアル。展覧会場に入る前に大きな説明書きによってこの展覧会における素材とマテリアルの定義づけがなされます

ディレクターの吉泉は「もの」が作られる過程にはこの世に存在するありとあらゆる「マテリアル」が「素材」として意味づけされるプロセスが含まれていると述べています。つまり、特定の意味を持たなかった「マテリアル」が、人や生物との関わりの中で「もの」へとつながる意味が付与され「素材」となるのです。

公式HPより

この「マテリアル」との原初的な対話を行うことを本展覧会の目的として、さらにはそこの背後にある自然環境や社会環境の問題にまで目を向けることを目的とした展覧会です。

展示作品

何を感じ、何が問われているのか

階段を降りると開放的なコンクリート造りの階段の踊り場にハンガーの山が、ただのハンガーと捉えてしまえば通り過ぎてしまうこの最初の作品(左の写真)は、本物の鳥の巣。鳥たちが本来自然社会には存在しない「ハンガー」に順応することによって作り出された鳥たちによる作品です、
そして右の写真の作品はかつて蚕によって作られた糸で織られた布を、再び蚕によって「パッチワーク」にしたもの

直接的に環境問題や社会問題、歴史の変遷に言及することなく展示された作品は「まず私たちは何を考えさせられているのだろうか」という原初的な疑問を呼び起こさせます。

会場内で一際目立つ美しく光る大きなボール。シャンデリアを思わせるような照明の下には「プラスチックを育てる」という文字の書かれた板と作品から溶け出したプラスチックの雫。

温度によって形を変えるプラスチックを用いて、光が生み出す熱によって会期中も変化し続ける作品です。
今行けばまた違う形の作品になっているかもしれません。

意味付けされた素材

特に衝撃的だった2作品を紹介します。
「わたしたちはプラスチックを嚙んでいる。」
「牛乳はプラスチックがあるから漏れない」
そんな文字が添えられたこの二つの作品。
日常的に何の疑問もなく噛んでいるガムや、なんとなく紙製でエコだと思っている牛乳パック。
誰かによって意味付けされた素材から離れ、マテリアルに注目すれば、そこには普段思いもよらない現実が隠れているのかもしれない。そう思わされた作品でした。

自然物と人工物とその価値とは

実際の熊の毛皮が飾られているすぐ横には、低い仕切りを挟んで人工的に生み出されたフェイクファーのパッチワークによって作られた作品が置かれています。
二つの対比を思わせるような構成。またどちらも触ることができるのもこの作品の特徴です。
実際に触って感じられるごわごわとした「生きていたもの」の残骸、そしてその横にあるフェイクファーは端切れの毛を絡ませ手作業で裁縫されたものなのだそう。
人工物と自然物。フェイクとリアル。この対立しているように見える概念たちは本当に対立しているのだろうか、と本質を考えさせられます。

人間も生き物もマテリアル

同じく熊に関係したこの作品は「もし熊がここで冬眠していたら」
自然と人とのつながりを意識したこの作品は、人間も熊も生き物もマテリアルだとしており、私達も熊も同じ地球で生きている、そして素材へとなるものなのだと考えさせられます。
まるで本当に冬眠しているように見えるこの熊、横を通る際に皆、熊をのぞき込みながらびくびくと起こさないように静かに通っているのが印象的でした。

まとめ

展覧会場より

その魅力

ここに挙げた作品はこの展覧会のほんの一部であり、これを超えるメッセージ性の高い作品が会場内に溢れていました。一般的な展覧会のように明確な順番が無く、自身が見たいと思った作品から、どんな順序でも、何回でも戻って考えることができるのはこの展覧会の(ギャラリーの)特徴でもあります。一周回って、もう一度作品に出合う頃にはまた違ったアプローチで作品について考えることになるでしょう。

キャプションとは別に作品ごと様々なマテリアルで作られた「問い」が作品と共に置かれているのも魅力の一つ。一見理解がしがたい、難しいテーマでもこれらの言葉がヒントとなってくれます。

最後に

この展覧会で何を得るでしょうか。
それはおそらく単純な環境問題・社会問題への呼びかけや注目ではなく、さらに根本的な、考え方の変化かもしれません。
二項対立しているように見えるものは本当に対立しているのだろうか、ものとマテリアルは単なる一本線で結ぶことができるのであろうか、
私達が普段何気なく生きている中、その根幹となるものを問いただす、ただ作品を鑑賞するという枠を越えた内省的を促すような展覧会だと感じました。
21_21DESIGN SIGHTの美しい建築と階段や中庭、床や天井に配置された個性豊かな作品たちのコラボレーションをぜひ体験していただきたいです。

展覧会情報

【Material,or】
会場:21_21DESIGN SIGHT
期間:2023年7月14日~11月5日
休館日:火曜日
料金:一般1,400円、大学生800円、高校生500円、中学生以下無料
展覧会HP:21_21 DESIGN SIGHT | 企画展「Material, or 」 | 開催概要 (2121designsight.jp)

担当:佐々木


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