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Introduction ——2021年夏の騒動を経て

2021年、夏。
最も敬愛してきた音楽家が、過去に雑誌で語った発言のことで、世間から凄まじい非難を浴びた。

あまりにも激しく燃えさかる炎を前に、身動きを取ることもできない。自分の青春の全てが燃えカスになったような気がして、ただただかなしかった。そして、失われていく彼の名誉や、ご家族の苦痛を思うと、毎日のように胸が痛んだ。
結局彼は、作品の販売・配信停止といった措置こそ受けていないものの、公に使用されていた楽曲は全て差し替え、または番組等の休止を余儀なくされた。そして参加するはずだったイベントへは出演を辞退し、彼の姿が伝わる機会のほとんどはなくなってしまった。
その後、様々な人が事実の検証を試み、本人からの経緯説明もあって、どうやら誤解もあるらしい、ということがわかってきた。けれど、そのことはあまり広まっていない。おそらく世間の多くの人々のイメージは、大きく報道されたような非道な人物像のまま、十分に修正されてはいないのではないかと思う。相変わらず胸が痛い。


問題となった発言のことを、ぼくは昔から知っていた。
それを語った雑誌のうちのひとつを、発売よりは少し後だが買って、読んでいたからだ。

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自戒も込めつつ、当時読んだときの印象を思い返すと——
タブーとされているようなことを、敢えて露悪的な態度で取り上げる類の記事である、ということは一応理解できた。ただ、その記事が真に目指していることがなんなのか、そしてなぜその記事に彼が登場するのか、ということは、よくわからなかった。
こういう内容を喜んで読んではいけない気がするなぁと思いながらも、もともと彼の作品に通底するユーモアが好きだったぼくは、これもブラックユーモアの一種ってことなんだろうか、などと思うことにして、折り合いをつけた。

それから数年が経ち、そんな記事のことはすっかり忘れた頃。
雑誌に書かれた問題発言が、ネットの匿名掲示板に何度も晒されて炎上するのを、リアルタイムで目にするようになった。
ひどい言われようだ、と思いながらも、そんなふうに発言したような記事は確かにあったわけで、反論のしようもない。
「祭り」と称される異様なノリの中、繰り返される罵倒の言葉によって、ファン同士の交流の声がかき消されていくさまを、なすすべもなく眺めていた。
そうした記録が以後も「コピペ」となってネット上に残り続け、ことあるごとに蒸し返されて、その度に彼が非難され続けていることも、知っていた。

そう、知っていながら、何もしなかった。
非難の言葉を見かけても、ただそれを嫌悪して、目を逸らし続けた。
その嫌悪を表明することもしなかったし、あれはよくないことだったが今後を支えていきたいと語ることも、しなかった。

そうやって見ないふりをし続けてきた自分も、この夏の騒動の、責任の一端を担っているような気がしてくる。
それぞれのやりかたで彼の名誉を回復しようと活動する人たちがたくさんいて、眩しい。
本当はぼくも、無条件に彼を擁護したい気持ちが湧いてきてしまうけれど……ぼくには、その資格はないのではないかと思ってしまう。
しかし、もはや彼もまたいじめに遭っているとさえ言えるこの状況で、またしても傍観者になってしまっては、同じことの繰り返しだ。
ならば、できることはなんだろう。

年越しのDOMMUNEのDJプレイと、#聴いて応援Cornelius のハッシュタグがきっかけで、ようやく自分なりの答えが少し見えた。

件の発言の経緯に関しては、彼自身の手による文章で全て真摯に説明されている。だからこそ、それは多くの人に読んでほしい。
その上で、音楽家である彼の味方として、周りから応援をするためには、なにより彼の「作品の素晴らしさ」をきちんと伝えていくことが一番ではないか。

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そんなわけでこれからぼくは、この場を使って、彼の作った曲のひとつひとつを評していくことにした。ゆくゆくは、彼の作品のまとめのように機能させるのが目標だ。
といってもぼくは音楽評論家ではないし、文章のプロでもないから、的外れなことを書くかもしれない。日頃それなりに忙しくしているので、なかなか進まないかもしれないし、途中で力尽きるかもしれない。……つまり、あまり大それたことはできない可能性が高いのだが、日常とのバランスを取りながら、無理なく続けられたらいいなと思う。

もう少し書き溜めてから始めたほうがよかったかもしれないけど、今日という日を始点にしたかった。2022年、1月27日。

小山田圭吾さん。お誕生日、おめでとうございます。
あなたと同じ時代を生きることができて、幸せです。
そして、今日もあなたが生きていてくれて、本当に嬉しいです。
遠くからではありますが、これからもずっと、応援しています。


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