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トレーニーは大豆製品を摂るべきなのか

先日、興味深い記事を見かけました。それがクラシックフィジーク世界ジュニア王者の川中健介選手のインタビュー記事。

「タンパク質をかなり少なくしました。また、炭水化物をお米のみにして多く取るようにしています。タンパク源では、大豆製品の摂取量を多くしています。食事に関しては昨年はそのような形で続けていきました。大豆製品は炭水化物であるお米との相性が良いらしいんです。なので大豆製品もしっかり取っています」
「ですが、プロテインはホエイですし、固形物では肉も食べます。基本食事に大豆製品も取り入れる感じですね。その内容は納豆、豆腐、みそ汁などオーソドックスなものです」

https://www.fitnesslove.net/training/66074/

川中選手は、筋肉の密度が非常に高い身体を持っている選手。このインタビュー記事はフィジークで世界4位をとられた時のものですが、172cmの身長に対して80kgの体重があったようです(もちろんしっかり絞った上で)。

そんな川中選手が食事で意識しているのが、大豆製品を多く摂るということ。

大豆製品はアミノ酸スコアも100で、良質なたんぱく質源であることは間違いありませんが、筋肥大においては、肉や魚、卵、乳製品などの他のたんぱく質食品よりも劣ったイメージがあります。

ソイプロテインも、あくまで乳糖不耐症の方が仕方なく飲むということが多い印象があり、積極的に選んでいる人は少ない印象があります。

そこで今回はトレーニーは大豆製品を摂るべきか否かについて論じていきたいと思います。

大豆製品はテストステロンを減らす?

大豆製品と筋トレの関係を話す際に避けては通れないのがテストステロンのお話。

テストステロンは男性ホルモンの1種で、筋肥大反応の上流に位置する体内物質です。

テストステロンが多い人ほど筋量が多く、加齢によりテストステロンが減ると筋肉が減るため、トレーニーにとってかなり重要な物質と言えるでしょう。

大豆に含まれる大豆イソフラボンは、「植物性エストロゲン」とも呼ばれ、女性ホルモンと似た構造をしています。

そのため大豆を摂りすぎると女性化が起こり、テストステロンが減ってしまうのでは?と考えられているわけです。

しかし、2021年に発表されたメタアナリシスでは大豆の摂取によりテストステロンは上がりも下がりもしないと結論づけられています。

こちらのメタアナリシスでは、41の研究を対象とし、合計1,753人の被験者の研究結果を分析しており、大豆とテストステロンの関係について調べた研究では最も信頼性が高いと言えるでしょう。

ただし、分析の対象となった41の研究のうち、2件の研究ではテストステロンが5~6%程度減少していたようです。これらの研究では大豆イソフラボンを100mg以上と、少し多めの量を摂取していました(豆乳1パックに含まれる大豆イソフラボン量は40mg程度)。

また、メタアナリシスの分析対象に含まれなかった個別の症例報告では、以下のようにテストステロンの低下が確認された事例もあります。

以上より確率は低いかもしれませんが、大豆製品を大量に摂取するとテストステロンが下がる可能性はゼロではないかと思われます。

大豆たんぱく質は動物性たんぱく質よりも優れているのか?

大量に大豆製品を摂るとテストステロンが下がる可能性は多少はあるとしても、基本的にはテストステロンに悪影響を及ぼす可能性は低いことがわかりました。

では、大豆製品を積極的に摂るメリットはあるのでしょうか?

この点について、2023年に発表されたシステマティックレビューにて論じられていたので以下、紹介します。

こちらのシステマティックレビューでは、大豆たんぱく質の摂取による40歳未満の男性のトレーニング効果を調べた19の研究を分析した結果、以下のようなことがわかりました。

  1. たんぱく質の総摂取量が十分でない場合、大豆たんぱく質は動物性たんぱく質よりも筋肥大効果は劣る

  2. 抗酸化作用は動物性たんぱく質よりも大豆たんぱく質の方が優れている

  3. テストステロンアップへの影響はどちらが優れているか不明

それぞれ解説しましょう。

まず、1についてですが、大豆たんぱく質は動物性たんぱく質よりも、ロイシンやメチオニン、システインなどの硫黄含有アミノ酸の含有量が低いです(ホエイはロイシンを12%含むのに対し、ソイは6%程度)。

ロイシンは筋肥大のスイッチを入れる役割のあるアミノ酸。必須アミノ酸の中でも、筋肥大において重要度が特に高いと考えられています。

そのため、総たんぱく質摂取量が少ないと、大豆たんぱく質の摂取では十分なロイシンが確保できず、筋肥大効率が低下するとのこと。

具体的には1日のたんぱく質摂取量が体重1kgあたり1.3g以下の場合、大豆たんぱく質は動物性たんぱく質よりも筋肥大の面で劣る可能性があります。

一方で、体重1kgあたり1.6g以上たんぱく質をとれている場合は、アミノ酸組成のロイシン比率の低さを量でカバーできるため、筋肥大効果は動物性たんぱく質と変わらないとされています。

続いて2についてですが、イソフラボンは高い抗酸化作用を有するため、動物性たんぱく質よりも抗酸化力で優れます。

高強度でのトレーニングでは活性酸素が多量に発生します。活性酸素が多い状態が長く続くと、筋肉が疲労から回復できず、長期的にパフォーマンスが低下する可能性があります。

とはいえ、トレーニングはそもそも筋肉にストレスを与えて、超回復させることで筋肥大反応を誘発させる行為。筋肉にせっかく与えたストレスを除去することは筋肥大的にはどうなのか?という疑問は残りますが、川中選手のような高重量高強度トレーニングをする方にとっては、回復のメリットが大きいのかもしれません。

最後に3についてですが、テストステロンへの影響は、

  • 大豆たんぱく質の摂取により増えたもの

  • 大豆たんぱく質を摂取しても変わらなかったもの

  • 大豆たんぱく質の摂取では変化はなかったが動物性たんぱく質摂取では上昇したもの

など、様々な研究があり、結論がついていない状況です。

現時点では先にも述べた通り、あまりにも過剰な摂取は避けるのが安全かな、と思います。

大豆製品は動物性たんぱく質と併用すべき?

ここまで見てきたデータだと積極的に大豆たんぱく質を摂取する意義はあまり見出せません。

ただし、大豆たんぱく質は乳たんぱくと組み合わせることで、筋肥大効率を最大化できる可能性があるのです。
実際に、ラットに17日間、乳たんぱくのみ、もしくは大豆たんぱくと乳たんぱくの混合物を与えた研究では、混合物を与えた方が腓腹筋の重量が約5%重くなっていたとのこと。

また、ヒトが動物性たんぱく質のみを摂取した場合と、動物性たんぱく質と植物性たんぱく質の混合物を摂取した研究では、混合物を摂取した時の方が長く筋たんぱく合成率が高い状態が保たれていたことが示されています。

大豆たんぱく質には、筋たんぱく質を分解する酵素であるユビキチンリガーゼのはたらきを阻害する作用があることが、上記の結果の一因になっているのではないかと考えられています。

つまりロイシンが豊富な動物性たんぱく質で筋肥大反応を加速させ、大豆たんぱく質によって筋分解を減少させることで、異なる2つのアプローチで筋肥大させることができます。

もちろん、混合たんぱく質に関して人を対象とした長期的な試験は現状確認されていないため、本当に筋肥大するかは不明ですが、参考までに頭に入れておくとよいかと思います。

結局どのくらい大豆製品を摂ればいいのか?

これまでのデータからだけでは、筋肥大における大豆たんぱく質の有効量を示すことは難しいです。

そのため、現状では筋肉に悪影響が出ない範囲で適量取り入れるのがよいでしょう。

最初に報告した症例報告では、豆乳を毎日1.2L飲むとテストステロンが大幅に下がり、女性化乳房が生じました。これはイソフラボンが約250mg含まれる量です。

また、個別の研究ではイソフラボンを100mg程度摂るとテストステロンが数%下がることが報告されています。

そのため、多くともイソフラボンが100mgまでになるように留めておくのがよさそうです。

上記の量を考慮すると、大豆製品は1日2品目程度摂るのがよいでしょう。


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